第3370話 はるかな過去編 ――帝都――
世界の情報の抹消という自然には発生しない事態の発生。大精霊より指示を受けてその事態の解決に向けて動き出す事になったカイト。そんな彼は道中かつて彼が属するマクダウェル家の開祖たるリヒト・マクダウェルと共に事象の混濁という事態の解決に尽力した『黒き森』先代の大神官やカイト達と敵対関係にある魔族達もまた今回の事態の収拾に向けて動いている事を知る。
そうしていくつかの出会いを経た彼であったが、今はこの時代最大勢力の一つにして<<七竜の同盟>>と未来において覇を争うこととなる北の帝国ことエザフォス帝国へとやって来ていた。
というわけでエザフォス帝国の最高位。三大将のドラコーン家の子息にして竜騎士団の隊長の一人であるムラトに案内された一同は、ようやく帝都が見える小高い丘にたどり着いていた。というわけで帝都の全貌を見て、瞬が驚きの声を上げる。
「あれが帝都か……大きいな。結界は大丈夫なのか?」
「問題はないんだろう。大結界を展開出来る国だ。自国の首都の結界を疎かに、なんて事にはならないはずだ」
「肯定……帝都の結界に問題は一度もない。魔族達さえここまでは到達出来ていない」
カイトの推測に対して、グラキエースがはっきりと頷いた。なお、これは流石にカイトの前なので語らなかったが、帝都はこの丘やらに手を加えて小結界と呼ばれる軍事的な結界が展開出来る様になっているらしい。なので全く問題ないという言葉は真実であった。とはいえ、魔族達が帝都まで攻め込めていない理由はまた別だった。
「まぁ、帝国はウチと違ってガッツリ魔族の制圧地に接してるわけじゃないからなぁ……北の砦……そっちからすると南の砦付近だろ」
「肯定……それにあれは……」
「まぁなぁ……帝国が一番痛い目に遭ったといえば遭ったか」
レジディア王国と仲の悪いと言われるエザフォス帝国であるが、それでも正面切ってレジディア王国と光線状態に陥れない理由は大きく三つある。
一つはレックスの存在。もう一つはレジディア王国が同盟を結ぶ<<七竜の同盟>>だ。ここまでは自然だろう。
最後は、魔族達が制圧する大砦。カイト達からすると北の砦。エザフォス帝国からすると南の砦の存在だ。大将軍級の魔族が守るこの砦を落とすのはカイトとレックスが揃ってすら厳しいのだ。
大将軍級の魔族を単独で倒せるカイトやレックスが居ない以上、勝つには大量の犠牲を生じねばならない。いくら人材豊富と言われるエザフォス帝国であれ、いくらなんでもこの二正面作戦は不可能なのであった。というわけでその砦のことを思い出して、グラキエースが不満げに口を開く。
「肯定。あれは卑怯。戦争に卑怯も何も無いけれど、あれは度を越している」
「何があるんですか? その北? 南? だかの砦には」
「<<雷撃砲>>……オレ達はそう呼んでる」
「肯定……私達は<<女神の怒り>>」
「大体巨大な大砲……というわけか?」
「そう考えて貰って構わんよ」
瞬の問いかけに、カイトは一つ肩を竦める。そうして彼は以前威力偵察を行った時に入手した写真を瞬へと見せてくれた。それは後ろに映る砦より巨大な大砲だった。
「これが<<雷撃砲>>だ」
「……砦より大きいな」
「ああ……大体この砦の高さが100メートルほどだから、その1.2倍ぐらいか。これが北と南の両側にあるんだ」
「なるほど……連射力としては?」
「チャージに大体30分。連射力よりマズいのはその火力だ。帝国が一度これに攻め込んで、完全武装の重装兵で構築された百人隊が二つ三つほど一撃で吹き飛ばされてる」
「完全武装の重装兵……とどのつまりソラが三百人ほど、ということか?」
「そう考えて良い」
「どうなったんだ?」
「完全に消し飛んだ、だそうだ」
「怖いな、おい!」
どうやら竜車が停止した事でソラが窓を開けて外の会話を聞いていたらしい。自分クラスの重装備の戦士が数百人規模で消し飛んだ、と聞いて恐れ慄いていた。というわけで口を挟んだ事をきっかけとして、彼も窓から外に出て帝都を直に確認する。
「はー……大体直径1キロか2キロぐらいか?」
「そんなぐらいかもっと広いだろう」
「ふーん……でも完全に円形ってわけじゃないのな」
「言われてみれば……確かにな」
「肯定。帝都の結界はある程度の自由が利く。だからこうして円形にこだわらない街を作れる」
「「「へー……」」」
どうやらここらはカイトも知らない事だったようだ。グラキエースの言葉に彼を含めて感心したような様子だった。
「あ、そうだ。今なんで止まってるわけ?」
「ん? ああ、少し前に話した竜騎士達が今帝都への入場許可を確認してくれているんだ。まぁ、そこらは問題ない事は確実なんだが、出入りの際に問題がないかっていう所だな」
「あー……一応客になるから、って所か」
「そういうことだな」
これだけ大きな都市だ。必然として出入りの数も膨大な量になるのだろうが、そうなると必然警備にも問題が出やすい。そして一同が今護送しているのはスイレリアとレーヴェ。万が一何かがあれば大陸全土のエルフとレジディア王国を完全に敵に回す事になる。万が一がない様に色々と確認が必要になるのは仕方がない事だろう。というわけで停止の理由に納得したソラが先程の話に戻る。
「で、何が俺が三百人ほどなんだ?」
「北の砦の話だ。あれにこんな……<<雷撃砲>>っていう巨大な大砲があってな」
「はー……確かにデカそうだな」
「疑問……あんまり驚いてない?」
どうやら瞬もソラも印象としては巨大な大砲だという程度で、その大きさにさほどの驚きを得ている様子がなかったことがグラキエースには意外だったらしい。とはいえ、それは無理もない事だった。
「あぁ……その昔これより一回りぐらいは小さい大砲見た事あるんっすよ」
「見たことがある、というよりあれはこちらが攻め込む側だったがな」
「っすねー……」
二人が思い出すのはラエリア内紛での最終盤。帝政となる以前のラエリア王国第二の都市ラクシアだ。そこでは大大老が建造させた巨大な砲が待ち受けており、その攻略には未来のカイトを含め手を焼いたのであった。というわけでその存在を知る事になったカイトが盛大に顔を顰める。
「こんなもんもあんのかよ」
「あはは……まぁ、そんなわけで。ヤバいのは大体わかった。射程もヤバい……んだろうな」
「だろうな……費用対効果の側面からどこまで伸ばせるかはわからんが、相当広い事は事実だろう」
ソラの推測に対してカイトも測った事はないがと頷いた。というわけでそんな話をしながら次の指示を待つ一同であったが、しばらくするとムラトが再び現れる。
「待たせた。帝都への入場許可と周辺に問題ない事が確認出来た。行こう」
「わかった……どっちが御者をするんだ?」
「ああ、先輩。俺が変わりますよ。出たんで」
「ん? 別に良いが……」
「まぁ、大丈夫っしょうけど。一応先輩もちょっと休んどいた方が良いかと。あそこまで多分まだ三十分ほど掛かるでしょうし。それぐらいあれば回復薬で魔力の回復とかも出来るでしょうしね」
「そう……か。そうだな。わかった。そうさせてもらおう」
今回は国賓として招かれているので戦闘が起きるとは思えないが、万が一何かがあって戦闘になったら大変なのだ。というわけで瞬はソラの助言に従って中へ入り、ソラは改めて御者を入れ替わりカイトと共に帝都エザフォスへと入るのだった。
お読み頂きありがとうございました。




