第3318話 はるかな過去編 ――追跡――
世界の情報の抹消という世界全体を揺るがす事態の発生を受け、その解決に乗り出す事になったカイト。そんな彼はその情報収集に乗り出そうとしたまさにその最中に舞い込んだ『ソル・ティエラ』という南国の要塞都市の陥落を受けてそちらへと急行。事態を収拾させた南国『ソル・ティエラ』の北部を統率する将軍フェリクスと遭遇すると、そこで彼から街を襲った厄災についての詳細を聞くに至っていた。
そうして色々な情報を収集した後。彼はソラ達と共に世界の情報の抹消に関しての情報を集めるべく行動を開始する事になっていた。というわけで諸々の偽装工作の後。クロードらに別に用意させていた移動拠点となる竜車を使って、一同は行動を開始する。というわけで動き出した竜車二台の内生活拠点として運用する事になった方に乗り、ソラが目を丸くしていた。
「うわー……すっげ。懐かしいっちゃ懐かしいけど」
「懐かしい?」
竜車の荷車の内装を見て感嘆の言葉を述べつつもどこか楽しげに笑うソラに、カイトが小首を傾げる。
「ああ、俺らもこういう拠点型の荷車を持ってたからな。それを思い出した」
「そういえば冒険部ではありましたね」
「ああ……まぁ、もともとは貰い物なんだけど」
『感謝を忘れるなよ』
「わかってるよ。あれにどれだけ助けられてるかわからないからな」
<<偉大なる太陽>>の言葉に、ソラが少し笑いながら頷いた。そんな彼に、カイトが問いかける。
「なにがあったんだ?」
「ああ、こいつの主人から貰ったんだ。まだまだギルドの運営が始まったばかりの頃の事だけどさ。今後移動拠点は必ず必要になってくるから、って」
「へー……ん? 神剣の主人? 神族も主神級だと!?」
それは良い縁が得られたものだ。ソラの語る話を聞きながら感心を浮かべていたカイトであったが、<<偉大なる太陽>>の主人は即ち一つの神話で主神と語られる存在だと聞いていた事を思い出して仰天する。これにソラは特に気にする事もなく、しかし当時を思い出したのか少しだけ苦笑を浮かべながら頷いた。
「ああ……まぁ、色々とダメ出しも食らったけど。今思えばすごかったなぁ。遺跡一つを丸々作り出すんだから。考古学者に偽装して接触してきてさ。未来のお前が率いてるから、って気になったらしい」
「……」
それは主神級の力を持っていれば出来るんだろうが。それにしたってフットワークが軽すぎる。カイトは未来の自身がどういう繋がりを有しているかはわからないものの、それにより動いたという主神級の神に唖然となるばかりだ。とはいえ、いつまでも唖然となってばかりもいられない。彼は暫くして再起動を果たすと、首を振って口を開いた。
「……い、いや、それは良いだろう。とりあえずそういう事ならおおよその使い勝手はわかるだろう」
「ああ……ここがリビングってか会議用のエリアで、後ろが個室って所だろう?」
「そうだな……まぁ、世界が異なってもそこらは結局人の考える事。同じ様な形になってくるか」
「そういや、そこら面白いよな」
「まぁな」
ソラの指摘にカイトもまた楽しげに笑う。エネフィアの住居もこの世界の住居も、なんだったら地球の住居だっておおよそ形は一緒だ。自分達から見ていびつな形や奇妙な形の暮らし難い形状になっていたり、という事はまずなかった。
「結局、過ごしやすさを考えると最終的には似た形に収斂されるのでしょう。我々の時代でも住居の形状そのものはさほど変化しておりませんから……デザイナーズなんとか、という形で奇妙な形の家を作られる方もいらっしゃいますが」
「あー……芸術系の貴族にもそういうのいるなぁ……変な形の別邸を立ててたり。あれ、反応に困るんだよな」
「あー……それはもしや……」
「……もしかして未来でも存在してるのか?」
「……あはは」
なにそれ。すごい気になるんだけど。カイトが反応に困ると口にして、セレスティアもまたそれはそうなるだろうと困り顔で笑うしかなかったようだ。そんな二人の様子にソラは非常に興味が湧いた様子だが、今から見に行く事も難しかった。というわけで、そんなこんなで呑気な話をしながら旅はスタートする事になるのだった。
さてクロードらと共に荷物の積み込みやら今後の予定の再確認やらを終わらせてそこで別行動となった後。御者席に座る瞬が中の拠点で地図やらコンパスやらを確認しながら次の目的地を探るカイトへと問いかける。
「それで、これからこの街道をまっすぐで良いのか?」
『ああ。ひとまずここから半日ほど進んだ宿場町まで移動してくれ。そこまで行ければ、次は道を外れて南下だ』
「わかった……イミナさん。そっちは問題なさそうですか?」
『ああ。まぁ、幸いこちらは物資が入っている程度だ。竜車の操縦も気楽で良い』
今回、御者は瞬らの中で交代制にしていた。カイトは当然全体の指揮やら万が一の場合にはエドナ――今は居ないがどこででも呼べるので問題ない――で一気に駆け抜ける必要があるし、スイレリアや聖獣にやらせるわけにもいかないだろう。
というより、二人に御者の技術はないので無理だ。となると軍で講習も受けているイミナや、冒険部で学んでいる瞬らがやるのが妥当となったのであった。何より、今回はまだあまり大っぴらに出来ない動きだ。御者も連れて行かないで良いのなら、連れて行かない方が良かった。
「だが大丈夫なのか? 街道沿いだと目立つと思うが」
『目撃される分には問題ない……まぁ、エドナが一緒でなければという所だが』
「まぁ、そこらはお前は目立つか」
『有名になる程度には頑張ってるんでな』
なにせ純白の天馬だ。この時代で純白の天馬に跨る蒼い髪の騎士なぞカイト以外おらず、その組み合わせの時点でカイトですと名乗っているようなものだった。となればどこでも騒ぎになる事は避けられず、彼が中に引っ込んでいるのもそれ故だった。
「そうだな……ソラ。四時間交代で良いか?」
『すね。今回は荷車も結構重いんで、地竜達にもそこそこ休ませてやらないと長時間の移動は厳しいですし』
「わかった……じゃあ、一応何かあったら言ってくれ。こっちは呑気に御者をやっていよう」
『あはは。うっす、了解です』
『頼む……ソラ。一旦ここから先の行軍について話す。時間は取れるか?』
『あ、了解』
『瞬も一応通信機はオンにしておくから、話だけで良いから聞いておいてくれ』
「わかった」
どうせやる事もないといえばないしな。カイトの言葉に瞬はそう思いながら応ずる。そうして、一同は見た目はのんびりとした様子で、旅路を進んでいく事になるのだった。
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