第3344話 はるかな過去編 ――調査――
世界の情報の抹消。それは世界そのものを破滅させかねない事象だ。その発生を受けて大精霊達の指示を受けて動く事になったカイトは未来から来たソラ達。『黒き森』の大神官スイレリア、レジディア王国の聖獣と共に行動を開始する。
そうして行動する中でマクダウェル家の開祖リヒト・マクダウェルと共に戦った先代の『黒き森』の大神官グウィネスと会合。彼との間で情報共有を行う事となる。
その後彼と別れて再び情報消失点の調査に赴いた一同であったが、次の情報消失点は魔族の出没が噂されている所であった。そこで一同が目にしたのは、魔族達の襲撃により壊滅した調査隊の無惨な姿であった。
というわけで、一同が調査隊を発見して2日。カイトからの連絡を受けたヒメアが手配したシンフォニア王国軍の増援部隊が鉱山へと到着していた。
「マクダウェル卿……お会いできて光栄です。第5大隊所属南部第2砦駐屯部隊第1部隊隊長アントン・バーキです」
「ありがとうございます」
アントンと名乗った部隊長が差し出した右手にカイトもまた応ずる。流石にカイトとしてもこの状況下で迂闊な行動は取れなかった。そして軍部とて自分の所の調査隊が敢え無く壊滅させられているのだ。カイト達の要請を断ることなく二つ返事で了承。即座に近隣の部隊を派遣したのであった。
「それで……一体何が? 魔族共の目的は?」
「魔族共の目的はまだわかりません……残っているのかも」
「勅令の旨は聞いております……それとの関連は?」
「わかりません。それをこれから調べたい所ですが……その間にこの拠点に仕掛けをされるのが一番困る」
「なるほど……」
それで行動が取れなかったわけか。アントンはカイトが引き連れている中にレジディア王国の聖獣、『黒き森』の大神官が居る事を聞いていた。その彼女らを抱えながら魔族と戦いたくない、というカイトの考えは妥当だと理解したのだ。
「わかりました。こちらでこの拠点の防備は固めます。また魔族達の調査もこちらで」
「お願いします。こちらは引き続き例の件の調査を」
「お願いします」
ひとまずお互いにするべき事は定められた。というわけでカイトは軍部が調査拠点の設営と防備を固める作業を行うのを横目に、ソラ達と合流する。
「大丈夫なのか? 相手の魔族、かなりの腕前みたいだけど」
「ああ……王国軍で貴族に属していない王国軍は基本的に数字で部隊が割り振られるんだが、数字が少なければ少ないほど腕利きという意味になる。今回増援として派遣されたのは第1部隊。その砦の中でもエースという意味になる……それだけ第5大隊も今回の事態を重く見ているという事だろう」
ソラの問いかけに、カイトは苦い顔を浮かべながらも僅かな安堵を同時に浮かべていた。シンフォニア王国軍の実力は誰より彼が一番よく理解している。南部の砦は魔族との戦線に近い。そこに属している精兵であれば、先の調査隊の様に一方的に無惨な姿を晒す事はないだろうと考えられた。
「それにおそらく、向こうはオレが来ている事を察しているんだろうな」
「そうなのか?」
「手出しをしてきていない。バカな魔族ならオレの事を知らない……いや、名前は知っているんだろうが、姿はわかっていない。だからまた同じ事をする……少しそれを期待してもいたんだが……」
やはり想像通り高位の魔族が来ているという事なのだろう。カイトは今回の一件の裏を考え、ため息を吐く。そんな彼にソラが問いかけた。
「本当にここには何もないのか?」
「ないな。軍部が黙っていようと陛下には報告が入る。陛下からオレに情報は入る……そうでなくても軍部に強い影響力を持つスカーレット家やらもあるんだ。情報部が黙ってようと軍事上重要な事は大抵のことならわかってる……ま、ここら一帯を治める貴族が不正をして? 何か密売とか栽培とかしてるなら話は別だがな」
軍事的な事ならばカイトに入ってくるそうなのだが、流石に貴族達がしている不正に関しては政治的な話が絡むので話は別になってしまうらしい。とはいえ、それを加味したとてここに何も無い事は確実だろうと考えていた。
「とはいえ、だ。魔族達……それも高位の魔族が関わるような案件はここでは出来ないはずだ」
「なぜそう言い切れるんだ?」
「ここは地脈が通っていない。魔族達が興味を示すような場所じゃない……取引には使えるだろうがな。その程度だ……逆にそうであるのなら長居する必要はないし、調査隊を殺して自分達の存在を疑わせるような事なんてしない方が良い」
「あ、そっか……殺してるってことは長居しないといけない、ってことなのか」
カイトの言葉でソラも魔族達がおそらくまだなにかの理由で留まっているのだろうと理解する。というわけでそれを察したソラが、カイトへと問いかける。
「……なぁ、もしかしてなんだが」
「うん?」
「俺達と同じ事を探ってるとかないか? この大陸全土で起きてるんだよな? 魔族達の制圧地域で起きていても不思議はないんじゃないか?」
「うーん……そうだな。情報消失点についてはおそらく魔族達の制圧地域にも生じているだろう。だから調べていても不思議はないが……」
どうなのだろうか。カイトは自分達が大精霊の指示で動き出している事を考えて、魔族達にそれと同等の事が可能なのだろうかと推測する。が、わからなかったらしい。苦笑混じりで首を振る。
「……わからんわ。流石に」
「あらら……」
「しゃーねーだろ。大魔王様ってのがどれだけの実力者で、どういうヤツなのかもわかってないんだ。魔術師なのか、戦士なのか、それとも王様という地位にあるカリスマで統率しているヤツなのか……いや、ヤバい実力者である事は確定なんだけど」
なにせあの荒くれ者の魔族達が名前を聞くだけで震え上がるのだ。その実力は疑いようのないもので、そしてそれは時同じく何かを待っているらしい銀剣卿らを鑑みると事実だろう。
「……まぁ、良い。どうにせよオレ達がやる事は変わらん。魔族達を警戒しつつ、情報消失点の調査だ。ソラ、竜車の準備は?」
「問題ないよ。さっき王国軍の人も来て、置き場やら結界やらも調整をしてくれてる」
「良し……じゃあ……ん?」
「なんだ?」
何か強大な魔力が一瞬だけ迸った。二人は鉱山の奥の方から迸った力の奔流に顔を顰める。本当に一瞬過ぎて、兵士達の中には気付かなかった者や気の所為だと考えてしまった者もいるほどだ。
「マクダウェル卿!」
「バーキ隊長……そちらも感じましたか?」
「ええ……お願いできますか?」
「承りましょう……ソラ。すぐに準備を。飛空術で行った方が速い。オレは大神官様へと状況を報告する」
「おう」
カイトの指示にソラが二つ返事で応ずる。そうしてシンフォニア王国軍は防備を固め、カイト達は急ぎ異変が生じたと思しき場所へと急行する支度を始めるのだった。
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