第3378話 はるかな過去編 ――要請――
世界の情報の消失という果ては世界の崩壊さえ招きかねない事態。それは自然には起き得ないはずの事態で、大精霊達は優れた何者かによる意図的は抹消と判断する。
というわけで大精霊達の指示を受けたカイトであったが、彼はソラ達と共に世界の壁の消失によりこちら側に入り込んだ『狭間の魔物』により軍の一個中隊が壊滅させられたというエザフォス帝国の要請を受け、帝王との会合を持つ事になる。
そうしてエザフォス帝国へ入国し一週間。帝都エザフォスへたどり着いた一同であったが、謁見の当日の朝。謁見までの僅かな時間を訓練場で過ごす事になっていたが、そこでは向こうの思惑により双王と呼ばれる二人の帝王と謁見を果たしていた。
「それで、兄様。私の指示も無視して好き勝手やった手前、所感は聞いておこう」
「まぁ、腕としては悪くはないだろう。平均以上の腕はあるだろう」
「そうか……やれやれ」
どうやら兄妹仲としては良いらしい。流石に何時までも好き勝手もさせられぬと模擬戦を切り上げさせられたわけだが、それでも上機嫌な様子の兄王に妹王は盛大にため息を吐いた。その一方、兄王の方とて何も無策にやっていたわけではないらしい。
「惜しむらくは久方ぶりにカイトと一戦交えられなかった事だが……少なくとも代役は務められる程度の腕はあるだろう」
「ほう」
「あの……すみません。何の話ですか?」
何がなんだかさっぱりな様子のソラがこちらもまた少し見どころはあるかと笑う妹王と兄王に問いかける。模擬戦が終わったと思えば、後ろではカイトが兄王によく似た美女と会談中だ。
何がなんだかさっぱりわかっていなかった。というわけでそんな彼の疑問に、妹王が当然だと頷いてカイトへと視線を向ける。
「だろう……カイト」
「はぁ……かしこまりました」
「そんな顔をするな。こんな非公式な場でかしこまったところでな。貴様も肩の力を抜け。貴様に敬語を使われると座りが悪い」
「ほんとにあんたら兄妹は……オレはおもちゃじゃねぇんだが」
元々カイトも現帝王の兄妹もまた貴族には嫌われている立場だ。しかもずば抜けた戦闘力も持っている。というわけで半ば見世物の様に扱われる事はままあり、お互いに似た身の上と昔は懇意にしていたそうだ。
「くくく……まぁ、良いだろう。貴様とて堅苦しい話は好むまい?」
「まぁ、そうだがな……お望みとあらば」
「それで良い……それで封筒の中身は読んだな」
「ああ……ほら」
なにか苦い顔の様子のカイトから、ソラは封筒を一つ受け取る。そうして彼の促しを受けて、ソラは中身を確認する。
「……軍の調査報告書? しかもこれ……機密文書じゃないですか。大丈夫なんですか、こんなもの出しても……」
「構わん。この機密文書は私や兄様にも機密にしていたもので、私達が独自に手に入れたものだからな」
「え?」
「そういうものだ、何処の国でもな」
驚いた様子のソラに、妹王は少しだけ自嘲気味に笑う。まぁ、ここらは彼も聞いている通り根回しもほぼ無しで帝王の位に就いたのだ。強大な力を有する異族達や軍部の一部、民衆の多くは彼らの就任に賛成してくれていたので統治も出来ているのだが、カイトと同じ様に軍部の一部は二人を嫌っており、情報が隠されていたり秘匿にされていたりする事が多い様子であった。
「……まぁ、そういうわけなのでな。とりあえずは中を見てくれ。話は全てそれからだ」
「は、はぁ……」
帝王が良いというのだ。ならば良いのだろうとソラは少しの困惑を浮かべながらも封筒の中身を確認する。
「……え? これって……え?」
「愚かにもほどがあるだろう? こういった事態となれば本来は私か兄様に報告せねばならん。が、彼奴らは一切の報告を怠っている。さて、この後の会談でこの話をしてくれれば良いのだがな」
おそらくしないだろう。ソラの困惑した顔でおおよそは理解したのだろうと察した妹王が楽しげに告げる。
「これ……ヤバくないですか? 魔族達でさえかなり厳重に封印して、その上で失敗してたみたいですし……しかも今回の案件、聞けば大魔王ってのが直々に主導してるって話ですよね」
「そうだ……やれやれ。何故自国の民より他国の貴様らの方が素直に話をしてくれるのやら」
「は、はぁ……」
妹王の呆れた様子を横目に、ソラは再度資料に目を落とす。そんな彼に、瞬が問いかけた。
「何があったんだ?」
「あ、すんません。はい」
「あ、ああ……ふむ」
ソラから差し出された書類を受け取って、瞬もまた書類の内容を読み取る。そうして彼もまた目を丸くする事になった。
「『狭間の魔物』を捕獲した? 出来るんですか? しかもこの様子だと、『ドゥリアヌ』壊滅の原因がこいつらとわかった上で捕獲してる様子ですが……」
「出来た、のかそれとも出来たと思わされているのか……わからんがな。やれてはいるのだろう」
瞬の問いかけに妹王は盛大に呆れ顔で首を振る。少なくとも魔族達でさえ封印には一度は失敗し、カイトでさえサンプルをこちらで回収する危険度の高さを鑑みて魔族達を逃がすという判断をしたのだ。並大抵の技術で成し遂げられる事ではなく、最悪は『ドゥリアヌ』の二の舞いになりかねなかった。
「まぁ、それに。ここでこの情報を明らかにする意図は察して貰えたかと思う……それで我々の望みとしては、その研究結果の回収とサンプルの廃棄。こんな危なっかしい物を帝都近くの研究所に置いておくわけにもいかん」
「は、はぁ……え?」
なにかいきなり話が飛んだ。瞬――ソラも同じだったが――は妹王の言葉に仰天して目を見開く。まぁ、彼もソラも二人して兄王と模擬戦をしていたのだ。ここらの話はさっぱり理解していなかった。というわけでそう言えば二人はいなかった、と妹王が謝罪する。
「ああ、申し訳ない……如何せん軍の施設ではあるが、我々にも秘密裏に動いている。提出はせんだろう。普通に動いては気取られるし、何よりそちらも情報は必要だろう。我らにも提出しないのであれば、強奪してもらうしかない。ま、我々が許可しているので強奪というより徴収になるかもしれんがな」
「それで自分達に、と」
「隠されていると思うより自分達も参加した方が確かだろう? 我が国としての配慮と思ってくれ」
配慮というが要は手勢だけでは厳しいかもしれないので戦力が欲しいというところだろう。ソラは妹王の言葉をそう理解する。そうして、一同はスイレリア達の会談の裏で軍の施設へと資料を取りに行く事になるのだった。
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