表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3374/3939

第3357話 はるかな過去編 ――入国――

 世界の情報の消失という事態の発生を受けて、大精霊達の指示を受けながらシンフォニア王国の各所を巡っていたカイト。そんな彼であるが、道中で魔族達もまた今回の事態を重く見て大魔王直々に事態の収拾の指示を出している事を知る事になる。

 というわけで魔族側の意図により情報提供が行われ、今回の事態は人類・魔族問わず解決に動く事を決定。本来は敵である両者が現場で繋がり事態の解決に向け奔走するという異例の状況になっていた。

 そうして大精霊達の指示により再度活動を開始するカイトであったが、その最中。今度はレックスから要請が入り、今回の事態の情報を掴んだ北の帝国こと『エザフォス帝国』の要望を受ける形でそちらへ赴く事になっていた。


「さて……」


 何が待っていることやら。カイトは北も北で帝王派と貴族派で争いを繰り広げている『エザフォス帝国』の内情を思い出し、僅かに警戒を滲ませる。

 とはいえ、下手に警戒を滲ませ過ぎても今度はソラ達まで警戒してしまい、身が保たない。どうしたものかと考えていた。そしてそのおかげもあり、御者席に着いた瞬も緊張はほとんど見られなかった。


「カイト……そう言えばここから帝都? とやらまで何日ぐらいなんだ?」

「一直線で行けるのなら、魔術込みで最速片道一週間って所か。ああ、いや。今回は竜車だからその半分……片道三日四日って所か」

「えっと……途中停止無しだと魔術の補佐ありで最大時速は100キロか。だが移動可能な時間が短縮されて一日に進める時間は5時間程度………確か東京大阪間が500キロ……だったか。それが4日分となると……」

「大体東京から1000キロで鹿児島らしいっすよ」

「……沖縄……よりもっと遠いだろうな。台湾あたりまで行きそうか?」

「どうなんっしょね。そんぐらいかと」

「それはわからんが……まぁ、遠いな」


 当たり前だがこのカイトに東京や大阪なぞ言ってもわかるはずもない。とはいえ、この状況で出したのだから起点となる東京からかなり離れた地名なのだと察してはいたようだ。

 ソラと瞬の会話に苦笑を滲ませる。とはいえ、苦笑してばかりもいられない。彼もまたエドナに跨り入国に備えつつ、本題に入る。


「それはそれとして、だ。護衛の兵団はおそらく地竜の軽装備の連中になるだろう。速度重視ってわけだな」

「あー……一応こっちは牽引力が強い地竜だけど、確か魔術の効果は強い種類なんだっけ?」

「速度が求められる状況もあるかもしれなかったからな」


 言うまでもない事だが、今回の事態は何時どこでどのような事象が発生するか誰にもわからないのだ。なので移動拠点の力を持ちつつも、即座に現地に駆け付けられる速度も要求された。そこらを勘案した結果、今回の地竜が選ばれたのであった。


「ま、そういうわけで速度タイプの地竜達にも速度で引けはとらん。勝てないまでも負けない速度で移動する事が可能だ。一直線に進めれば問題ないだろうし、帝王陛下としても一直線に来て欲しいだろう」

「どこかで横槍を食らわない様に、か」

「そういうことだな……っと」


 どうやらおしゃべりしていられるのもここまでらしい。カイトは緩やかに開いていく一般用の出入り口とは別。カイト達の様に招かれた者が使う別の扉が開かれる。そして開かれた扉の先から、先の職員が現れた。


「マクダウェル卿。おまたせいたしました」

「ああ……そちらは?」

「護衛を取り仕切るエリツェフです。お見知りおきを」

「そうでしたか。世話になります」


 エリツェフ。そう名乗った壮年の兵士に、カイトがエドナから降りようとする。が、これにエリツェフが頭を振った。


「ああ、結構です。時間がないですし、何よりあまりここで時間を費やすと……まぁ、よからぬ事を考える者も出ますから」

「そうですか。それでしたら馬上からで失礼します」


 一応は形ばかりでも挨拶はしておきたい。そういう素振りを見せたカイトに、エリツェフも差し出された手を握る。そうして一同は少し駆け足気味に検問を通り、『エザフォス帝国』への入国を果たす。

 するとこちらはシンフォニア王国への入国審査待ちの民衆から少し離れた場所ではすでに十数人からなる兵士達が待っており、何時でも出発出来る状況が整えられていた。というわけで、検問の職員とはそこで別れてエリツェフと共に進む一同へと、エリツェフが情報を共有する。


「食料などについてはこちらでご用意しております」

「ありがとうございます。今回、我々はどこで陛下に謁見すれば?」

「帝都となります……流石に急すぎて、陛下も身動きが取れない状況です。ご容赦頂ければ」

「ああ、いえ……それは構わないのですが……」

「……ああ、防寒具ですか。それも勿論、我々の方でご用意しております」


 先にも言われているが、帝都に行かねばならないなら防寒具は必要になる可能性がある。が、元々『エザフォス帝国』に行く事なぞ予定になく、用意なぞ一切していない。カイトの懸念は当然であった。それを少しだけ遅れて察して、エリツェフは笑って明言。そんな彼にカイトも安堵を滲ませた。


「ありがとうございます。こちらはもうそろそろ夏も近く、流石に防寒具なぞ倉庫の奥でしたから」

「あははは。私は帝都出身ではありませんが、実はより北の出身でして。ここらは私からすれば暑くて暑くて」

「あははは。いやはや我が国も比較的大陸では北にありますが、それでも貴国よりは温かいですか」


 当たり前の話であるが、カイトは政治家として教育されていないだけで高級軍人としての教育は受けている。なのでこういったやり取りは普通に出来たようだ。

 とはいえ、彼は勇者として様々な修羅場を潜り抜け、そして同時にシンフォニア王国国内では貴族派とでも言うべき者たちと暗闘を繰り広げているのだ。社交辞令を交わしながらも、見落とすべきではない部分は見落としていなかった。


『ソラ、瞬』

『ああ』

『わかってる』


 どうやら二人共半ば察してはいたようだ。カイトは念話から僅かに伝わる二人の警戒にそれを察する。とはいえ、今ここで大立ち回りなぞしてしまえば一般人に被害が出る。今はまだ、その時ではなかった。

 というわけで二人はあくまで話に割り込める様子がないと判断して黙しているだけを装い、カイトを先頭にして護衛隊の所まで移動する。そうして到着して早々、部隊の一人がエリツェフへと地竜を差し出す。


「隊長。地竜を」

「ああ……では、よろしいですか?」

「ええ……っと、その前に一つ伺っても?」


 どうやら警戒の必要はなかったらしいな。カイトは護衛隊の兵士達が何も気付いていないのを理解して、警戒を解く。そして彼はこれから自分達が向かう帝都への道を指し示して問いかけた。


「そこのフードのご令嬢は、皆さんのお知り合いでしょうか?」

「「「……え?」」」


 いきなり何なのだ。カイトの発言に、エリツェフを含む護衛隊の全員が困惑を露わにする。そして、それと同時。振り向く事を含めて一切の動きを許さぬ絶対零度の風が吹いた。


「「「……」」」


 絶対零度の風が吹いた次の瞬間。エリツェフを含む護衛隊の兵士達が全員揃って物言わぬ氷像と化す。それに、カイトがため息を吐いた。


「はぁ……貴族共も舐め過ぎだな」

「即興。やむを得ない」

「だろうな。お前も最速。レックスも最速。貴族共が十分な準備を行える時間なぞなかっただろう」

「……何処に向かって話しかけてるんだ?」


 おそらく先にカイトが指し示したフードを目深に被った人物こそ、今回の攻撃の仕掛け人なのだろう。そう察した瞬であったが、カイトが見ているのは全くの別。なにもない明後日の方向だった。が、その次の瞬間。一同の見守る前で令嬢だと思われたフードの人物が砕け散って氷の欠片となって舞い散った。


「「っ」」


 ソラと瞬の二人は、背後を取られた挙げ句氷の短剣を喉元に添えられて思わず息を呑む。何をしているかは定かではないが、どう見ても二人により攻撃を受けていた。

 どちらかが氷で作られた偽物で、どちらかは本物。それは二人もわかっているが、ソラは瞬。瞬はソラの後ろに立つ人影を見ても、背後の気配を読み取ってもどちらが偽物と断言する事は不可能に近かった。


「「愚昧。暗愚。蒙昧」」


 かしゃん。冷酷な声で断言する少女の声が響くと、二人の背後の人影が共に砕け散る。どちらも偽物だった。そして今度こそ、本物が姿を現した。それは彼女の行動に呆れた様子のカイトの真後ろだった。


「質問。遠足でもしに来た?」

「お仕事だよ。それとお前のお眼鏡に叶う猛者なんぞ早々いやしないだろう……はぁ。よいしょっと」


 背後からの問いかけに答えながら、カイトはエドナから降りる。そうしてそれと共に少女もまたフードを下ろした。


「「……」」


 似ている。二人はフードを下ろした顔が四騎士の一人。ライムにそっくりである事に息を呑む。その一方、カイトは凍りついた護衛隊――正確にはそうではない様子だが――を見る。


「あぁあぁ、完全に芯まで凍りついてら。こいつら、どうするんだ?」

「放置。回収は指示済み……殺してはいない」

「そうか……まぁ、他所様の事だから何か言える立場にゃないか」

「質問。殺して欲しい?」

「いらねぇよ。お前時々物騒になるのやめれ?」


 顔や仕草、言動には似合わぬ若干熱の籠もった視線を向けられ、カイトは盛大にしかめっ面で首を振る。それにライム似の少女はため息を吐いた。


「残念。とても残念」

「はぁ……いいよ、もう。それで、陛下はなんて?」

『帝都にて待つ。此度の仕儀は非常に重い故、我ら兄妹揃って聞こう』

「「……」」


 なにあれ。ソラと瞬はおそらく帝王を模したと思われる男性の氷像が動いて男性の声で告げる言葉に、思わず目を丸くする。一方、カイトは芸達者な彼女には慣れっこだったようだ。


「わかった……今回の護衛は? ラキだけか?」

「否定。遅いから置いてきた。途中で合流する」


 ラキ。カイトがそう呼ぶ女性で、ここが『エザフォス帝国』である事を考えれば彼女こそがグラキエースその人なのだろう。というわけで北の帝国最大の英雄の一人グラキエースと共に、一同は帝都を目指して出発する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ