第3353話 はるかな過去編 ――推測――
世界の情報の抹消。自然には起き得ない事態の発生を受け、大精霊の指示によりその調査に乗り出したカイト。そんな彼は未来から来たソラ達と共に調査を行っていたわけであるが、そんな一同が訪れたのは戦争の勃発による戦力再編成の煽りを受けて放棄されたとある鉱山地帯であった。
しかしそんな鉱山で目の当たりにしたのは、魔族が出没するという噂を調べにやってきた調査隊が無惨にも壊滅させられている光景であった。
そうしてそんな調査隊の壊滅から紆余曲折を経て潜んでいた魔族と交戦したカイトであるが、その中で魔族がこの鉱山に来た理由が自分達と同じく世界の情報の抹消にある事を察知。魔族の調査隊が残した情報を精査し、彼はアルヴァらへと報告を行っていた。
『……それはそうとしか言いえないのがなんとも言い難い所だね』
「ええ……いくら魔族とてこの世界そのものが滅んではどうしようもない。大魔王様とやらが何を考えているかは未だ何もわかりませんが、あちらも中央に拠点を置いている以上気付いていて不思議はない。である以上、座視はしていられないでしょう」
『だろうねぇ……はぁ。本当に今回の下手人は何を考えているのやら』
カイトの報告に、ロレインは盛大にため息を吐く。これで今回の事態を引き起こした下手人はカイト達に加えて、それ以上と噂される魔族の王の中の王。大魔王まで敵に回した事が確定したのだ。何をどう考えてこんな事態を引き起こしているのか、ロレインにはまるっきり想像が出来なかった。そしてそれはカイトも同様だ。
「いっそ何も考えていないのでは、と思いたいですね」
『それはあり得るね。そうでもないとこんな馬鹿げた事態を引き起こすなんて無理な話だ……この世界に存在しているほぼ全勢力を敵に回しているわけだ。しかもこちらの背後には大精霊様までいる。魔術師であればこの意味を理解できないわけがない。上手く立ち回っている様子だが、それとていつまで続けられる事やら』
何度か言われているが、大精霊は一方への肩入れが出来ないが故に魔族との戦争においても人類に協力してくれることはない。契約者となったとしても、その契約者として行使できる力が限度。それ以上は無理だ。
が、今回の事態の様に世界を破壊するような行為については話は別だ。その属性を司る者の中で最上位。全ての世界の情報にアクセス出来る、神以上の権能を行使してくる相手だ。勝ち目なぞあり得なかった。
『やれやれ……まぁ、良いだろう。わかった。とりあえず今回の一件に魔族の妨害がない……いや、それどころか向こうも内々に足並みを揃えてくれるのであればかなり有り難い。ノワールくんであればまた別だが、こちらの並の魔術師は魔族の魔術師の足元にも及ばない。情報共有が出来るのであれば、こちらとしても有益だろう』
「かと……とはいえ、前線の兵には知らせるべきではないでしょう。どんな問題が引き起こされるかわかったものではない」
『だろうね……わかった。本件は軍本部とこちらのみで共有。一般の兵士には教えない事を命じておこう』
「はっ」
ロレインの同意と今回の一件の取り扱いに、カイトは一つ頭を下げる。そうして諸々の報告が終わった所で、通信は終了する。
「ふぅ……」
「入っとるぞー」
「ああ……どうだった?」
「やはり穴が空いた形跡があったのう。が、足跡などは残っておらなんだ」
「そうか……まぁ、そこらはわかった上で来たわけか」
聖獣の言葉に、カイトは一つため息を吐く。彼が今回の魔族からの情報共有やこちら側の調査隊の日誌を調べている傍ら、ソラ達は手が空いている事もあり本来の予定通り聖獣とスイレリアを頼りにして情報消失点の周辺を調べて貰っていたのだ。
「うむ……ああ、とはいえ。直下に死臭が残っておった。人の身にはわからぬ程度であったが……おそらく、という所であろうな……ああ、すまん。場所としては空中。地上から10メートルほど上空という所であろうか。そこに穴が空いた痕跡があった」
「ということはそこから『狭間の魔物』が現れて落下。そのまま真下にあった冒険者の遺体に取り付いた、ってわけか」
「そこらの選別を行える知性はない、と考えてよかろう。その冒険者が何者かはわからぬが……ま、おおよそお主らのような猛者ではあるまいて」
推測を口にする聖獣であるが、その冒険者の死因を聞いていたからかかなり呆れた様子かつそれで死ぬのであればと考えていたようだ。そしてこれにはカイトも同意する。
「流石になぁ……食いたくはないが、ゴクラクタケを口にして死ぬ程度ならその程度ってわけだろう」
「ありゃ確かに美味いんで、上手く料理すれば良いんじゃがのう」
「食いすぎると腹壊すぞ?」
「妾の腹は聖獣として頑丈にできておるぞ」
「どうだか」
聖獣の言葉にカイトは呆れた様に笑う。とはいえ、こんなものはどうでも良い事だ。というわけでカイトもすぐに気を取り直して話を修正する。
「まぁ、そんなもんはどうでも良い。それで、他に何かあったか?」
「うーむ……一応ゴクラクタケが生えておるのは見付けたから、そうじゃろうなぁとは思った程度か」
「そうか……まぁ、そこらの遺品類は全部魔族共に回収されちまった感じか」
元々軍医のカルテなどにも遺品から冒険者と推測されるとあったのだ。そして医療用のテントからは軍医のカルテを筆頭にして遺品を一時保存しておく容器なども全て失われており、魔族が回収したと考えて間違いなさそうであった。
「そうじゃろう……ま、どうにせよ遺体がない以上は探す意味はあるまいて。そう言えば日誌にあった残る二名の兵士については何かわかったのか?」
「ああ、それか。おそらく魔族がこちらも連れ去ったのだろうと判断された。増援部隊の持ってきた人数のリストにも二名分遺体が発見されていないという事だったから、間違いないだろう。増援の軍医の検分でも該当箇所の怪我がある遺体はなかったとのことだ」
「となると、そちらは変異が早く魔族共に始末されたか」
「だろう」
怪我をした場所が影響しているのか、それともまた別の要因か。カイトも聖獣もそこらはわからなかったが、調査隊の日誌によると先に自らの異変を感じ取ったのは兵士達で間違いなさそうだ。
そして金属の円筒の中を見たというサルファの言葉によると運び出されたのが変異した軍医であると考えられるのであれば、この兵士達はすでに変異して殺されたと考えて良さそうであった。
「やれやれ……少し厄介な事にはなってきたが」
「少しずつではあるが、同時に情報も歩調も整う様になってきたのう」
「これが魔族相手だってのがオレとしちゃ複雑な感じだがね」
聖獣の言葉にカイトは少しだけ苦笑いを浮かべる。魔族とは言うまでもなく敵だ。その敵と足並みを揃える事になってしまっている現状は、やはり彼としても複雑な物があっただろう。
「まぁ、良い。とりあえず次の所へ向かう事にしよう」
「次はどこじゃ?」
「サルファから情報を教えてもらった……一度全員で集まってまたその話をするかね」
聖獣の問いかけに、カイトは会議で使用していた地図を丸めながら答える。そうして、カイト達は少しの収穫を得てこの鉱山を出発する事になるのだった。
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