第3311話 はるかな過去編 ――情報交換――
セレスティア達の世界の過去の時代から元の時代のエネフィアへ戻るべく活動を続けていたソラ達。そんな彼らは自分達が解決せねばならない幾つかの事件の存在を知るわけであるが、それらはどれもこれもがセレスティア達の時代において、意図的かそれとも本当に原因不明かは別にして原因不明とされた出来事であった。
その中の一つである世界の情報の抹消という事態を解決するべく動き出した一同であったが、そんな彼らに舞い込んだのは南国にある要塞都市『ドゥリアヌ』という堅牢な要塞が謎の事件により一夜にして陥落したという当時の者たちからすると到底信じられない情報であった。
そんな情報に対して得られた手がかりからそれが魔族でない可能性が高いと判断したシンフォニア王国の要請を受けたソラと瞬の両名はカイト・おやっさんの両名が率いる調査隊に加わると、飛竜を使って『ドゥリアヌ』へと急行。そこで『ドゥリアヌ』の防備を担う総司令官の上官にしてカイトとおやっさんの古馴染みであるフェリクス将軍なる人物と遭遇。彼との間で情報交換を行う事になる。
「さて……で、こっちだな。こいつらが同席している意味だが……端的に言えば大精霊様のご指示によるものだ」
「……なに? 大精霊様直々のご指示?」
『ソル・ティエラ』側からの情報公開が行われた後。ソラ達が同席する意義に理解が及ばなかったフェリクスの問いかけに答える形で語られた話に、フェリクスが半ば信じられないという様子で顔を顰める。
「いや、そうなりゃ確かに筋は通るが……だが、大精霊様だぞ? 確かにお前の国にゃ『黒き森』っていう大精霊様を信望するエルフ達が居る森に繋がってるが……言い方は悪いがこんな小僧共にか? この小僧共に出来る事なら俺でも出来るだろうよ」
「残念な事に、オレもしっかり指示されてるよ」
「それなら……まぁ、納得だが」
現在の人類軍で最強を挙げろ、と言われた時、フェリクスでなくともカイトかレックスのどちらかだと答えるだろう。なのでその彼に大精霊達が直々に指示を下したと言われたとしても、それは自然納得の出来る話にはなった。
「だが何なんだ? お前さんに信託が下ったってんなら、よほどの事態って事なんだろう」
「よほどもよほどだ。大精霊様からのお言葉によると、『黒き森』の先代の大神官グウィネスもこの大陸に戻して大精霊様直々に指示を綿密に与えながら対応されているらしい」
「グウィネス!? それってと……あれか? マクダウェル家の開祖が共に魔族の侵略を退けたっていう大神官グウィネスか?」
「それだ」
「まだ生きてたってのか」
スイレリアの兄グウィネスが語られなくなってすでに等しい。もはや伝説にのみ名が残る人物だ。だがその名は魔族の再侵略を受けている今だからこそ知っている者は多く、死んだと思っている者はフェリクスを筆頭に――『ソル・ティエラ』側は全員死んだと思っていた――非常に多かった。
というわけで驚愕に包まれたフェリクスであったが、そこまでの事態が裏で動いているのであれば、とカイトが駆け付けた理由に納得も出来たらしい。
「確かに、それならお前さんがいの一番で駆け付けたのも納得は出来る。だが、それとこいつらがなんの関係がある」
「……」
とんとん。カイトは自らのこめかみを軽く指で叩く。それにフェリクスもその意図を察したらしい。
『なんだ? 部下にも話せない事か?』
『話せねぇよ……はぁ。オタクのところの上司に話すにしても、あんたなら王様に直接話が出来る立場だろう。これから話す内容は王様かその腹心ぐらいに留めてくれ』
『……つまりこいつらの存在自体が大精霊様の絡みになるわけか』
『流石知将。察しが良くて助かる……それも風の大精霊様だけじゃない。全大精霊様の総意だ』
『な……に……?』
そんな話、物語でさえ聞いた事がないぞ。この世界には大精霊が登場する物語や英雄譚は山のようにある。だがそのどれしもが多くとも一人か二人だ。
本来、大精霊一人との契約者で国を興せるのだ。全員が出てくる物なぞ英雄譚などの現実になるべく近くなるものであれば恐れ多すぎて作れないし、子供達に読み聞かせる絵物語でも全員を出すにはあまりに無理がありすぎて受け入れられにくい。それが全員の総意となると、到底信じられる話でないのは当然だった。
『……彼らは未来から来た、と言って信じられるか?』
『はぁ?』
『あっはははは。だろうな』
「ソラ。お前らが使ってる通信用の魔道具を少し借りられるか?」
「え? あ、おう。良いけど……ほら」
何を話しているかはソラにもわかっていなかったが、カイトが求めるのだ。ならばソラには否やはなかった。というわけで、彼の取り出したスマホ型の通信機を取り出すと、彼に教わった操作方法で中に記録されていた自身が映った写真を取り出す。
『……お前か。だがどこだ? こんな大都市、シンフォニアにゃなかっただろう』
『……未来のオレ、だそうだ。更に正確に言えば来世のオレ……数百年も未来の更に別の世界らしい』
『はぁ?』
作り話にしちゃ荒唐無稽過ぎるし、しかしそれでもこの魔道具がこの世界で作られた物ではない事はフェリクスも直感的に理解は出来た。が、同時に理性では信じられない事でもあった。
『無茶苦茶だな。それを信じろと?』
『大精霊様の名まで出してるんだ。しかもオレの立場で、だぞ。嘘なぞ吐けるか』
『だろうな……』
今回のカイトはシンフォニア王国の指示で動いている。その彼が大精霊の名を騙る事なぞこの世界ではあってはならない事で、特に『黒き森』に強い繋がりを持つ彼がそれをする事はシンフォニア王国国内でさえ大問題になりかねない。最悪それを指示したアルヴァの退任も十分にあり得る事で、嘘を吐くにしてもまだマシな嘘はあるだろうと誰もが察せられた。
『……わかった。その前提で話をしよう。だが未来で別世界か。来世のお前も無茶苦茶だな』
『らしいぜ……で、話を戻すとその未来のオレが問題らしくてな』
『と、言うと?』
『出来ちまったんだと、全部の大精霊様との契約が』
『……はぁ!? おまっ……何!?』
『色々とあったそうだ。オレ自身もこいつらが今居る世界とは別の世界から飛ばされたそうで、その世界には大精霊様の存在が失われてしまっていたらしい……正確には居る事は居るが、人の世では忘れ去られてしまったって塩梅らしいが。で、別世界に飛ばされて……とかなんとか』
『……』
こいつならあり得るかもしれないが、それでも本当にあり得るのだろうか。だがあり得たとすると筋は通る。フェリクスは子供に読み聞かせる絵物語の主人公でもやらない様な話を呆れた様に語るカイトに、彼自身がそれを馬鹿げた話と考えている事を理解する。だが同時にそれを語るからこそ、彼はどうしようもなくそれが真実と理解してしまっている事も理解した。
『……マジってことか』
『ああ……それでこいつらを介して未来の情報の一部がオレに流れ込んでいるんだと。だからこいつらがオレが一緒に居れば、大精霊様が顕現出来る土台が出来るそうだ』
「顕現!?」
「おい、オヤジ!」
『っと、悪い……だが、大精霊様が顕現なさるだと!?』
そんな事態なのか。大精霊が顕現する事態とは即ち、世界全体が滅亡する可能性さえある事態。フェリクスはそれを一瞬で悟る。
『そういうこと、らしい。だからオレがこいつらを連れてきたってわけだ。もちろん呼び出せたりするわけじゃないが……』
『出来たら驚きだが……ってことは、この場も……』
『見られているだろうな』
『……』
どうやらとてつもない事態に遭遇してしまったらしい。フェリクスはカイトとの話でそれを理解。そしておおよそ嘘とは判断出来ないと判断し、口を開いた。
「わかった。今の話は陛下にのみ奏上する。話す時も陛下以外は最低限の兵……それこそ近衛兵以外同席させない様にして頂こう」
「頼む……あまりに事はぶっ飛んでいるが、そうだとしか言いようがない」
「わかった……なら、本題を教えてくれ。何が起きているんだ?」
ここから先の話はソラ達の正体に言及しなくても大丈夫な話だ。なので全員が共有するべきだろうと判断。カイトもまた口を開いて、改めて今回の事態について言及を行う事になるのだった。




