表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3364/3942

第3347話 はるかな過去編 ――再戦――

 世界の情報の抹消という事態の発生を受け、その解決に奔走する事になったカイト。そんな彼は未来から来たソラ達、『黒き森』の大神官であるスイレリア、レジディア王国の聖獣にして古龍(エルダー・ドラゴン)の末端である聖獣と共に行動を開始する。

 そんな中で魔族の侵略による戦力の再編成の煽りを受けて放棄されたとある鉱山地帯に情報の消失が起きた痕跡がある事を掴んだ一同であるが、そこは同時に魔族の出没が噂されている所でもあった。

 そうしてそんな所の調査を開始しようとしたその瞬間。魔族達が何かの活動を終わらせて金属の円筒を運び出そうとする瞬間をソラ達が目撃。陽動作戦としてシンフォニア王国軍の拠点を襲撃した銀剣卿の相手をするカイトに頼まれ、彼らはかつて瞬が砦の襲撃で交戦した女魔族ことイブリースともう一人男魔族と交戦する事になっていた。


「はぁ!」

「っ……」


 セレスティアの放つ強撃に、イブリースは若干険しい顔で転移術を行使する。流石にソラ達より数段上の実力者だ。瞬とおやっさんをまとめて相手に出来たイブリースでも流石に余裕を見せて戦う事は出来なかった。


「セレスティア!」

「こちらは構いません! 一対一で抑え込みます!」

「……へぇ」


 ぞわり。まるで身の毛がよだつような殺気がイブリースから溢れ出る。が、そんな彼女を正面に見据え、セレスティアは告げる。


「甘く見るつもりはありません……貴方相手に油断すれば死ぬのは私です」


 この時代のイブリースは自分達の時代のイブリースより数段は下の実力だろうが、それでも自分と互角か下手をすればそれ以上の実力を持ち合わせているだろう。

 セレスティアはそう判断すればこそ、一切の予断なく彼女を見据えていた。そんな彼女に、イブリースもまた自身を舐めているのではなく油断しないからこその判断だと理解した。


「あら……かわいい女の子なのに。腕にずいぶんと自信があるみたいね」

「褒めた所で何も出ませんよ……斬撃以外は、ですが」

「そう」


 この可憐な少女は可憐に見えてその実騎士達に匹敵する実力を有している。イブリースは僅かな驚きと共に、自身もまたセレスティアのみに集中する事にする。


(妖魔将イブリース……妖将セレーネの姉の一人にして、妖魔四姉妹の長子。彼女は唯一第二次侵攻に参戦したという伝説でしたが……)


 まさか本当に参戦していたなんて。セレスティアは自分達の時代には強敵として知られる事になる妖将との思わぬ会合に、内心で冷や汗を浮かべていた。


(最高ではなく最優。セレーネなぞ目でもない実力者……というより妖魔四姉妹と末子であるセレーネを比べるのがバカバカしいのですが)


 いくらこの時代だろうと勝てるのだろうか。セレスティアはイミナとほぼ互角の女魔族を思い出し、それをして足元にも及ばない未来のイブリースを思い出す。とはいえ、やらねばならない以上は覚悟を決めるしかない。


「ふぅ……」

「……」


 来る。イブリースはセレスティアが大剣を前に構えたのを見て、意識を研ぎ澄ませる。そうして両者一瞬の空白が流れ、その次の瞬間。イブリースが先手を打った。


「はっ」


 飛来する鉄鞭の欠片に対して、セレスティアはそれを僅かな風切音だけで感知。舞うような動きで大剣を振るい、鉄鞭の欠片をすべて切り捨てる。


「……やる」


 やはりあちらの小僧共よりも数段上の実力者。イブリースは一切自身から視線を外さず切り捨てたセレスティアに僅かな笑みを見せる。そんな彼女へと、セレスティアが肉薄する。


「……ふっ!」

「ふっ!」


 セレスティアが接敵してきたと同時にイブリースは僅かに後ろへと跳躍し、自身が立っていた場所の地面を鉄鞭で打ち据える。そうして砕け散った地面が舞い上がり、礫となってセレスティアへと襲いかかった。


「っ」


 こんなものが意味をなさない事ぐらいイブリースも理解しているはずだ。セレスティアは自身の障壁に激突して弾き飛ぶ石礫を除外し、イブリースの意図を一瞬で考察する。そうして彼女はすぐにその意図を理解。どうするか逡巡する。


(前か、後ろ……いえ、上!)

「ちっ」


 どうやら自分は正解を引き当てたらしい。セレスティアは再度地面を鞭打して石礫を舞い上げるイブリースが小さく、そして楽しげに舌打ちするのを確かに聞く。

 イブリースの舞い上げた石礫の中には彼女の鉄鞭の欠片が混ざっており、石礫を隠れ蓑にセレスティアを狙おうとしていたのである。そうしてセレスティアの居た場所を切り裂いた鉄鞭の欠片であるが、それを見送るとセレスティアが急降下。イブリースを大上段から切り捨てんと大剣を振り下ろす。


「はぁあああ!」

「おっと」


 これはまずいわね。イブリースはセレスティアの攻撃を鉄鞭に防ぐ事が難しいと判断して転移術を起動。その場を離れる。

 一方転移術を多用する魔族なぞセレスティアからすれば見慣れたもので、何度も交戦してきている。転移の兆候も転移先を見抜く事も出来た。が、だからこそ彼女は驚きを得るしかなかった。


(遠い!?)


 自身の攻撃の範囲外に逃れるのはまだわかる。が、イブリースがこの状況で彼女自身の攻撃の範囲からも遠く離れる事の意図が理解出来なかった。

 そうして僅かな訝しみと驚きを浮かべるセレスティアは転移術の兆候などから移動先を即座に確認。笑うイブリースの表情から、これが転移術の失敗なぞではないと理解する。


「っ」


 イブリースの意図を考えようとしたその瞬間。セレスティアの耳が何かが小さく弾ける音を捉える。そこから先。彼女が咄嗟に対処出来たのは、彼女が巫女として僅かな異変でも検知出来る様にたゆまぬ努力を続けてきたからだろう。


「っぅ!」

「あら……やっぱり貴方ほどの実力者相手に面白半分にしてみるものじゃなかったかしら」


 きぃん、という音が響いて超高速で飛来した鉄鞭の欠片を弾き飛ばしたセレスティアに、イブリースが楽しげに笑う。とはいえ、思った通りの結果は得られたようだ。イブリースは上機嫌だった。


「今のは貴方のお仲間の……あっちの子がしたことを利用してみたのよ。なるほど。こっちの方が速度出るのね。おまけに面白い……まぁ、パワーが落ちるのが難点って所かしら」


 どうせ相手のやった事を真似た事なのだから、すぐにバレるだろう。イブリースはセレスティアへと自身が何をしたかを告げつつ、その言葉通り紫電を纏わせた鉄鞭の欠片を周囲へと集合させる。


「これは……っ」


 そういう事だったのか。セレスティアは未来のイブリースが得意とする赤紫の雷を思い出し、それがこの時代で瞬と交戦して体得したものなのだと理解。未来で自分達が苦しむ事になった一端が自分達にある事を苦笑しつつ、なぜ先の砦での戦いでの瞬との情報共有でイブリースだと察せられなかったのかを理解する。


(妖魔将イブリースの赤紫の雷がこの時代の私達との戦いで開発されたものだった……という事ですか。最悪です)


 いくら未来の世界に自分達が来た情報が残っていなかろうと、出会った以上はそこで何かの影響が残っているのは仕方がない事だ。が、その中には敵に利する事もあるのだとセレスティアは理解し、ただただ呆れる様にため息を吐くしかなかった。


「はぁ……」

「あら。嫌そうね。雷は嫌い?」

「いえ、そういう事ではありません……そう言えばふと思うのですが」

「良いわよ? 今は少し機嫌が良いから答えてあげちゃう」


 イブリースからしてみれば護衛対象を遠ざけられるし、上機嫌である事も事実なのだ。答えてやろうと気まぐれを起こしたようだ。というわけでそんな彼女に、セレスティアが問いかけた。


「噂では姉妹が居ると聞いたのですが」

「あら……存外人の情報網も侮れないわね。それになるほど。警戒するのも無理はないわね。残念ながらあの子はまだ戦場には来ないわ。幼すぎるもの。もう少し大きくなったら出ても良いとは思うのだけども……それでもまだ駄目ね。貴方のような子に出逢えば一発でお陀仏よ」


 どうやら自分が目を掛ける妹がどこかに潜んでいると警戒しているのだろう。イブリースは幼い妹の事を思い出し顔を綻ばせながらも、魔族らしい様子で今はまだ無理だと口にする。それにセレスティアは伝説通り四姉妹がまだイブリース一人しかいない事を理解する。


「そうですか……なら、一対一に集中出来そうですね」

「そうね……さ、続けましょうか。私も色々と試したくなったの。すぐに、死なないでね?」


 楽しげに笑いながら、イブリースがセレスティアへと告げる。そしてそれと同時に赤紫の雷を纏った鉄鞭の欠片が一斉にセレスティアへと襲いかかるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ