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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3350話 はるかな過去編 ――調査――

 世界の情報の抹消という自然には起き得ない事態の発生を受けて、その調査に赴く事になったカイト。彼は未来から来たソラ達。『黒き森』の大神官スイレリア。古龍(エルダー・ドラゴン)の末端にしてレジディア王国の聖獣と共に行動を開始する。

 というわけで色々と調査を重ねていたわけであるが、その中で魔族の出没が噂されるとある放棄された鉱山地帯にも情報消失点が発生していた事を察知。そこへ赴いた一同が眼にしたのは、魔族により壊滅させられたシンフォニア王国の調査隊であった。

 そうして魔族達との交戦を経て、一同は魔族が『狭間の魔物』に融合された軍医を確保していた事を知ると、それをこちらが入手する危険性を鑑みて輸送隊を見逃す事として程々の所で戦闘を終える事になっていた。そしてそれは、魔族側も理解していたようだ。


「……逃された、という所か」

「奴らもあの中身を理解している、というわけですね」

「そういうことだろう……嫌になるな。大魔王様のご命令でもなければ運びたくない所だが」


 おそらく銀剣卿が少し距離を取っている様に見えるのは、決して気の所為ではないだろう。イブリースは銀剣卿と共に魔術で強引に封印した『狭間の魔物』に侵食された軍医を見る。


「存外変異する前に戻れただろうが……いや、それは言っても詮無きことか」

「かと」


 実のところ、魔族達が鉱山から撤退出来なかった理由は単純。彼らが軍医を確保したタイミングではまだ軍医の意識は明瞭で、変異が終わっていなかったからだ。そして変異が何時終わるかは魔族達にもわかっていなかった。というよりそこらを調べるべく情報を集めよ、というのが大魔王の命令だった。


「経過のデータは?」

「二重に確保しています」

「……奴らは?」

「問題はないかと……万が一の場合には備えておりますが」

「そうか」


 奴ら、というのは円筒が弾け飛ぶ瞬間に近くにいた魔族達の事だ。一応イブリースが即座に状況を確認し、触手に貫かれた様子がない事は明白ではあると断言出来た。

 が、相手は未知数な所が多く決して油断出来るわけではなかった。なので彼らには密かに鉄鞭の欠片を貼り付けており、万が一にはゼロ距離でそれを炸裂させて消し飛ばすつもりだった。というわけで一応の安全は確保されていると理解して、銀剣卿が僅かにため息を吐いた。


「……にしても、大魔王様は一体どこからこのような情報を入手されたのか。いや、地脈の集結点を抑えている以上、世界の情報の消失が起きた場所を探すぐらい大魔王様にとって造作もない事だとはわかるが」

「わかりかねますが……まぁ、大魔王様の見識が我らの及ばぬ所にあることなぞ今に始まった事でもないでしょう」

「それはそうだが……」


 色々と粗野で乱雑と言われる事の多い魔族達であるが、そんな彼らとて当然だが死にたくない。そこになんの違いもありはしない。

 違うとすれば戦って死ぬのならまだ納得も出来るが、世界が崩壊した結果それに巻き込まれて死ぬなぞまっぴらごめんだという所だろう。なので大魔王が世界の保全に向けて動く様に号令を発した事そのものには特に異論はなかったが、それにしたって動きが早すぎた。


「……まぁ、良い。とりあえず本隊と合流するぞ。妨害はないだろう……イブリース。餌は撒いておいたな?」

「餌とは言い難いですが……」

「それはそうだが……ふぅむ……」


 イブリースの言葉に、銀剣卿はもしかするとここにカイトが訪れる事もまた大魔王の想定内だったのかもしれないと思う。


「いや、そこまでは想定されていないか」

「どうしました?」

「いや、あの男があそこに来た事が偶然か必然かと考えていたのだが……大魔王様と言えど勇者カイトが動く事までは見通せても、あそこにヤツが来る事までは想定していないだろうとな」

「どうでしょう……情報消失点の候補地は幾つかありましたから、偶然の遭遇だとは思いますが……」


 それがわからないことこそ、大魔王の軍略家としての底知れぬ恐ろしさという所だろう。もしかしたらそんな神がかった事さえ出来るのかもしれない。そう思わせるだけの戦術眼を大魔王は持ち合わせているらしかった。


「そういうことだ。どちらかわからん」

「そうですね……ですが、あの彼であれば情報をきちんと役立ててくれる事でしょう」

「そうだな」


 先にも言及されているが、魔族達とてどこかの誰かの狂気の沙汰で死にたくない。なので今回の一件は大魔王からの指示で情報をある程度人類側にも共有なるべく解決出来る確率を上げる様に指示が出されており、銀剣卿やイブリースら任務に忠実――もしくはある程度知性的な――な魔族にはそういう事情も教えられていたのであった。というわけで幾つかの推測を立てる二人の所へ、魔族の一人が声を掛けた。


「銀剣卿」

「どうした」

「本隊より連絡です。大魔王様が直々に報告を聞きたい、と。陽動部隊を出すので直接帰還する様に、との事です」

「……そうか」


 やはり今回の一件は自分達が思っている以上に大事なのかもしれない。滅多に表舞台に姿を現さない大魔王が直々に報告を聞きたいと言う状況に、銀剣卿は今回の事態の深刻さを改めて認識する。そうして、彼らは進路を変更して調査隊の本隊ではなく直接中央へと戻る事にするのだった。




 さて銀剣卿ら魔族の調査隊が去った後。魔族の襲撃を受けた増援部隊の被害状況の報告や立て直しをアントンに任せると、カイト達はこれ以上の魔族の襲撃はないと判断。情報消失点そのものの調査ではなく、それを調査していたと思しき魔族達の調査に臨む事にしていた。


「サルファ。何かわかるか?」

『……やはり意図的に痕跡が残されています。数日前まではなかった痕跡です。見付けられる様に、という所でしょうね』

「そうか……」


 これは完全に撤退していそうだな。カイトは意図的に残されていた様子の痕跡にため息を吐く。そうして彼はサルファへと問いかける。


「罠っぽいか?」

『いえ……罠ではないでしょう。明らかにこちらに来いという様子を醸し出していますが……その先に罠を仕掛けられている様子はありません』

「ってことはやはり、か」

『ええ……やはり魔族としても今回の事態の解決は急務と判断しているのでしょう。そしてそれを解決するのは誰でも良い、とも』


 これはいよいよどこの狂人かわからなくなってきたぞ。カイトは意図的に情報を残したのだろう魔族達の裏をそう読み取って、サルファと二人ため息を吐く。というわけで若干面倒くさそうにため息を吐いた二人へと声が掛けられた。


「カイト。こっちも行動に入れる……一応さっきと同じく由利には残ってもらう形で良いんだよな?」

「ああ……まぁ、もう魔族は全員去った後ではあるだろうが……警戒するに越した事はない」


 ソラの確認に対して、カイトは一つ頷いてそのまま進める様に告げる。一応先ほどとは違ってシンフォニア王国軍も被害を被っているが、今回新たに発見された痕跡などから魔族側は彼らが保有する情報をある程度共有したいのだと見て取っていた。が、同時にまだ罠ではないと言い切れるほどではなく、カイトの言う通り用心するに越した事はなかった。


「わかった……でもまぁ、確かに魔族としてもこの世界そのものが崩壊したら魔界も滅びるもんな」

「そうだな……大魔王がそんな破滅願望を持ち合わせているとはオレも思いたくない。そして魔族達がそんなヤツに唯々諾々と従っているともな」


 以前にカイトとソラが話しているが、魔界とはあくまでもその世界に付随する異空間に他ならないのだ。なのでこの世界が滅びる事はすなわち、それに付随する異空間全ての崩壊に他ならなかった。

 それは魔界とて例外ではなく、今回の狂気の沙汰が魔族にとっても座視出来ない物である事は間違いなかった。

 であれば、特例措置として人類側と共同歩調を取ろうとするのは至極真っ当な判断と言えただろう。というわけでおそらく今回は人類側も裏で共同歩調を取らねばならないのだろう、と考えるカイトが僅かに苦笑する。


「はぁ……まったく。常には厄介な魔族共がこんな時に限って頼もしく思えるとはな」

『あははは……こんな時だからでしょう。そしてそれだけ、敵は厄介という事でもあります』

「そんなもんは大精霊様が直々に指示を出されている上、大精霊様さえまだ敵の正体が掴めていない時点で当然だろう。更に言えばこの様子だとまだ大魔王様とやらも敵の詳細を掴めていないんだろうさ。この世界の頂点の連中から逃げおおせている、って時点で厄介さは下手すりゃ大魔王様より格上だ」

『はぁ……本当にそうだからたちが悪い』


 大精霊も大魔王も共にまだ敵の正体を掴めていないのだ。間違いなくその時点で厄介さはカイト達が戦ってきた様々な敵の中で随一と言って間違いなかった。


「この調子だと本当に敵は組織じゃなさそうだな」

『可能性は高そうですね……組織であればここまで見付からないのは筋が通らない。いえ、それ以前にこの世界の事であれば大半を察し得る大精霊様の捜査を逃れられているんです。増えれば増えるほど察知されやすくなる以上、当然の話だったのかと』


 どうやれば個人でここまでの事を仕出かす事が出来るのだろう。カイトもサルファも全くその点が理解出来ず、ただため息を吐く。仕出かしている事態の大きさに対して、残されている敵の情報があまりに少なすぎた。というわけで本日何度目かのため息を吐いたわけであるが、そうこうしている間にソラ達の支度が整ったようだ。再び先ほどのメンツが合流する。


「……うん? セレス、その……巫女服? で行くのか?」

「ええ……着替えるのも手間ですし、行った先で何が待ち受けているかもわかりません。イブリースや銀剣卿が出てきている以上、油断して痛い目には遭いたくありませんので……」

「それはそうだな……そういう意味で言えばオレ達の方が少し楽観的過ぎるか」


 完全武装と言えるセレスティアの様子を見ながら、カイトは僅かに警戒を解いている自分達を自覚して苦笑する。まぁ、これは油断というより残されている罠程度であればサルファやヒメアの支援があれば問題なく切り抜けられると信じていればこそだろう。

 何より、最悪は彼が力技で突破する事とて容易だ。そんな彼だから仕方がないといえば、仕方がなかったのかもしれなかった。というわけで、再合流した一同は今度は魔族達が残した痕跡を辿って魔族の拠点跡地を目指す事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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