第3340話 はるかな過去編 ――再出発――
世界の情報の抹消という事態を受けて、大精霊達からの指示によりその解決に乗り出す事になったカイト。彼は未来から来たソラ達と共に調査を開始する。
そうして調査を開始して早々にかつて開祖マクダウェルと共に魔族の侵攻を退けた先代の『黒き森』の大神官グウィネスの痕跡を見つける事になった一同は彼の可能性のある一団が別々のルートを通っていた事からカイト一人とソラ達に別れて行動する事になる。
そこで単身旧街道というあまり舗装されていないかつ細い街道を進む事になったカイトはそこで異大陸の行商人とその幼馴染にして護衛の女剣士と行動を共にするグウィネスを発見。情報交換を行うと、カイトは次の宿場町でソラ達を待つ事にしてグウィネスとは別行動を取る事になる。
というわけでグウィネスと別れた翌々日。アルヴァ達への報告を終えたタイミングでソラ達が宿場町に到着。合流地点として設定されていた宿屋で彼らと合流し、情報交換を行っていた。
「なるほど……」
「あー……まぁ、そういうわけですので……御兄君は何も語っていないそうです」
「の、ようですね」
これは怒っているなぁ。グウィネスと遭遇し彼はすでに出発してい旨を説明したわけであるが、それを聞いたスイレリアは顔こそいつもの上品な様子であるが拳は握りしめられているし頬は引きつっていた。明らかに怒りを湛えている様子であった。
「まぁ、この際。確かにあれや貴方の言う通り合流するべきではないという事は事実でしょう。下手に合流してしまえば非常に目立つ。周囲への情報漏えいの側面からもあまり良いとは思えません」
あれ呼ばわりですか。カイトはおそらく一人っきりであれば暴れまわっているだろう様子を見て流石は大神官と内心で感心する。というわけで、誰も何も言えない――唯一聖獣は非常に楽しげに笑っているが――中でスイレリアが心底呆れる様に続ける。
「異大陸の商人達ですか。またどこまで旅をしたものやら」
「はぁ……ただ彼女らも油断ならない腕は持っていました。護衛として見れば十分かと」
「異大陸であれあれに護衛が必要になる事態は早々ありませんよ……まったく。まぁ、良いでしょう。今は愚痴を言うべき場でもありません。本題に戻れば、敵はどこに出られるかわからない、ですか」
「ええ。おそらく『ドゥリアヌ』にせよ敵はどこに出るかわかっていない可能性は非常に高い。グウィネス様のお話から察するに、ではありますが」
「でなければあれの近くに出現、なぞありえぬ事態ではありますか」
この敵が何者かは未だに見えてこないが、少なくとも自分が追われる立場である事は承知しているはずだ。ならば基本的には人目につかない所に出たいはずで、そうしないのであればそれなりの理由があるはずと一同は考えていた。というわけでカイトとグウィネスの推測について考えていたスイレリアであるが、一つ深い溜め息を吐いた。
「ふむ……何が目的かが分かれば、どこに出現するかなどがわかるかもしれないのですが」
「それはわからない、が正直な所でしょう。敵意があるかないかさえわかっていないと言って良い」
「敵意がない? これだけ大事を起こしておいてか?」
カイトの言葉に瞬が驚いた様に口を挟む。これにカイトは一つ頷いた。
「ああ……実際、考えてもみろ。『ドゥリアヌ』の一件がもし敵意を持っての行動だったとするのなら今頃ソル・ティエラ王国は壊滅だ。大々的に穴を空けて『狭間の魔物』を引き込めば良いだけだからな」
「そうか……敵は何かはわからんが『狭間の魔物』を操れる様子なのか。ならばそれを引き込めば……」
『狭間の魔物』の恐ろしさはかつて交戦を行った瞬も良く理解している。場所の詳細な指定が出来ないでも、ある程度国内に送り込めるのであれば簡単に一国を落とす事は出来るだろう。
しかもその魔物は他の生物と融合して操るのだという。強大な『狭間の魔物』を操らせて送り込めば十分に大抵の国は滅ぼせるだろう。それこそカイトやグウィネスが見たという巨大な目の魔物でも送り込めば、一日と経たず大抵の国は滅びるだろう。無理なのはカイトら八英傑を有する七竜の同盟ぐらいだ。
「そうだ……そしてもし事故であったとしてもすでに『ドゥリアヌ』を壊滅させている。追って各国が共同歩調を取って警戒されるのは目に見えている。なら警戒態勢を取られる前に一気に本丸を攻め落とすしかないが、その様子もない……それに他国が狙いなら『ドゥリアヌ』を落として警戒させる道理はないしな」
「ということは……やはり魔族ではない?」
「その可能性は非常に高いだろう。それに魔族ならたとえ事故ってても『ドゥリアヌ』よりウチのどこかを狙いたいはずだろうしな」
魔族の大将軍級は当然のこと軍団長級などという強大な魔族と対等に戦えるのはかなり限られる。ごく少数にはフェリクスの様に戦える戦力を各国抱えている――というより抱えていない国はすでに滅んでいる――が、それでも八英傑ほどの戦力が整っている同盟は存在していない。こんな世界に弓を引いてまで行う奇襲は一度しか通用しない以上、狙うべきはそのどこかが良いはずだろう。
「さて……本当にこうなってくると何が狙いかわからんくなってきたぞ……」
「国家転覆でもない、魔族達による策謀でもない……確かに何が目的かと問われると想像できんな……」
おそらく魔法の練習などのありきたりな理由でもない様子なのは確実だ。そうであれば別に見られても良いし、『ドゥリアヌ』壊滅という大事件を引き起こす必要もない。目的が想像が出来なかった。
「そういうことだな……どうしたものですかね」
「ええ……先の開祖マクダウェル達が解決した事態は単なる事故だから、そういった事を考えずに良かったわけですが……何者かの意図が垣間見えると厄介ですね。それに応じて対応を変えなければなりませんから」
「ええ……」
スイレリア同様、カイトは苦い顔で彼女の言葉に同意する。と、そんな一同の脳裏に声が響いた。
『大神官殿。今お時間は大丈夫でしょうか』
「王子殿下……構いません。勇者殿が頼んでいた事ですね」
『は……そこから最寄りの情報消失点の割り出しが完了致しました。地図はありますか?』
サルファの問いかけに、カイトは机に周囲一帯の地図を広げる。
「これで大丈夫か? 全土の地図も持ってきているが」
『大丈夫です……今、情報を記載します』
カイトの言葉を受けて、サルファが魔眼で地図に印を浮かび上がらせる。そこはここから数日の山間だった。しかしそれを見て、カイトは僅かに顔をしかめる。
「ここ、は……」
『ええ。少し厄介な場所ですが……一番近いエリアはそこでした』
「うーん……」
「何があるのですか?」
どうやらわかっているのはカイトとサルファだけらしい。二人して苦い顔を浮かべていたのを見て、スイレリアが問いかける。そうして投げかけられた問いかけに、カイトが事情を説明した。
「つい先日、魔族がここで活動している可能性が報告されていたのです。追って、調査隊が向かう予定ではあったらしいのですが……」
「魔族が……」
何が目的なのだろうか。今回の一件と別の可能性は高そうだが、同時に無関係ではない可能性も十分にある。カイトからの情報にスイレリアも苦い顔を浮かべるしかなかった。
「王子殿下。それ以外では?」
『申し訳ありません。今調べてはいますが……』
「……あまり時間を無駄にする事も、ですか。わかりました。一度そこで良いでしょう」
「良いのですか? 危険ですが……」
「この相手と魔族のどちらが危険かわかりませんよ」
カイトの確認に対して、スイレリアはおそらく今自分達が追いかける相手の方が危険だろうと暗に口にする。そうして一同はその日はゆっくり身体を休めて支度を行い、再び情報消失点を目指して出発するのだった。
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