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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3348話 はるかな過去編 ――再戦――

 セレスティア達の世界の過去の時代に発生したという世界の情報の抹消。大精霊の指示によりその解決に奔走する事になったカイトは未来から来たソラ達。『黒き森』の大神官スイレリア。レジディア王国の聖獣にして古龍(エルダー・ドラゴン)の末端たる聖獣と共にその調査と行動を開始する。

 そうして調査に奔走していた一同がたどり着いたのは、魔族の出現が噂されているとある廃棄された鉱山地帯であった。そこで魔族の襲撃に遭い壊滅したシンフォニア王国の調査隊を発見。手口から高位の魔族の存在を疑うと、一時調査を停止。王国軍の増援を待つ事になる。

 というわけで増援が到着しいざ調査再開となったその時。魔族達が行動に入った事により、一同は魔族との交戦に陥っていた。


「っ」


 飛来する七色の欠片を気配だけで察知して、セレスティアは大剣の遠心力を利用して身を捩って回避。後ろへ通り過ぎた欠片をそのまま超高速で回転して追撃の斬撃を放つ。


「はぁ!」

「ふっ」

「っ」


 外された。セレスティアはイブリースが鉄鞭の欠片に対して転移術を行使したのを近くする。別に鉄鞭の欠片は障壁を纏う必要はない。なので人を転移するより遥かに楽に転移術は行使できた。が、それとは別の理由でセレスティアは苦い顔だった。


「あら……余裕そうに思えるのだけど。こういう搦手は嫌い?」

「そういう事ではありません……よ!」


 だんっ。転移術で消えた鉄鞭の欠片の転移先を見抜いて、セレスティアが先手を打って地面に大剣を叩きつけて岩盤を打ち上げる。そしてそれと同時に鉄鞭が打ち上げられた岩盤の真後ろに出現する。これにイブリースは転移した鉄鞭の欠片の切っ先に魔力を収束させてまるで砲撃の様に岩盤を破砕する。


「ふっ」

「はっ!」


 発射された赤紫色の魔力の光条にセレスティアは障壁だけで防ぎ切る。そうして障壁一つで乗り切ると、そのまま地面を蹴ってイブリースへと肉薄する。


「……」


 一瞬、イブリースが逡巡する。セレスティアに勝機があるとすれば、この逡巡が起きる事だろう。イブリースは今回の戦いで手札が増えたのだ。

 故に自身のいつもの戦い方が出来ない、というよりしていないためどうしても増えた手札を使うかどうかの僅かな逡巡が存在してしまうのである。これが格上や同格相手ならばあり得ないだろうが、セレスティアを格下と見做せばこその逡巡であった。そうしてその逡巡を利用して、セレスティアは再加速。本来なら肉薄させられないような距離まで肉薄する。


(イブリースは迷っている……故にこそ勝機はある)


 おそらく勝つ事は不可能に近いだろう。セレスティアはイブリースとの十数分に及ぶ交戦の中で、彼我の差を理解しつつあった。が、その差は未来の世界ほど絶望的ではないという事もまた理解するに至っていた。


(私自身が彼女の強化に使われているのは正直業腹極まりありませんが……)


 段々と未来の世界のイブリースの戦い方に近づきつつある。セレスティアは自身が彼女の将来的な戦い方の完成を手伝っている自覚を持ちながらも、もはや諦めにも近い様子でそれを受け入れていた。

 未来のイブリースの戦闘方法に近づけば近付くほど、セレスティアからしてみれば見知った戦い方を行われるという事だ。出来たばかりのはずの戦闘方法に攻略法を持っているに等しく、完成が近づけば近付くほど生き延びれる可能性は高められるのであった。そうして更にセレスティアは肉薄し、勢いを乗せて上段から大剣を振り下ろす。


「はぁ!」

「っぅ!」


 セレスティアの斬撃に対して、イブリースは鉄鞭の欠片の一部を柄に集めて短剣の様にして防ぐ。逡巡は鉄鞭の欠片で串刺しにするか、それとも今の様に鉄鞭に戻して迎撃するか悩んでいたのだ。

 その結果防御は完璧ではなく、僅かにだが押し込まれイブリースの顔に苦いものがこみ上げていた。が、同時にその顔には笑みもまた浮かんでおり、立て直せる事が察せられた。


「っ」


 過去の世界の本来の彼女であればここで鉄鞭を放ち大剣を絡め取り、左手で敵を打ち砕いただろう。セレスティアはイブリースの今までの戦い方からそれを察していた。

 が、今のイブリースは自身の理想の戦い方へ向け自身を修正しており、防御と共に雷を纏わせた鉄鞭の欠片をセレスティアの背を狙う様に飛翔させていた。それにセレスティアは振るった大剣をそのまま地面へと叩きつけてその反動で空中へと舞い上がる。


「ふっ!」

「ふふ」


 この少女ならばそうしてくるだろう。イブリースは自身の欠片の飛翔に対してほぼほぼ完璧にも等しい回避を見せるセレスティアに対して笑みを浮かべる。セレスティアは反動による跳躍の際に地面も砕いて一緒に舞い上げており、即座の追撃を防げる様にもしていた。が、これに。イブリースは笑みを浮かべていた。


「!?」


 驚きを浮かべたのはセレスティアだ。彼女が打ち砕いた岩盤の破片へと突き刺さった鉄鞭の欠片は衝突の瞬間に向きを変えて腹から破片へと激突しており、その切っ先は半分ほどが自身を向いていたのである。そして更に。


「っ!」


 自身の真上にも鉄鞭の欠片が転移した。セレスティアは僅かに漏れる世界の改変を察知して、目を見開く。そうして直後。鉄鞭の欠片が一斉に飛翔する。


(速度重視の雷と砲撃! 更に威力を重視した本命! おまけに、ですか!)


 魔力の砲撃でこちらの足を留めて、その上で紫電の速度で飛来する鉄鞭で障壁を展開させる。そこに本命の魔力をふんだんに蓄積した鉄鞭の欠片が飛来する事で、敵の障壁を突破する。更に砲撃には全属性の砲撃を織り交ぜる事でどれか一つの属性に力を集中させる事による疲弊の低減を防ぐ事までしていた。が、同時に。これこそがイブリースの未来における本来の戦い方で、何度もシミュレーションした動きだった。


「開」


 いきなり本命を切られた事には驚いたが、本命こそが見知った札であるのであれば。セレスティアは自身もまた手札を切る事を迷わなくて良かった。そして彼女の手札の中でここで切れるものは、一つだ。


「あら?」


 一瞬、セレスティアの姿がぶれた。イブリースは砲撃が命中する寸前にそんな印象を抱き僅かに警戒感を露わにする。が、その次の瞬間には彼女の放った砲撃が生み出した閃光の中にセレスティアの姿は消えており、詳細を確認する事は出来なかった。


「……」


 姿がブレた様子はあったが、同時に転移術の行使を行った様子はない。ならばそれが気の所為であれ正解であれ、どちらでも良いだろう。イブリースはそう判断し、二重の鉄鞭の欠片を閃光の中へと飛翔させる。

 が、先行した紫電の如き鉄鞭の欠片より更に速く、まるで丈の短いウェディングドレスのような衣服を身に纏うセレスティアが閃光を切り裂いて現れる。


「!?」


 イブリースの顔に浮かぶのは驚愕だ。今まで比較的本気で戦ってきたと思っていた相手がいきなり今まで以上の戦闘力を発揮してきたのだ。当然だろう。そうして一瞬。両者の視線が交わった。


「「……」」


 次の瞬間にはセレスティアが斬撃を放ってくるだろう。イブリースはまっすぐ自身を見据えるセレスティアに一瞬先の未来を理解する。


「っ」


 来る。セレスティアはイブリースが本能的に掴み取った彼女の切り札の発動の兆候を見て、放とうとしていた斬撃を取りやめて強引な動きで制止。大剣を前に出して自身をその影へと潜り込ませる。

 そもそもここは過去なのだ。イブリースを殺せない事ぐらいセレスティアが一番理解している。誰もが必殺に思える攻撃が命中しない事は彼女自身が理解しており、いつでも防御に入れる様に心構えをしていたのである。そして、直後だ。イブリースが咄嗟に操った鉄鞭が魔法陣を編み出して、魔力による光条を放った。


「……」


 あり得ない。今の自身の行動は本気で自分でさえ考えていなかった動きで、出来るかもしれないと思って咄嗟に放った結果だ。

 それが出来たのだって彼女からしてみれば偶然数個鉄鞭の欠片が付近に浮かんでいたからで、言ってみれば悪あがきだ。イブリースは自身でさえ考えていなかった行動をあまりにあり得ない動きで防いだセレスティアに最大限の警戒を浮かべる。


「……貴方、何者?」

「一介の冒険者です。今はそれ以上でもそれ以下でもない」

「……そう。名を聞いておいてあげるわ。光栄に思いなさい。貴方の名は覚えるに値する」

「……セレスティア。それ以上名乗る名はありません」


 ここから先に踏み込めば殺されるのは自分。セレスティアはイブリースを殺せない事はわかっていても、自分が死なないかどうかは未知数だと理解していた。

 故にこそここで言の葉を紡ぐ事が自身の命脈を一秒でも伸ばす事とわかっていたのだ。そしてそれは功を奏した。出された名に、イブリースは意外そうに目を見開く。


「貴方、シンフォニアの者ではないの?」

「否定はしません」

「へぇ……勇者くんが貴方を連れているのは酔狂? いえ、あの真面目くんにそんな酔狂が出来る度胸はないわね」

「あ、あははは……」


 イブリースがセレスティアがシンフォニアの出身ではないと察した理由。それは彼女の名がヒメアの幼名だったからだ。そしてこれは偶然ではなく、ヒメアの名にあやかって名付けられたのだから当然だった。

 そして基本的にシンフォニアの民は風習として王族の生誕から幼名の使用が終わるまで王族の幼名を子供に付ける事を避ける風習があり、同年代の彼女がその名を名付けられているのであればシンフォニアの出身ではないのであった。


「ですが意外ですね。貴方がシンフォニア王国の風習を知っていたとは……法律などで禁じられているわけではなく、単なる民間にある風習に過ぎないというのに」

「見ればわかるでしょう? 潜入工作する事もあるのよ。風習程度は知っておかないといけないのよ」

「あ、なるほど」


 色々と知恵も回るイブリースだ。今みたくシンフォニア王国に潜入する事もあり、そうなると必然として一般的な常識程度は知っておかないと任務に支障をきたす。そしてすでに戦争は十年近く続いているのだ。今回が初めての潜入ではないだろうから、知っていても不思議はなかっただろう。


「まぁ、わかるといえばわかる風習ね。幼名を名付ける事はその厄を肩代わりする事になってしまう……お貴族様が嫌われ者なのは、何処の国も一緒ねぇ」

「あはは」

「ふふ……ま、それは良いでしょう。決めたわ。貴方、面白いから連れて帰るわ。元々あんまり乗り気でなかった仕事だったけれど……貴方を連れ帰れれば帳尻も合うわね」

「っ」


 やはり本気になった。セレスティアは今までとはまるで違う濃密な殺意の波動に、思わず気圧される。何度も言われているが、イブリースとセレスティアであればイブリースの方が圧倒的とは言わずとも強いのだ。

 本気になられれば勝ち目なぞなく、今まで堪えられたのはひとえにイブリースが新たな手札で遊んでいたからに過ぎなかった。そうして本気になったイブリースと巫女服に身を包みこちらも本気に近い力を解き放つセレスティアであるが、二人の戦いが始まる事はなかった。


「「っ!?」」


 少し離れた所で生じた爆発に、二人が思わずそちらに意識を取られる。そして同時に二人は何が起きたかを理解した。


「嘘でしょ!? 内側から破壊したというの!?」

「あれは……」

「ちっ! 勝負はお預け! セレスちゃん! 次会ったら貴方の貞操、頂くから!」

「え!?」


 その目的ですか。イブリースの言葉にセレスティアは思わずたたらを踏んで行動が遅れる。そうして二人の戦いは魔族の輸送隊が運んでいた円筒が内側から破壊された事により、終わりを迎える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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