第3342話 はるかな過去編 ――探索――
世界の情報の抹消という事態を受けて、大精霊達からの指示によりその解決に乗り出す事になったカイト。彼は未来から来たソラ達と共に調査を開始する。
そうして調査を開始して早々にかつて開祖マクダウェルと共に魔族の侵攻を退けた先代の『黒き森』の大神官グウィネスの痕跡を見つける事になった一同は彼の可能性のある一団が別々のルートを通っていた事からカイト一人とソラ達に別れて行動する事になり、旧街道を一人進む事になる。
そんな彼は異大陸の行商人と行動を共にするグウィネスと合流。情報交換を行うと共に、密かに連絡を取り合う手段を手に入れる。
というわけで大精霊達の指示に沿って再び別行動を行う事とした両者は次の宿場町で別れると、カイトは今度はソラ達と再合流。次に一番近い情報消失点へと向かうべく行動を開始するのであるが、そこでは魔族の出没が噂されている所で、調査隊が派遣された所であった。が、その調査隊との合流を目指して動いていた一同が見たものは、調査隊が為すすべもなく壊滅させられた痕跡であった。
「……」
「何か気になる所でもあるのか?」
「ん? いや、焚き火が燃え尽きて暫く経過していそうだな、とな。最近は雨が降っていなかったはずだし、血痕も流れていない所を見るに殺されたのは最近は最近だが同時に直近でもないだろう。一晩か二晩は経過している……だろうな」
瞬の問いかけに、カイトは焚き火の周辺を探りながらそう答える。すでに焚き火は火種すら残らず燃え尽きており、火が消えてからそれなりの時間が経過している事が察せられた。
「そうか……ああ、そうだ。布を掛け終えたぞ」
「そうか。すまん……手間を掛けた。にしても派手にやられたもんだ」
「全部で23人だ」
「23人……そうか……大体一個小隊の人数か。調査であれば十分な数は揃えられているが……」
油断していたとは思いたくないが。カイトは布を被させられたシンフォニア王国軍の兵士達の遺体を見る。流石に同じ王国軍としてそのまま野ざらしは避けたかったし、ここから暫くは彼らもここを拠点として活動せねばならないのだ。衛生的にも心理的にも死体が転がったままというのはよろしくなかった。というわけで報告を受け取って立ち上がった彼であったが、そこに今度はソラから声が掛けられる。
「カイト! こっち来てくれ!」
「ん? わかった」
どうやら何かがあったらしい。慌てた様子はなかったものの、何かを見付けたらしい様子のソラに彼は声のした方へと歩いていく。そうしてたどり着いたのは、軍が臨時で設営したらしいテントだった。
「これは……テントか」
「建物の裏にこれが設営されてたんだ……で、中を見てみたんだけど……」
「何があった?」
「逆だよ。何もなかったんだ。で、お前なら何かわからないか、って思ってな」
「なるほどね」
テントが設営されているにも関わらず、中にはなにもない。ソラの疑問にカイトはなるほどと理解する。そうして彼は改めてテントの仕様を確認する。
「これは……医療用のテントだな。傷病人の手当を行う専用のもので軍医が……軍医の遺体はあったか?」
「いや、見ての通りだよ」
「ふむ……」
医療用のテントには傷一つなく、更には中にも外にも血痕の付着した様子も見られない。おそらくこの近辺での殺戮はなかったのだと察せられた。
「で、何が気になったんだ?」
「中だよ。こっち」
「ふむ」
ここまでならば、単に誰もいなかったと思われるだけだ。別に自分を呼び寄せる必要もない。というわけでカイトはソラの促しに従って、医療用のテントの中へと入る。そうしてすぐに、彼もソラが何に気になったのかを理解した。
「これは……」
「ああ……言ったろ? なにもないんだ、って」
「ふむ……」
一応おそらく傷病人の手当を行うだろう医療器具は持ち出されていない様子だが、本来ならあるだろ軍医の机は乗っていただろう書類やらを含め一切が持ち出された後で、不自然な空白が出来上がっていた。というわけで顔をしかめるカイトへ、ソラが念の為に問いかける。
「一応聞くんだけどさ。医療カルテとかってこの世界にもあるよな?」
「当然な……その机ごと回収されている、か。医療器具は……あるにはあるが……確かにこれは……」
一目で不自然だと理解出来る。それは入って早々にソラがこれ以上立ち入らずすぐに出るわけだ。カイトはそう納得し苦笑の色を深める。
「盗賊とかってわけはないよな? ここらだとそろそろ出没してもおかしくないだろうし……」
「そうだな……ギリギリ出没地域になるが……盗賊達も馬鹿じゃない。軍が一方的に殺されてりゃ盗る盗らないの前に一目散に逃げるだろう。しかもあいつらは臆病だ。魔族が出没する、って言われている所にこの有り様じゃ、手出しなんて出来ない……もし何か持ち出してそれが魔族に狙われたら、って考えると厄介この上ないからな」
正規の王国軍でさえ手を焼く魔族達だ。装備も禄に整っていないだろう盗賊達に勝ち目なぞ一切ない。しかも相手は奇襲しているとはいえ王国軍を一方的に壊滅させているのだ。なおさら勝ち目なぞなかった。
「そっか……ああ、それで。多分あそこに治療用のベッドもあったんじゃないか?」
「……そうだな。あそこで怪我をしたヤツを乗せて治療するベッドがあるはずだ。で、終わったヤツを更に奥のベッドで寝かせて休ませるわけだが……そっちは?」
「まだ見てない。流石にこの時点でヤバそうだったからな」
「それが良いだろう」
どうやら入って早々に何かが起きた事を察したソラはそれ以上進む事を避けたらしい。というわけでカイトはソラと瞬――話の流れで着いてきていた――をその場に留まらせ、自身一人で奥へと進む。
「……未使用、か。どうやらこっちは用意されたものの使われてもいなかったようだ」
「ってことは、何か見付けたってわけか」
「だろうな。そしてそれが魔族に襲われる原因になった、ってわけだろう」
これは魔族がここら一帯に居た理由を調べるのであれば、その奪われた何かを探すしかなさそうだ。カイトはそう判断し、苦い顔を浮かべる。
「どうしたもんかな……現状、大神官様も一緒だから安易な行動は避けたいんだが」
「そっか、そうだよな……あ、そう言えば中に軍医はいなかったんだが外で見つかってたのか? そっちに誰もいなかったってことはここに残ってなかった可能性もあるだろ?」
「ん? ああ、確かにそうだな。遺体を一つひとつ見ていなかったが……兵士には認識票の所持が義務付けられているから、見分けられるはずだ」
「どこにあるんだ?」
「胸ポケットの所に入れるか、ジャケットの内側に入れているのが一般的だ……まぁ、他の所に入れているヤツもいるから一概には言えないが……流石にそれまで魔族共が持ち出しているとは思いにくい。一度探してみよう」
もしかしたら軍医の遺体には何か情報があるかもしれない。三人はそう考えて再び遺体が並ぶ一角へと戻る事にする。そうして十数分。全ての遺体を確認して、カイトは盛大に顔をしかめる事となる。
「……全部ハズレだと? となると……」
「連れ去られた……か?」
「……しかないだろうな。こういった魔族絡みで軍医が同行しない作戦はまずない。しかも医療用のテントまで設営されている以上、絶対に同行しているはずだ」
それがないということは間違いなく魔族達が連れ去ったという事だろう。カイトは自分達がここに来てからも姿を現さない軍医に、生きているとするのならばこの付近にはいない事は間違いないと判断していた。というわけで一同は周囲の警戒を厳重にすると共に、再び建物を探索して軍医の遺体がないかの再探索をこの日一日掛けて行う事になるのだった。
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