第3314話 はるかな過去編 ――風の導き――
世界の情報の抹消という世界全体を揺るがす事態の発生を受け、その解決に乗り出す事になったカイト。そんな彼はその情報収集に乗り出そうとしたまさにその最中に舞い込んだ『ソル・ティエラ』という南国の要塞都市の陥落を受けてそちらへと急行。事態を収拾させた南国『ソル・ティエラ』の北部を統率する将軍フェリクスと遭遇すると、そこで彼から街を襲った厄災についての詳細を聞くに至る。
そうして情報共有を行った後。カイト達は『ドゥリアヌ』壊滅とフェリクスとの情報共有により当初の予定を大幅に繰り上げて『ソル・ティエラ』を後にしてシンフォニア王国王都へと帰還。再びロレインに状況の報告を行い、世界の情報の抹消を行う事で何者かが世界の外に脱しているのではないかと推測。それを元に情報収集を行う事としていた。というわけで、カイトはソラ達に旅路の用意を任せると自身は一路『黒き森』の都へと足を伸ばしていた。
「どうだ? 何か手がかりは掴めてるか?」
『……ごめんなさい。やはり情報は視えなさそうです。場所に記されている情報もおおよそが復元されていますし、復元されてしまうと僕にもどうしようもない。消えればそれはそれで視えるとは思いますが……』
カイトの問いかけに、『黒き森』の最深部にあるとある霊樹の上部に生えている様な緑色の琥珀の様な結晶の中から答える。
彼の魔眼はありとあらゆる情報を視る魔眼だ。森の中心となる霊樹よりサポートを受ける事で情報の処理能力を上げられるらしかった。というわけで森、ひいては動植物を通じて送られてくる情報をああやって可視化。処理しているのであった。
「そうか……『ドゥリアヌ』の情報は視えたか?」
『ええ。一瞬、爆発が起きた事は』
「抹消は?」
『ごめんなさい。やはり予兆を探り当てるのは厳しいかもしれません……何か魔術的な……特異な前兆が視えれば、というところですが……』
「そうか……おそらく何かしらはあるんだろうが。流石に多すぎるか」
やはりサルファの魔眼の難点はそこだな。カイトは処理出来る情報量があまりにも多すぎるが故に何も手がかり無しでは探す事の出来ないサルファに対してそう思う。
実際としては彼の魔眼には今回の事件を引き起こしている元凶が何をしているか視えている事はほぼ確実なのだろうが、同時に不要な情報の中からそれを見つけ出すには手がかりがなさ過ぎてどうしようもなかったようだ。
「わかった。とりあえず何か情報を探す手がかりがないか、調べる事にしよう」
『お願いします。僕も一応兄さんの周辺情報は常に監視しているので、サポートは出来ると思います』
「わかった……だがあまり無理はするなよ? いくら森のサポートを受けられているとはいえ魔眼の使用は負担が大きい」
『わかっています……今回の主敵は間違いなくこの後。となると、ここで無茶をしてしまって後で足手まといになる方が駄目ですからね』
カイトの言葉にサルファはあくまでも今の調査がこの先に待ち構える敵との戦いの序章に過ぎない事を口にする。
「そうだな……まぁ、オレ達だけで追い詰められればそれに越したことはないんだが」
『難しい……のでしょう』
「おそらくな」
未来の情報ゆえに正確なところはわからないが、どうやら今回の事態は更にもう一度何かしらの大きな事件を引き起こす様子がありそうだ。カイトはセレスティアの反応でそう判断していた。と、そんなところに。サルファが目を見開く。
『これは……』
「どうかしたか?」
『……風の大精霊様からのお言葉です。風の導きに従いなさい、と』
「風の導き?」
大精霊の言葉としては正しいのかもしれないが、何を言っているかよく理解はできんな。カイトはサルファの読み取った言葉をいまいち理解出来ず、小首を傾げる。
なお、シルフィっぽくない様子があるのはこの世界のシルフィだからだ。エネフィアの姿を取れるのはあくまでも全ての世界と接続している聖域だからこそ。外ではその条理を覆す事はいくら彼女らでも出来ないのであった。というわけで小首をかしげた彼の前に、ふわりと翠緑色の宝玉が舞い降りる。
「これは……」
『それが風の導きだそうです』
「魔道具か。なるほど、助かる……だがこういうのはノワールが作ってくれてるんだが」
『……それとは違い、事前段階を追跡するためのものだそうです。やはり大精霊様達側には兆候が掴めているのかもしれません……いえ、兆候は掴めていないけれども、兆候と思しきものはという所なのでしょうが』
基本的な話として、ノワールの作成した魔道具は起きた事象を調べる事は出来る。が、起きる前の事象は探知出来ないのだ。それに対してこの翠緑色の魔道具はそれが出来るという事なのだろう。
「なるほどな……まぁ、当然の話としていきなり情報を抹消は難しいか」
『おそらく。世界の情報はあまりに多い。それを一瞬で抹消しようとすると巨大な魔力が必要になるでしょう。ですがそれが観測されないのであれば、密かに。そしてゆっくりと気付かれない程度に情報を抹消していっていくしかない……それがどのようにかはわかりませんが……』
それがわかれば話は早いが、それがわからないから調べようというのが今の段階だ。どうしようもなかった。というわけでため息を吐いたサルファに、カイトも笑う。
「しょうがない。わからないから調べようってのが今だ……で、こいつを使えばその兆候がわかるって話なのか」
『おそらくその改変を探れるのでは……あ、追加来ました……えっと……但しこれは世界の流動に伴う変動も感知してしまうので、人為的でない物まで察知してしまう。そこは現地に赴いて確認して欲しい……だそうです』
「まぁ……確かに今回の話だとその人為的でない物を利用されている可能性もありそうか。そうなると、もう天然自然の動きも察知しないとどうしようもない……か」
そこを見極められればとは思うが、そこまでうまい話は転がっていないか。そして何より、それが出来るのならわざわざ調査に赴く必要はなかった。というわけで、カイトは『風の導き』という魔道具を手にスイレリア・聖獣の二人と合流。二人を連れてシンフォニア王国の王都へと再び戻っていくのだった。
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