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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3377話 はるかな過去編 ――双王――

 世界の情報の消失という果ては世界の崩壊さえ招きかねない事態。それは自然には起き得ないはずの事態で、大精霊達は優れた何者かによる意図的は抹消と判断する。

 というわけで大精霊達の指示を受けたカイトは自身と組み合わせる事で大精霊の顕現を可能とするソラ達。かつて実兄にして先代の大神官がマクダウェル家の開祖と共に事象の混濁という類似した事態の解決を行った『黒き森』当代の大神官スイレリア。古龍(エルダー・ドラゴン)の端末にしてレジディア王国の聖獣レーヴェという異質な組み合わせで旅に出るわけであるが、その最中。世界の壁の情報の消失によりこちらの世界に入り込んだ『狭間の魔物』により軍の一個中隊が壊滅させられたエザフォス帝国へ招かれていた。

 そうしてエザフォス帝国へ入国し一週間。帝都エザフォスへたどり着いた一同であったが、謁見の当日の朝。謁見までの僅かな時間を訓練場で過ごす事になっていたはずであったが、どういうわけかソラと瞬の二人は帝王の片割れたる兄王の要望を受けて模擬戦を繰り広げていた。そんな彼らの一方。カイトはというと安全圏へ退避しつつ、一人おおよその流れを理解して頷いた。


「なるほど……」

「なにかわかったのですか?」

「ええ……どうやら今回の流れは妹王様により仕組まれたものだったようです。道理で妙に手が込んでいると思いましたよ」


 スイレリアの問いかけに、カイトが少しの苦笑を滲ませる。流石に兄王のつぶやきを聞き取れるほどの距離にはなかったし、念話の兆候も見られなかった。なので口の動きや唐突に兄王が動きを止めた事などから推察し、ここまでの流れを推測したのであった。


「兄王陛下はあまり回りくどい事を好まれないのですか?」

「好まない、というよりもあまり得意ではない、というのは当人の弁ですね。そしてそういうことであれば……」


 おそらくそういうことなのだろう。カイトは兄王の行動から、妹王の動きなどを考える。そうして彼はおそらく、とその場で跪いた。


「ご無沙汰しております」

「……やはり貴様は誤魔化せんか。最初から潜んでいれば大丈夫と思うたのだが……兄様が見込む勇者は伊達ではないな」

「それでも、こうやって色々とヒントが散らばらねばわかりませんでしたよ。流石のお手並みでした」

「よせ。貴様に褒められたところでノワールの腕を知っている以上は嫌味にしかならん」


 現れたのは兄王をそっくりそのまま女性にしたような白銀の美女だ。但し手には兄王と異なり杖があり、髪もロングだ。更には背丈は兄王より20センチほど低く、体つきも女性らしかった。そんな彼女はカイトの言葉に苦笑を浮かべながら、首を振る。


「だからこそ、ですよ。その私を騙せるだけの腕は間違いないかと」

「ふ……そうか。まぁ、それなら受け入れておこう」


 かんっ。妹王はカイトの言葉に僅かに笑うと、兄王達の戦いを他所に杖で地面を小突いて氷で出来た机と人数分の椅子を生み出した。そうして椅子と机を生み出した彼女は、指をスナップさせて帯同させていた従者達の偽装を解除する。


「『黒き森』の御婦人。本来ここは話すような場ではないが……何分謁見の間で話をしようものなら貴族派の連中がうるさいのでな。今回は事前の協議も禄に出来ていない。事前の打ち合わせぐらいはしておきたくてな」

「かしこまりました」


 なるほど。今までのカイトの来訪した時の流れから、おそらくカイトがこの帝城で訓練出来るのはここだけと察するのは十分だ。そしてここが元々兄王専用の訓練場であった以上、兄王が来ても不思議はない。そこから兄王が色々と話を行い、妹王がカイト達の動きを見極めて真実を見定めるつもりだったのだろう。

 とはいえ、相手方はカイトだ。妹王も自分の偽装が見抜かれる可能性は悟っており、万が一の場合には自身が対応するつもりだったようだ。というわけで、スイレリアが彼女へと現状を説明する。


「ふむ……やはりあれは噂に聞く『狭間の魔物』とやらだったか」

「ご存知なのですか?」

「私とてこれでも魔術師の端くれだ。王である前にな……直に見た事はないが、常識の通用せん魔物だとは聞いている」


 スイレリアの問いかけに対して、妹王が頷いた。そんな彼女であったが、おおよそを聞いたからこそその後にため息を吐く。


「にしても……そうか。あの堅牢で知られる『ドゥリアヌ』が一夜にして壊滅、か……それも突き詰めれば同じ案件か。我々が一個中隊の被害で済んだのは幸いと考えるべきか」

「そちらの情報封鎖については?」

「魔物との交戦として軍には報告させている。嘘は言っていまい?」

「確かに」


 どこか傲岸不遜に笑う妹王の問いかけに、今度はスイレリアが同意して頷く。元々今回の一件はカイト達もまたその時が来るまでは秘匿する事で一致しており、大っぴらにはしたくなかった。

 そしてエザフォス帝国側としても魔物に部隊が壊滅させられた事はまだしも、その方法があまりに異質過ぎて情報封鎖をしたかったようだ。


「それでこちら側としての情報だが……まぁ、貴殿らを招いた通り、やはり現れたのは同一の魔物と考えて良いだろう。だが同時に少し情報が異なる部分もある」

「異なる? と、言うと?」

「現れたのは寄生だか融合だかを果たす個体だけではなかった。更に別……戦闘に特化した魔物が居た。一個中隊が壊滅した主たる要員はそれにある」


 ぱちん。妹王はスイレリアの問いかけに再度指をスナップさせる。すると横に控えていたメイドが一個の記録用の魔道具を差し出した。


「これは件の部隊から連絡が途絶えた事を受けて、軍が増援を差し向けた際の映像だ。これを見てもらえれば手早い」


 どうやら論より証拠と確たる証拠を提示する事にしたようだ。妹王は差し出された記録装置を机の上に置いて、撮影された映像を映し出す。そうして映し出されたのは、身体から触手が生えた何十人もの兵士とその中心に居る同じく触手の生えた奇妙な人型に近い魔物だった。


「うわぁお、こりゃぁ……ひどいな」

「流石の勇者も笑わざるを得んようだな……この通り、増援部隊が到着した時には一個中隊は完全に壊滅していたと言って良いだろうな。軍部でも生存者はないものと判断された。ここで重要なのは言うまでもなくこの中央の魔物だ。部隊はこれを守護する様に動いていた」

「こいつが親玉……ってことはないか?」

「ないだろうな。もしそうであるのなら、今頃貴様らに大精霊様から解決の連絡があっておかしくはないだろう」


 流石の光景にカイトも思わず昔の口調に戻ってしまっていたらしい。妹王はそれを咎める事なく、彼同様に苦笑いを浮かべていた。


「まぁ、我々としては単に寄生されたのかと思ったわけだが……事態はそれを上回っていたわけか」

「ええ……寄生ではなく融合。おそらく意識そのものも融合されてしまっているのではないかと」

「厄介な話だ。寄生ならなんとか出来る可能性がなくはないが……融合ではな」


 やれやれ。妹王はスイレリアの言葉にため息を吐いて首を振る。一応エザフォス帝国とて無駄に犠牲を生じさせたくはない。なので救えるなら救うが、救えないなら殺すしかない。今回は無理と判断されたというわけであった。というわけで盛大にため息を吐いた彼女であったが、気を取り直して本題に入る事にした。


「さて……そうなると一つそちらに情報を開示し、助力を求めねばならんようだ」

「助力?」

「ああ……少し愚か者が居てな。その懲罰に手を貸してもらいたい」


 何が起きたかは定かではないが、ここで話す以上は今回の事態に関係がある事なのだろう。一同はそう判断し、先を促す。それに妹王は封筒を差し出して、今回の本題を話す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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