第3324話 はるかな過去編 ――情報収集――
世界の情報の抹消という普通は起きない事態の発生。その調査と原因究明に向けて動く事になったカイト。そんな彼と共にソラ達は大精霊の中継地となれる事から調査に同行する事となっていた。
というわけで手始めにシンフォニア王国の王都からほど近い草原にて発生した情報の抹消を調べる事にしていたのであるが、そこはすでにかつての『黒き森』の大神官にしてスイレリアの兄であるグウィネスが戦闘を終えた後であった。
そうして彼の残した痕跡を頼りに探索を進めたところ、彼が交戦した理由が巻き込まれた一般市民にある事を理解。その一団が向かっただろう方角から宿場町の一つを割り出すと、一同は夜になるかならないかという時間でそこへ到着。カイトはソラ達に宿の手配を任せると、自身は宿場町の顔役の一人と言われる人物に会いに行く事にしていた。
「で……最近はどうなんだ? えらく盛況な様子だが」
「生き残っている宿場町はどこもこんなものだろう。安全面からも兵力は集中させねばならない……という国の指示だったと思うが」
「まぁな」
何度か言われているが、宿場町は本来はもっとあったのだが、戦乱の勃発により統廃合が進んだのだ。その理由も至極明白で、本来は衛兵がほとんどいなくて大丈夫な小規模な宿場町は当然だが防備が薄く攻め込まれれば一巻の終わりだ。なのでそういった手薄な宿場町を廃棄して、重要な地点に宿場町の機能を集約させる事にしたのである。
「はぁ……戦争さえ終わってくれれば、また元通り各所に宿場町を置けるんだろうが」
「まぁ……それはそれで今更だがどうかと思わなくもないがな。宿場町で雇われている俺が言うべきではないかもしれんが」
「そりゃそうかもしれんがな」
カイトは大男と二人、現状が正しいのか安全面を多少おろそかにして宿場町が色々な所に点在している事が正しいのかと同じ様に苦笑を浮かべる。そうして僅かな苦笑を交えた二人であったが、カイトは早々に思考を放棄した。
「まぁ、そりゃ良いか。オレ達が考える事でもなし……おやっさんとも話していたが、お前が雇われとはいえ護衛とはな。<<破壊>>バルトロと言われてたのは今は昔か」
「お前やオヤジと一緒だ。それまでなんとも思わなかったのに故郷が滅びたら故郷のために何かをしたい、と思うようになってしまった。壊し尽くした俺が言うと笑われるかもしれんが」
<<破壊>>バルトロ。それはこのバルトロというらしい大男の冒険者時代の二つ名のようなものだった。
「ま、あの頃好き勝手やってたやつなんて全員同じ様なものってわけか」
「フェリクスのオヤジ同様にな」
「違いない……ああ、そうだ。この間フェリクスのおっさんにあったぞ」
「今度は南か。お前も忙しいな……元気そうだったか?」
「元気は元気そうだった。まぁ、色々とあるが」
色々との色々で今各所を歩き回っているわけだが。カイトはそう思いながらも、語れない部分があったのでそう言うに留める。そしてバルトロもまた、カイトの顔に浮かぶ多大な苦みに何かを察したようだ。
「……そうか。噂程度なら入ってきたが。お前が今動いているのはそれか」
「もう伝わっているのか……当たらずとも遠からず、って所か」
「そうか……それだったらあのおっさんは今頃激怒してるんだろう……ただでは済まさんだろうな。昔からそうだった」
あの噂が事実であるのなら、王国も切り札たるカイトを動かすだろう。バルトロはそれを察したらしい。笑いながらも内心で煮えたぎるマグマを沸き立たせているフェリクスの顔を思い出し、敵に僅かな憐憫を抱く。
そうしてそんな色々な事を話しながら歩くこと暫く。二人は表町の中でも有数のレストランへとたどり着く。そこでは入口には本日予約客のみ、という札が掛けられていて入口の前には何人かの冒険者崩れと思しき若い戦士達が立っていた。そんな彼らはバルトロを見るなり、驚いた様子で頭を下げる。
「バルトロさん」
「どうされたんですか?」
「そいつはいったい……」
いくらカイトとはいえ、こんな所に他の騎士も連れず、更には騎士の鎧も着ていなければ彼がカイトだと一目でわかる事はなかったのだろう。おおよそ若い護衛の戦士達はバルトロというこの宿場町有数の実力者が連れてきた若い男がわからず首を傾げていた。が、どうやらこの護衛を取り仕切っていた人物はわかっていたようだ。
「こいつは驚いた……まさかまさかの大人物か」
「エーリクさん。ご無沙汰しております」
「おう……お前が来たとあっちゃ、マダムがお喜びになるな。だが……そうか。会合の最中にお前が来るとなると、色々と面倒な事が起きてるってわけか」
「あははは……お察しの通りではありますが……少しこの街の顔役達のお力添えを頂きたく」
「お前が動いて拒める奴が居るかよ。ちょっと待ってな。マダム達に聞いてこよう」
シンフォニア王国最強にして名高き四騎士の家に属するカイトが公的であれ非公式であれ動いているということは即ち、その後ろにはアルヴァなりロレインなりの王族の中でも最上位の存在がその案件を直々に指示しているということだ。
それを拒む事はこの二人の勅令を拒むに等しく、否やなぞあろうはずがなかった。というわけでエーリクなる年かさの男がレストランの中へと入っていく。というわけで少しの間外で待たされる事になるのであるが、その間に若い戦士の一人がバルトロに問いかける。
「だれなんっすか、こいつ」
「俺の古馴染みだ。俺がまだアルダートのオヤジの所に居た頃の知り合いだ」
「アルダートっていうとボスのアニキの?」
「ああ」
「「「はー……」」」
となるとボスの知り合いでもあるってわけか。カイトの正体に気付かない若い戦士達はバルトロの言葉になるほどと理解する。
が、同時にカイトが何者かと直接的に聞く者はいないあたり、彼らも裏に片足を突っ込んでいるという所だろう。下手にいらない情報を手にした事で命が危なくなったという話はごまんと聞いていたのだ。というわけでカイトは優れた冒険者、その中でも貴族などから依頼を受けられるかなり有名な相手なのだろうと理解した彼らの羨望にも近い視線を受けながら待つこと暫く。カイトの所へと先のエーリクが現れる。
「待たせた……全員通せという事だ。バルトロ、案内助かった。ここからは俺が引き継ごう……お前もお前の所の指示があるだろうしな」
「助かります」
どうやらエーリクとバルトロであればバルトロの方が地位は高いらしい。実はエーリクは宿場町の統廃合が行われるより前から顔役達に仕えており、自身が直接的に仕えるマダム以外の顔役からも厚い信頼を受けていた。なので手の早い下の戦士達のある主の調停役にも近かったそうで、会場の警護の総指揮を任されているのもそれ故だった。というわけで、カイトは今度はエーリクに案内されてレストランの中へと入っていくのだった。
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