第3358話 はるかな過去編 ――更に北へ――
世界の情報の消失という事態の発生を受けて、大精霊達の指示を受けながらシンフォニア王国の各所を巡っていたカイト。そんな彼であるが、道中で魔族達もまた今回の事態を重く見て大魔王直々に事態の収拾の指示を出している事を知る事になる。
そうして魔族からの情報提供を受けつつも再度活動を開始するカイトであったが、その最中。今度はレックスから要請が入り、今回の事態の情報を掴んだ北の帝国こと『エザフォス帝国』の要望を受ける形でそちらへ赴く事になっていた。
というわけで今度は『エザフォス帝国』にて帝王と会合を行う事になったカイトは北へと進路を取り入国を果たすわけであるが、そこで早々に貴族派と呼ばれるカイト達を招いた帝王派と敵対する勢力による妨害を受ける事となり、そこで帝王派に属する北の帝国の若き英雄グラキエースと会合を果たす事になっていた。
「そう言えば……あれはどこの兵士だ? 貴族派だというのはすぐに分かったが」
「不明……興味もなし。ただ陛下を疎む勢力である事に間違いはなし」
「そりゃ見りゃわかったが」
先ほどの護衛隊であるが、ソラも瞬もすぐに気付いた様に明白な違和感があった。それをカイトが指摘する。
「兵士の装備がなぁ……帝都に向かうってのに薄すぎる過ぎるんだよ。帝都の兵士は使う魔術もあるが防寒性に優れた装備をしてるのは有名な話だ。流石に急すぎてそこまで気が回らんかったんだろうがな」
「肯定」
おそらく他国なので上手くやれば騙せると考えていたんだろうが。カイトは先程の兵士達全員の装備を思い出し、あまりにお粗末な始末にため息を吐く。とはいえ、そうであるのなら考えられる結論は限られた。
「オレが行くこと、伝わってなかったんかね」
「不明……でも多分、伝わっていたとしてもワンチャンに賭けてた。貴方であれば殺されはしないだろうから」
「まぁ……一応は他所様の兵隊だからなぁ……」
今回一応は『エザフォス帝国』に招かれている形だ。流石に違う派閥とはいえ国に属する兵士を殺すわけにはいかないだろう。戦闘になったとしても手加減はせねば外交問題になりかねなかった。というわけでやれるだけやってみるか、と考えたのだとカイトも判断する。
「やれやれ……とはいえ、どうにせよラキを甘く見たのも大きいか。そもそもお前が伝令に来て帝都に戻ったとは考えられん。氷像を知らん末端貴族か」
「肯定」
氷像というのは先にグラキエースが使用した氷像を用いた連絡網で、彼女は実は帝都にも氷像を置いている。それを介して帝都と常に連携を取れる様にしているのであった。なお、先の男性の氷像はあくまでもメッセージを伝えるだけのもので、本人と話しているわけではなかった。というわけで自身の推測に同意するグラキエースに、カイトもため息を吐いて頷いた。
「だろうなぁ……碌な情報は持ってなさそうだが、どういう繋がりか程度はわかるか。それで、とりあえず。これから一直線に帝都へ向かうで良いのか?」
「肯定……途中で止まる必要もない。道中の宿などは全てパーパが手配している……はず」
「あー……まぁ、今回は一応は軍事だから……大丈夫……だろ。多分……」
なんでグラキエースは不安げで、カイトは苦笑いなのだろう。二人のみ理解しているらしい様子に、ソラも瞬も遠目に二人を見ながらそう思う。とはいえ、聞かないでも普通に原因は口にされる。
「否定……パーパは才能も性能も興味も全て極振り。信頼しない方が良い」
「野宿は嫌なんっすけど」
「肯定……手は打ってきた。私も野宿は嫌」
「さいで」
どうやら他国では恐ろしい将軍と言われる<<厳冬将軍>>も、彼を知る周囲からは色々と難のある人物と考えられているようだ。
そして言うまでもなく、グラキエースはその被害を被ってきたのだろう。むべなるかな、であった。というわけでどこか据わった目で告げる彼女に、カイトは苦笑いの色を深めるだけだ。というわけでそんな彼をグラキエースがまっすぐ見る。
「提案……万が一の場合は宿泊希望。お礼は身体で」
「結局オレ頼みかい!」
こいつもこいつで何を考えているかわからん。カイトは最終手段として提案を行うグラキエースに思わずたたらを踏み声を荒げる。が、道理はあるにはあった。
「質問……野宿の方が良い?」
「まぁ……何度も何度も野宿はさせられんしそのための荷車も用意してるけど……」
拠点として運用する荷車を見ての問いかけに、カイトも拒否はしずらかった。言うまでもなく後ろにはスイレリアと聖獣が居るのだ。
この二人は共に本来ならば国賓級の扱いをせねばならない相手で、事情が事情だし当人達は楽しんでいるので今のところ野宿でも問題はないが、あまりそれに甘えすぎると各所のお偉方が良い顔をしない。そして当人らの性格はカイトも理解している。というわけで、カイトは諦めた様に頷いた。
「はぁ……わかった。確かにオレらだけ良い環境ってのは大神官様が良い顔をなさらないだろう。万が一の場合には空間を開く。あと毎度の事だが……人の部屋に入り込もうとしたら叩き出すからな」
「感謝」
ぺこり。グラキエースはカイトの応諾に頭を下げる。というわけで、彼女は改めてこれからの予定についての話に戻る。
「予定……ここから一直線に帝都だけど、基本街道は使わない。待ち伏せされる」
「あー……確かにここから数日。しかも帝都付近の貴族は準備出来るか。道中足止め食らうと面倒か。何より時間も潤沢というわけでもないしなぁ……」
カイト達としても今回の謁見は予定になく、そして何時事態が急変するかもわかっていない。一応ベルナデットは諸々を理解してまだ最悪の事態は起きないと判断し、動いていないという程度だ。
その彼女にしたってセレスティア達の述べる『ヴィベルイの戦い』以外何が起きるかはわかっておらず、『ドゥリアヌ』壊滅もわかっていなかった。他に大きな出来事が起きる可能性は否定出来ず、あまりこの最北の地で留まるわけにもいかなかった。というわけで速度を重視したいという彼女に、カイトが問いかける。
「だがそれならどうするんだ? 途中宿場町には立ち寄るんだろう?」
「否定。宿場町は寄らない……帝王派の領地を抜ける。地図を持ってきた」
「そうか……なら一度荷車の中で話すか」
「肯定……それにご挨拶もしていない」
「ああ、そういえば」
グラキエースの指摘に、カイトは流れで色々と話し込んでしまっていたがと思い出す。一応表向き今回の使者はカイトだが、本命はスイレリアと聖獣だ。そうである以上、護衛の総隊長を務める事になるグラキエースが彼女にお目通りしないわけにもいかない。勿論、謁見が叶う地位も持っている。というわけで出発を待っていたソラと瞬に、カイトは告げた。
「二人共、悪いがこのまままっすぐ……で良いのか? とりあえずは」
「肯定。暫く進んだ所で部隊が待機している。それに合流するまでは街道を進む」
「だ、そうだ。ひとまず竜車を進ませておいてくれ。その間に中で今後の予定を詰めておく。ああ、通信機はオンにしておいてくれ」
「わかった」
「了解」
どうやら今回は普通ではないルートを通って帝都を目指す事になりそうだ。そう判断したカイトはスイレリアらにもそれを共有するべく一度打ち合わせを行う事にしたようだ。そうして、ゆっくりと竜車が進み出す一方でカイトはグラキエースと共に荷車に入り今後の予定について話し合う事にするのだった。
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