第3315話 はるかな過去編 ――旅路――
世界の情報の抹消という世界全体を揺るがす事態の発生を受け、その解決に乗り出す事になったカイト。そんな彼はその情報収集に乗り出そうとしたまさにその最中に舞い込んだ『ソル・ティエラ』という南国の要塞都市の陥落を受けてそちらへと急行。事態を収拾させた南国『ソル・ティエラ』の北部を統率する将軍フェリクスと遭遇すると、そこで彼から街を襲った厄災についての詳細を聞くに至る。
そうして情報共有を行った後シンフォニア王国王都へと帰還し再びロレインに状況の報告を行い、世界の情報の抹消を行う事で何者かが世界の外に脱しているのではないかと推測。それを元に情報収集を行う事としていた。そうしてカイトはサルファ達から状況を聞くべく『黒き森』へ赴いたわけであるが、そこでシルフィから『風の導き』という魔道具を授かると今度はスイレリア・聖獣と合流し、再びシンフォニア王国の王都へと戻るべく移動していた。
『なるほどのう……『風の導き』か』
「ああ。予兆……らしいものを観測し、それを教えてくれるものらしい」
『猶予があれば良いがのう』
「それは何も言えんな……」
聖獣の言葉に、カイトは深くため息を吐く。先にシルフィも話しているが、この『風の導き』はあくまでも予兆と思しき世界の変化を観測しカイト達に教えてくれるものだ。しかも厄介な事にこれは自然現象も観測してしまうので、正解かどうかは行ってみないとわからないのであった。
「まぁ、ソラ達も居るから間に合う程度にはしてくださっているとは思うが……」
『妾の背もこれ一人で精一杯じゃからのう』
「もう少し大きくなれば良いではないですか」
『あまり大きすぎると目立ちすぎて話にならん。それに何より、今回の旅路では移動し続けるから馬車を使うのであろう? ならばどうにせよ足手まといは生じよう』
言う必要もない事であるが、エドナがいるカイト。古龍である最上位の存在の端末たる聖獣とその背に乗れるスイレリアに比べてソラ達の移動力は非常に低い。なので猶予が短ければ短いほど、彼らの移動力の低さがネックになってしまうのであった。というわけでそこらに言及した聖獣であったが、そこでふと疑問を口にする。
『そう言えばその魔道具。もしやこの世界全域……いや、言い換えた方が良いか。この星全土の異常を検知するとかそういう事はありえんか?』
「それは無いでしょう。無限遠にどこまでも、とされてしまうと本命本元の察知が遅れてしまいますから、精々シンフォニア王国とレジディア王国ぐらいなのではと」
『じゃと良いが』
スイレリアの推測に、聖獣もまたそうであれば良いが、と口にする。この世界でも最大の移動力を有するカイトを前提とするのならどこでも良いかもしれないが、そうではない聖獣らであるとあまり遠方に呼び寄せられてしまうと次の対応に困る事になるのは当然で、彼女がそれを危惧したのも自然な事だった。というわけでそんな懸念に、カイトも一つの懸念を口にする。
「なるほど……それを考えると今回の事態が複数人であった場合、二つの場所に同時に発生で片方を隠したりもあり得るかもしれんか」
「それは警戒せねばならないかもしれませんね」
『そうなった場合はどうするか、考えた方が良かろうな』
「どうするか、か……」
そう言うは良いが、ほぼほぼどうするべきかなぞ決まっている。政治的な案件以外ならば単騎でおおよそ全ての事態を解決可能なカイトが単騎で駆け抜け、もう片方をスイレリア達が片付けるしかないのだ。
「……わかっちゃいたが、世界を敵に回して何かをなそうとする奴ってのは厄介だな……」
「いえ、まぁ……」
『普通はそんなことせんからのう。人の身で大精霊様に勝ち目なぞあろうはずもない。それが魔法使いであれ当然じゃ……それでも敵に回すのであれば、事前に入念な策を練っておって当然じゃろう』
カイトのぼやきに対して、スイレリアも聖獣も苦い顔だ。基本大抵の無礼であれ何もしてこない大精霊であるが、敵に回した瞬間カイトやレックスのような大英雄と呼ばれる者たちも一気に動員出来るのだ。
その時点で厄介なのに、当人達も世界のシステム側であるからこそ人知の及ばぬ領域で察知が出来る。隠そうとすると現状同様に世界の情報を消して手に入れられないようにするしかないが、それそのものもまた痕跡だ。いつかは追い詰められる事は確定的だった。
「そうだよなぁ……一体全体何を考えているんやら」
『わからん……ああ、そうじゃ。そういや聞きそびれたが、南国に行ったそうじゃな』
「ああ、要塞都市『ドゥリアヌ』か?」
『そこの魔物を教えてくれ。何があった?』
「そう言えば話していなかったか」
聖獣の問いかけに、カイトはそういえばと思い出す。本当はそこらも話すために『黒き森』へと赴いたわけであるが、『ドゥリアヌ』の一件があったせいでそもそもが当初の予定から遅れていた事と『風の導き』を手に入れた事によりそちらに話が及んでいた事ですっかり報告を失念していたのである。というわけで、それを聞いて聖獣もスイレリアも険しい顔になる。
「……それは」
『……うむ。妾が狩った一体にそういう奴がおるな』
「ということは……こいつは何かしらの関係性がありそうか」
『うむ……偶発的にそういう系統の『狭間の魔物』がおる場所の近くにこの世界があるか、それとも今回の犯人が意図的に送り込んでおるかはわからんが。少なくとも何かしらの関連性はあろうな』
「この件と無関係でない方がありがたいといえばありがたいんだが……いや、ありがたくねぇか」
どっちでもありがたくない事には違いない。カイトはそう思いながら深くため息を吐く。そうしてそんなこんなを話しながら超高速で進み続ける三人であったが、昼過ぎに出て夕方にはシンフォニア王国の王都へとたどり着く事になるのだった。
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