第3343話 はるかな過去編 ――調査――
世界の情報の消失という普通には起き得ない事象の発生を受けて、その解決に向けて動く事になったカイト。彼は未来から来たソラ達。かつて兄にして先代の『黒き森』の大神官が似た事態の解決に奔走した事のあるスイレリア。こちらは当人が聖獣として解決に奔走した開祖マクダウェルらと行動を共にしたレジディア王国の聖獣と共に、その調査に奔走する事になっていた。
そんな中、スイレリアの兄であるグウィネスと出会ったカイトはそこで情報共有を行った後。次の目的地として山間で発生した情報の消失を調べるべく山間に赴く事になっていた。
が、そこで目の当たりにしたのは付近で出没しているという魔族の情報の調査を行う予定だったシンフォニア王国の兵士達が無惨にも殺された姿であった。
そうして医療用のテントの中を調べる中、軍医の遺体がない事に気付いた一同はその日一日を掛けてかつては鉱夫達が過ごした街を探索。軍医の痕跡を調べていた。
「……だめだな。この建物にもいそうにない」
『こっちもだめっぽい……由利。付近どう?』
『だめっぽいー……魔族どころか生き物一匹見当たらないかなー……』
「うーん……」
生き物が居ないのはおそらくここらが荒れ果てた大地だからだろう。カイトはソラの問いかけに答える形で寄せられた由利からの情報に苦い顔だ。というわけで丸一日掛けて探して見つからない状況に、カイトは最終的な判断を下す事とした。
「こりゃ、だめだな。魔族に連れ去られたって考えるのが一番妥当そうだ」
『魔族は確定なのか?』
「盗賊共がこんな一方的な殺戮が出来るわけがない。出来るやつが居るなら、オレ達に即座に討伐命令が下ってるよ。ま、これがどこか遠方の領地ならまだわからんがね。天領からは出ているが、それでも王都に隣接する貴族の場所だ。万が一が起き得ない様にオレ達に連絡が回る」
『そうか……まぁ、だが確かにあの……この言い方が正しいかはわからんが見事な手際は盗賊の雑多な動きとは到底思えんか』
「そうだな」
確かに良い言い方ではないかもしれないが、カイトからしても今回の襲撃の手際は非常に見事であった。というわけで瞬の言葉に苦笑の色を深めた彼であったが、すぐに気を取り直す。
「ソラ。戻ったらすぐに結界を一番良いヤツに変えておいてくれ」
『わかったけど……お前はどうするんだ?』
「エドナで一度周辺を探索する。サルファの偽装と姫様の結界を併用すれば並の魔族では探知出来ない……運が良ければ、魔族共の拠点ぐらいは見つかるかもな」
『自信なさそうだなー』
「雑兵レベルなら良いんだがな。高位の魔族が率いた隠密部隊ならオレでも厳しい。サルファなら可能かもしれんが……」
『魔眼はどうしても双方向になりがちですからね』
「そういうわけだな……すでに遅いかもしれんがな」
どうやら調査隊の壊滅を受け、ヒメアからサルファへと連絡が回っていたらしい。彼も万が一奇襲を受けない様に周辺を魔眼で探査してくれていたようだ。今回は向こうの戦力がどれぐらいかわからない上、スイレリアや聖獣まで一緒に居る状況だ。
下手に検知されカイトが離れている状況のこちら側を攻められては困る、とカイト自身も見つからない様にする事を優先したようだ。というわけで彼は再びエドナに跨ると、一人大空へと舞い上がる。
「ふむ……」
大空へと舞い上がると同時。カイトは何か異変がないか確認する。すでに彼の周囲にはサルファの魔眼による空間・次元の歪曲による視認性の低下とヒメアによる包括的な防御が施されており、舞い上がる前からソラ達にも見えていないような状態だった。
最低でも彼らレベルでも接近した状態でさえ認識出来ず、それがかなりの距離を取っているのだ。よほどの高位の魔族でなければ察知は出来なかった。
(……ま、当然見てわかるような状況にはしてくれていないよな)
なにせここは敵国。しかもカイト達が居る王都から程遠くないエリアだ。少数行動が基本かつ単体能力であれば圧倒的な魔族達でさえ、大規模な行動は避ける。その中で比較的長期に渡って何かの活動をしようというのであれば、拠点は隠されていて不思議はなかった。
『サルファ』
『なんでしょうか』
『まさか単に周囲を見回すだけで見付かる……とかはなさそうか?』
『流石にそれはないかと……ええ。そちらを見ると一緒に見える範囲には一切何も確認出来ません』
カイトを視ている以上、サルファにはある程度付近の情報も必然的に視えてしまっている。その範囲には敵影は一切いなかったようだ。というわけでカイトも流石にそれはないな、と笑うだけだ。
『まさか鉱山の中に潜んでいる……とかか』
『それは……考え難いかと。確かその鉱山の出入り口はそこ一つだったと思われます。崩落などにより情報にない亀裂などが出来ていない限りは、ですが……それに何より坑道の中に潜む愚を知らぬ奴らとは思えません』
『そうだよなぁ……』
先にカイトも言っているが、坑道の中に潜めば最悪は生き埋めだ。そしてカイト達はよほどの重要な鉱山でもなければそういった事も平気でやる。ここらに潜んでカイト達との交戦の可能性を考慮しないはずはないので、坑道に潜む可能性はあまり考え難かった。
『ま、わかっちゃいたが……駄目だな、こりゃ』
『ですね』
『あはは……単に見付かれば良いね、程度か。姫様』
『あいよ。終わりね』
『ああ。どうにせよもう日も傾き始めている。これ以上目視に頼っての捜索は無意味だろう。竜車も隠したいから、その指示もせんとな』
『そ……お疲れ様。気を付けてね』
『あいよ』
ヒメアのねぎらいにカイトが一つ微笑んで降下を開始する。そうして彼のこの日の一日は竜車を元宿屋に隠して宿屋全体に強固な結界を展開し、終わりを迎える事になるのだった。
さてカイト達がこの日の活動を終えた一方その頃。当然であるが、その姿は魔族側からは察知されていた。
「……ふむ」
報告を受けていたのは、荒くれ者が多い魔族達を実力で黙らせながら自身は優秀な指揮官としても知られている銀剣卿だ。こういった隠密作戦は彼も得意とする所ではなかったものの、魔族側としてもある程度以上に腕が立ちそれでいて隠密行動の意味を理解して、しかもそれを厳守させられる指揮官は限られた。存外、彼は彼でカイト達同様にかなり便利な札として使われているのであった。
「どうする? また夜に乗じて仕留めるか?」
「やれるものならやってみると良い」
わかっていたがやはり愚かなヤツが多い。銀剣卿は同じく報告を受けていた魔族の戦士の言葉に、どこか嘲りと挑発を乗せて笑う。自分達が最も警戒せねばならない男だというのに、ただ騎士の装いをしていないというだけでほとんどの戦士が気付いていない。それが愚かで仕方がなかった。
無論、それでも問題ないぐらいに腕は立つし、なんだったらこの戦士一人で先の調査隊は壊滅させられただろう。それを銀剣卿が命じて奇襲作戦による密かな壊滅にしたというのだから、銀剣卿の戦闘力が察せられた。とはいえ、流石に全員がこれでは集団行動も成り立たない。腕っぷし自慢がこの戦士なら、きちんと銀剣卿の補佐が出来るような戦士も与えられていた。
「はぁ……貴方の目。節穴?」
「あぁ? んだ、てめぇ。犯されてぇのか」
「はぁー……目だけじゃなくて貴方の頭に乗ってるものすべてが飾りみたいね。挑発されてるってわかるならもう少し頭を働かせたら?」
盛大に溜息を吐きながら、褐色の女魔族が呆れた様に告げる。どうやらこちらの彼女はこの写真の人物がカイトだと理解しているようだ。というわけでにわかに殺気立つ場であるが、銀剣卿としてはこんなくだらない事でカイトに察知されたくはなかった。
「やめろ……イブリース。貴様もわかっているなら挑発するな」
「申し訳ありません、銀剣卿」
「……ちっ」
この男には絶対に勝てない。魔族の男戦士であったが、こんな性格だ。銀剣卿には何度か挑んでおり、彼我の差が絶対的だと理解していたようだ。僅かに威圧的な銀剣卿の言葉に矛を収めるしかなかった。
「どういうわけかは知らんが、そいつはカイト・マクダウェル。大魔王様が英雄レックスと並んで人にありて警戒するべし二柱、とされた男だ」
「こいつが?」
「そうだ」
「ふーん……」
ひ弱そうには見えないが、どう見ても強そうにも見えない。魔族の男戦士は写真をまじまじと見ながら、そんな様子を浮かべていた。
「……」
「……はぁ」
駄目ですね、こいつは。そんな様子で呆れた様に肩を竦める先の女魔族――イブリースというらしいが――に、銀剣卿も若干呆れ気味だ。まぁ、魔族にこういう腕っぷしは自慢出来るがそれだけで、相手の実力が察せられない戦士というのは少なくなかった。銀剣卿やイブリースの様にどちらも長けている方が非常に珍しいのである。
とはいえ、同時にそうであればこそそういった魔族の中で知略に長けて生き延びた者たちの策略はずば抜けており、こちらの想像も出来ないような様々な謀略を張り巡らせる。ある意味では特化した者たちの集まりであればこそ、魔族は総じて厄介と言われるのであった。
「……まぁ、そういうわけだ。今回は貴様らも知っての通り、大魔王様直々のご命令だ。まだその調査が終わっていない以上、ヤツとの接触は避けねばならん……貴様とて大魔王様に自分達の戦いで調査区画を更地にしました、なぞ報告したくなかろう」
「っ……」
やはり大魔王とやらの力は圧倒的らしい。同格と言えるイブリースには舐めた態度。格上である銀剣卿でさえ不満げな態度を隠さなかったこの男魔族でも、大魔王の名が出ただけで僅かに顔を青ざめさせる。というわけで迂闊な行動は出来ない、と悟った彼が銀剣卿へと問いかける。
「ならどうすんだ? おめおめと逃げるのか?」
「……イブリース。例の医者は?」
「まだ生きてはいます。生きては」
「そうか……やはり動かせそうにはないか?」
「危険でしょう。いつしきい値を超えてもおかしくない。中央へ連れて行く間に変異しては元も子もない。さりとて、ではありますが」
何がさりとてなのかはわからないが、銀剣卿にはこれで理解出来ていたようだ。イブリースの言葉に僅かに笑う。が、その笑みは力を信奉する魔族特有の荒々しい笑みであった。
「撤退する際には一戦交えねばならんだろうな……貴様らはその時まで力を温存しておけ」
「なるほど。そういうことかよ」
「イブリース。貴様は事が済み次第、先に帰還しろ」
「かしこまりました」
好きにしたければ好きにすれば良い。イブリースは銀剣卿はおそらく程々で戻って来るだろうと理解していればこそ、その命令に素直に従う事にしたようだ。
何より彼女とて魔族なので争いは好きだが、カイトのような化け物を相手にはしたくなかった事も大きかった。そうして、両者はこのまま接触する事なくこの日は終わりを迎えるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




