第3332話 はるかな過去編 ――追跡――
世界の情報の抹消という自然には起き得ない事態の発生。カイトは未来から来たソラ達と共に大精霊達の指示を受け、その事態の収拾に乗り出す事となっていた。
というわけで一同は今のところ有力な手がかりもなかったことから、先代の『黒き森』の大神官にしてかつてマクダウェル家の開祖と共に戦った大神官グウィネスか、その彼が救ったと思しき商隊から情報を手に入れるべく行動を開始。彼が行動を共にしていると思しき商隊を追うべく、カイトはソラ達と別れ一人旧街道を進む事になっていた。
というわけで一人旧街道を進んでいたカイトであるが、途中で『風の導き』が反応。おそらく世界の異常が起きたのだと思われる地へとたどり着いて調査を行うのであるが、物理的・魔術的な痕跡がなかった事から自然的に発生したものだと判断。彼は再び商隊を追う旅に戻る事にしていた。
「そう言えば完全に聞きそびれていたんだが」
『なんですか?』
「世界の異変が起きた後のこの状態ってこのまま放置で良いのかな」
『あー』
確かに気になっても仕方がない。カイトの呈する疑問に対して、サルファはなるほどと頷いた。元々世界の修繕力により元通りになるとは言われているし、実際現時点でも一見普通の空間にしか見えない。カイトやサルファの様に優れた感覚があればこそ異変の痕跡を見つけられるというだけだ。
『大丈夫かと思われます。世界の修繕力が働く間は、ですが』
「それが通用しなくなった状態だとヤバいか」
『そうですね……ただまぁ、先に大精霊様がおっしゃっていた所では万が一完全に情報の消失が起きたとしても復元が可能との事でしたから、最悪はなんとかなるのではと』
「そうか……まぁ、所詮オレ達は人の子。大精霊様達の様に世界側の存在が考える事を気にしてもしゃーないか」
『そうした方が良いですね』
結局の所そんなことを考えた所で無駄だ。そう口にしたカイトにサルファも笑いながら同意する。そうして、カイトは再びエドナに跨って商隊の追跡を再開するのだった。
さて商隊の追跡を再開して暫く。魔眼の連続使用は危険とサルファも休ませた事でカイトは再び一人のんびりとした旧街道の旅に戻っていた。
(やはり街道は荒れてるな……まぁ、この旧街道はかなり入り組んでるから使い勝手も悪い。利点としては山間を通るから次の宿場町に早く到着する事だが……)
日数としては一日変わってくるんだったか。カイトは一般的な商隊の進行速度を思い出し、何かこの旧街道を使う理由があったのだろうと考える。そうして旧街道を進む彼であったが、そこでふとした疑問を得た。
(ふむ……荒れているは荒れているが……思ったより荒れていないか? 馬車の行軍で迂回せねばならん所があるかと思ったんだが……)
当然であるが、エドナのような天馬は別にしても普通の馬であれば多少道が荒れていても移動は出来る。が、馬車を引いているとなると話は別だ。
荷車の車輪が荒れた地面に足を取られればそれだけで移動が難しくなるし、下手をすると車輪が外れたりして一切身動きが取れなくなる可能性もある。急がば回れとは言ったものであるが、舗装されていない街道より多少遠回りになっても舗装された街道を使う方が良い事は多かった。
(商人達が費用を出し合って街道の整備はある程度していたとは聞いていたが……思ったよりしっかりとした整備をしているのかもしれないか)
これなら確かに小規模な商隊かつ優れた護衛が居るのであればこの街道を通って近道を、と考える者が居ても不思議はないか。カイトは道中の魔物の危険性を除けば十分使用に足りる旧街道の状況を見て、そう判断を下す。というわけでそんな事を考えながら進む彼であったが、その途中。十数人の集団と遭遇する事となる。
「ん?」
「おっと……兄さん! ちょっとストップ! 止まってくれ!」
「おっと……」
向こうがこちらに気付いたと同時に大声を上げて制止したのを受けて、カイトはエドナを停止させる。それを見て先に声を上げた筋骨隆々、いかにも土木作業に携わっている者というような様子の大男が手を挙げた。
「すまねぇな! 兄さん、冒険者か何かか?」
「ああ、まぁ、似たようなものだが……王都から来てここらの事情がわかっていないんだが、何をしているんだ?」
「ああ、ちょっとこの先の地面が戦闘だか天災だかで荒れちまったって報告があってな。協同組合の依頼で街道の整備作業をしてるんだ」
「ほう……」
カイトは大男が後ろ手に指し示す箇所を見て、その周辺で土を入れたりして街道の整備を行う何人かの作業員を確認する。どうやら全員が全員土木作業の従事者というわけではないらしく、半数ほどはその協同組合とやらに雇われた護衛の冒険者だったようだ。
「時間、掛かりそうなのか?」
「昨日からやってて今日か明日には終わると思うが……ちょっと今日一日は固まるまでまったりしないといけないから通れない。すまねぇが、横を通って貰えるか?」
「それはわかった……協同組合っていうとあれか? 宿場町同士でやっているという……」
「そうだ。基本お上が手の回っていない箇所は俺達が自分達でやるしかねぇからな……宿場町で独自の金貰ってんだからそれぐらいはやるか、ってなってんだ」
この時代のカイトは今更だが軍事にしか明るくない。なのでこういった宿場町で行われている政策やらは全く明るくなく、そうなのかと思うばかりであった。
なお、独自の金というがいわゆる宿場町の維持費のようなもので、利用者の料金に若干の上乗せをして維持費としてそれを活用しているのであった。そこらの運用を任されているのが、先にカイトが出会ったカリスら顔役達というわけであった。
「そうか……まぁでも補助金も出てはいるんだろう?」
「出てはいるらしいがね……俺らも知らねぇ」
「あっははは。ま、オレもそんな話を冒険者ギルドの会報で読んだだけだ」
「俺も商人ギルドの会報で読んだぐらいだ」
「商人なのか?」
「いや、俺っちは商人ギルドで雇われた単なる土木屋よ。ただ専属で雇われてもいるから、暇になった時に読んでみたんだわ」
あはははは。カイトと大男は二人して自分達の学の無さを笑い合う。そうして笑いあった後、大男が首を振る。
「っと、悪いな。そういうわけだから少し迂回して貰えるか?」
「わかった……ああ、そうだ。一つ聞きたいんだが、この街道って良く人は通るのか? なんだか誰ともすれ違わなくて、道を間違えたか不安になっていた所なんだ」
「兄さん、ここらは初めてなのか?」
「初めてってわけじゃないが……戦争が起きてからは初めてだ。一人だと初めてだしな」
「兄さんの年齢だったらそりゃもう初めてと変わらねぇじゃねぇかよ」
戦争が起きてから、となるともう十年近くも昔だ。シンフォニア王国では一度目の侵攻と二度目の侵攻を一続きで見る動きが強く、この大男は苦笑気味にそう口にしたのであった。
「まぁ、時々急ぐ商人達が通るぐらいだ。昨日は……一組二組いたが。今日も一組兄さんより先に……朝方か? 通った感じだ。まぁ、あいつらは急いでるって様子じゃなくてなんか別の用事だったみたいだけどな」
「それでオレは誰もすれ違ってないわけか」
「そういうこったな」
おそらくこの朝方にこの補修しているエリアを通ったのが自分が追う商隊だろうな。カイトはそう判断する。そうして、彼はこの旧街道を通った事に間違いなさそうだと判断。工事の者たちに別れを告げ、少しエドナの足を急がせて商隊を追いかける事にするのだった。
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