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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3345話 はるかな過去編 ――遭遇――

 世界に刻まれた情報の抹消。本来は起き得ないそんな事象の発生により、未来から来たソラ達やスイレリア、聖獣とその解決に動く事になったカイト。そんな彼はシルフィから指示を受けて動いていたスイレリアの兄にして『黒き森』における先代の大神官であるグウィネスとの出会い、彼との間で情報共有を行う事になっていた。

 そうして情報共有を行った後。再び別行動を開始した一同であったが、カイト達の次の目的地は魔族の出没が噂される鉱山であった。というわけでたどり着いた鉱山では魔族の出没の調査に赴いた調査隊が無惨な姿となって放置されておた。

 それを一同は手際の鮮やかさから魔族によるものと判断。スイレリアらが同行していた事もあり一旦シンフォニア王国軍の増援を待ち行動する事になるのであるが、いざ行動開始というタイミングで奇妙な魔力の奔流を察知して急ぎその現場に急行する事になっていた。


「ふむ……」

「さっきのはなんだったんだ……と、聞いてもわからんだろうが」

「そうだな……流石にさっきのが何か、と問われてもオレにもなんとも言えん」


 瞬の問いかけに、カイトは半ば笑いながら断言する。兵士達の中には勘違いと思うほどに僅か一瞬だったのだ。カイト達だから異質感に気付けただけで、何が原因かと言われても考えられる事は様々だった。


「それこそ魔物が縄張り争いで威嚇、というパターンがないわけではない。まぁ、あの一瞬だから威嚇って可能性はないだろうが」

「それはそうだろうが……だが魔族達にしてもあまりに一瞬過ぎやしないか?」

「そうだな……それが気になる所ではある事はまぁ、事実だ。あり得るとするのなら魔族が魔物と遭遇して、一撃で仕留めた場合だが……」

「その場合はすごい腕前だな」

「まぁ、悪くはないだろうな」


 あの場にカイトや王国軍の中でもトップクラスの兵士が居たからこそ気付けたのであって、並の兵士であれば気付けなかったとしても不思議はなかったのだ。それこそ後一瞬短ければ、カイトぐらいでなければ気付けなかった可能性は十分にある。というわけでそんな二人の会話に、セレスティアが口を挟んだ。


「賭けに出た……という事でしょうか」

「いや、それはないだろう。魔族側はオレが居る事を理解している。これが銀剣卿とかならオレでもちーっと厳しいかもしれんが……この腕だとそうでもなさそうだしな」

「逆に呼ばれている可能性は?」

「オレをか? 大将軍級が潜んでるならもうわけがわからんな」


 魔族側が本気で自身を罠に嵌めようとするのであれば、これは間違いなく大将軍級の魔族が動かねばどうにもならない話。カイトは自身の実力を理解していればこそ、同時にそれ以下の魔族が暗躍した所で特段の障害にならない事もまた理解していた。

 よしんばこれが封印などであってもこちらには結界・治癒に特化したヒメアがいて、その彼女と契約を結んでいる。ノワールやサルファも忘れてはならない。一時的には有効かもしれないが、どれだけもたせられるか、という程度でしかなかった。そしてそれはセレスティアもわかっていたようだ。困った様に笑うカイトに、彼女もまた苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ですよね……ではなんでしょうか」

「それが分かれば苦労はしないし、こうやって調査に出ようとも思わん……ソラ。そちらは由利とのリンクをしっかりとしておけ」

「大丈夫。問題ない」


 そろそろ近付いてきたんだな。ソラはカイトの言葉でそう理解する。由利とのリンク、というと何か特殊な事をしている様に思うが、単に常時念話で会話出来る様にしているだけだ。

 その上で拠点に残る由利は<<千里眼(せんりがん)>>で周囲を常に警戒しており、奇襲を受けない様にしていた。その護衛にはリィルとイミナの二人がついており、万が一カイトの留守にあちらが狙われても戻れるぐらいの時間稼ぎは出来る様にしておいたのであった。

 なお、この二人なのは万が一には兵士の指揮も出来るからだ。というわけで三人とスイレリア、聖獣の二人を残したまま空中を進み続けること十数分。一同は魔力が迸ったと思しき場所へとたどり着いた。


「ここか……ふむ」

「少し開けた場ではあるが……何もないな」

「そうだな……降りよう。全員、罠が仕掛けられている可能性もあり得る。十分に注意してくれ」


 自身もまた目を皿のようにして地上を見つつ、瞬の言葉に同意したカイトが降下を指示。そのまま地面へとゆっくりと着地する。瞬の言う通り一同が降り立ったのは山と山の間に出来た僅かに開けた場で、一同が拠点としているかつての鉱夫達の街からは見えない場所だった。

 カイトも増援が到着次第調べるべきかと考えていた地点の一つで、魔族達が拠点を設営するのであれば適した場所の一つでもあった。というわけでそんな開けた場に降り立った一同であるが、幸いな事に何か仕掛けられているわけではなかったらしい。


「……何も起きない、か」

「いっそ起きてくれても良かったんだがな……調査が楽で済む」


 着陸して十数秒。大丈夫と判断出来るほどの時間が過ぎた所で発せられた瞬の言葉に、カイトもまた僅かに警戒を解いてそんな冗談を口にする。


「それはそうかもしれないが……やはり魔族の奇襲を受けたくはない」

「それは間違いないがな……ふむ……」

「何かあるのか?」

「いや、何かあるというほどの事ではないんだが……」


 どうするべきか。カイトは一同に教えるべきか教えぬべきかを考える。が、セレスティアの顔に浮かぶ険しい表情で、彼女もまた理解したのだと理解する。セレスティアは巫女。魔術は当然だが同時に世界の情報にも比較的敏感で、カイトが見抜いた事を彼女もまた見抜いたのであった。というわけでカイトは隠す必要性もさほどないと判断する。


「場が……そうだな。なんと言えば良いか、世界そのものを強引に壊したような感じがする」

「それはあれか? 今回の一件の……」

「いや、あれとは似て非なる、と言って良い。言ってしまえばあれは世界の情報を抹消して悠々自適にこの世界から離脱している。それに対してこれは壁を強引に押し通った感じだろう」

「押し通った、より突き破った、が近いのでは? 一瞬過ぎて押し通れたとは思えません」

「確かに……そうだな。この世界を脱出出来るほどではないだろう」


 これが同じ下手人だった場合には些かお粗末な仕業だろう。カイトは今までの出来事を鑑みて、今回の事例が同一人物によるものかどうかをかなり疑っていた。とはいえ、同時にもしかしたらとも思っていた。そんな彼に同じ様に半信半疑という様子のセレスティアが問いかける。


「魔族に追われていた……とかでしょうか?」

「それも考え難いな。もしそうであるのなら、ここらに魔族がわんさか居ておかしくない。にも関わらず、ここには誰もいない。全員外に飛ばすにしては魔力の量も少なすぎる……偶発的に世界と世界が衝突した……のか?」


 かつて地球とエネフィアが衝突した際にも莫大な魔力が溢れ出ていたという。なので世界と世界が衝突して偶発的に世界の壁が破れる事は可能性としてないではなく、この状況からそうなのでは、とカイトも考えていたようだ。


「どうなのでしょう……」

「……サルファ……サルファ?」


 こういう場合であればサルファに聞いて周囲に異変がないか確認するのが一番良い。カイトはそう判断して、彼へと念話を投げかける。が、応答がない様子で僅かに警戒を強めていた。そしてそれは正解だったようだ。彼の眼の前に文字が浮かび上がり、それが音を発する。


『魔族の妨害結界です! 念話が弾かれています! ごめんなさい! 完全に遅延術式を仕込まれていたみたいです!』

「「「っ!」」」


 一同が魔族による策略を理解するのと、少し離れた所で爆音が轟いたのはほぼ同時だ。そして間髪入れず、巨大な銀色の斬撃が迸る。


「おっと!」

「敵襲!?」


 一体どこから。斬撃そのものはカイトが悠々防いでくれていたので問題なかったのだが、どこをどう見ても誰もいないのだ。ソラ達も武器を取り出して警戒を行うが、誰一人として現れなかった。が、これにカイトはおおよそを理解していたようだ。


「エドナ! 全員、急いで戻るぞ!」

「戻るって、逃げられるのか!?」

「銀剣卿の遅延性の斬撃だ! あいつ当人はもうここにゃ居ねぇよ!」


 もしかしたら自分達が今世界の情報の抹消という事件を追っている事を魔族達も理解しているのかもしれない。カイトは自分達を釣り出すのに世界の異変を利用してきた銀剣卿に対してそう思う。


「サルファ。地面か?」

『ええ……空間ではなく大地に仕込まれていました。着地と同時に発動する形です。おそらく銀剣卿ともう一人、魔術に長けた高位の魔族がいたのだと』

「ちっ……何が起きてやがる」


 高位の魔族がシンフォニア王国の領域に忍び込んでいた事も問題といえば問題だが、その魔族が揃いも揃って何か良くわからない事をしていたのだ。あり得ないと捨て去った魔族による意図的な情報の抹消さえあり得るかも、とカイトは理解が出来ない状況に僅かな困惑を抱いていた。


『わかりません……ですが今は一刻も早く戻るべきかと』

「そうした方が良いな……全員、全速力で戻るぞ! 道中の妨害はない!」


 おそらく部隊を率いているのは銀剣卿だろう。そしてそうなれば道中の妨害はまずない。カイトは慌てて空中へと舞い上がる一同を尻目に、そう判断する。


「なんでそう言い切れるんだよ!」

「銀剣卿の性格だ! 今回の部隊を率いているのは間違いなくあいつだ! そうなりゃあいつは大魔王の指示でもない限り、自分が居る事を見せて自分で足止めしたがる! 命令も聞けるし命令も聞くが、同時にあいつもまた魔族なんだよ! それも腕に物凄い自信を持つな!」


 自らの剣士としての腕が魔族の中でも有数だという自負があればこそ、銀剣卿はカイトにも戦いを挑んでくる。無論それでも自分の総合的な実力も理解しており、自分ではカイトに勝てない事もまた理解している。剣士としての腕と戦場の戦士としての腕はまた別物だからだ。そしてまるで彼の考えを肯定するかの様に、巨大な斬撃が一同の眼下を通り過ぎる。


「「「なっ……」」」


 カイトを除いた全員が思わず言葉を失った。通り過ぎた銀色の斬撃は巨大な鉱山を上下に真っ二つに切り裂いて、上半分を大きく吹き飛ばしたのだ。


「おいおい、張り切りすぎだ……ちっ。ソラ!」

「ああ! 先に行ってくれ!」

「すまん! エドナ!」


 これはヤバイな。カイトは僅かではない苦笑を浮かべ、即座にどうするべきかを判断。そしてソラもまたどうするべきかを理解したようだ。そうして、カイトが一瞬にして拠点へと舞い戻る。


「おいおい……ずいぶんと好き勝手してくれてるじゃねぇか」

「久しいな、カイト」

「おうよ。この間の砦の時はオレが来る前に逃げ帰ってくれたみたいじゃねぇの」


 まるで気兼ねない友人が訪ねてきたかのような気軽さで、カイトと銀剣卿が言葉を交わす。とはいえ、彼が来る事は魔族側も織り込み済みだったようだ。会話の途中にも関わらず、魔族の一人がカイトの背を狙い打つ。


「がはっ……」

「これ、お前の部下? 斬ったけど良いよな?」

「すまない。教育がなっていなかった……馬上で良いのか?」

「いやいや。流石にお前相手に馬上はキツい」


 ちらり。カイトはアントンに視線を向け、それにアントンもまた応ずる。自分が銀剣卿を引き付けている間に体勢を立て直せ。そういう指示だった。そうして彼はゆっくりと、まるで魔族達の注目を集める様に地面へと舞い降りる。


「……さ、やろうぜ」

「……」


 にたり。カイトの言葉に銀剣卿が魔族らしい獰猛な、されど彼に似合う優雅にも見える笑みを浮かべる。そうして、二つの斬撃がかつて鉱夫達が過ごした街のど真ん中で激突するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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