第3304話 はるかな過去編 ――手がかり――
『銀の山』で武器や防具の強化を行ってもらい戻ってきたシンフォニア王国。そこでソラ達を待っていたのは、『黒き森』からの招待状とでも言うべき封書であった。
というわけで同じく封書を受けて『黒き森』へと向かう事になったカイトと共に足の速い地竜を借りて『黒き森』へと赴いたソラは、『黒き森』をほぼ素通りする形で風の聖域へと移動。そこで風の大精霊ことシルフィと再会。彼女から世界の情報の抹消についての話を聞く事となっていた。そうして色々と今回の出来事が人為的の可能性が高い事や今後の方針についてを聞くに至っていたのであるが、その中で調査の手がかりとなるべき事が一つ掴める事になっていた。
「無作為ではない?」
「うん。どうやってかとかは一切抜きにして、今回の犯人は間違いなく世界の壁が弱まった瞬間を狙って事を起こしているよ」
「その様な事が出来るのですか?」
シルフィの言葉は流石にスイレリアも素直に受け入れる事は出来なかったようだ。これにシルフィは半ば苦笑する様に笑った。
「普通は難しいね……けど実は不可能じゃない。そうだなぁ……ソラ。君なら多分この話をわかってくれると思う」
「え?」
「あはは……さて。君達はエネフィアから地球へ戻る方法を探している。彼らの世界の規定に則って言えば世界間転移術だね。安直なネーミングだとは思うけれども」
「「「は?」」」
そんな事をしようとしているのか。カイトとスイレリア、聖獣の三人はソラ達がエネフィアで成し遂げようとしている事を聞いて、思わず目を見開く。もともとなんのために活動しているかは聞いていなかったのだ。そんな彼らの反応に、ソラがもしかしてと問いかける。
「……あれ? 俺カイトにも言ってなかったっけ?」
「聞いた記憶はない……な。そんな事を考えてるのか。凄まじいな……」
「それ主導してんの未来のお前なんだよなぁ……」
仰天した様子で自分を見るカイトに、ソラはそれを主導しているのが未来の彼だとわかっているからこそ微妙な表情だ。とはいえ、本筋はそこではない。なのでシルフィは一同の反応に笑いながらも脱線しつつあった話の軌道を戻す。
「あはは……それは横に置いておこうよ。とりあえず話を元に戻すと、世界間での転移術の行使に向けて動いている。さて、その上で。これに現在必要と考えられている物はなんだった?」
「え? えーっと……まず地球とエネフィア双方の位置情報の取得が必要……なんだっけ」
「そう。移動するには始点と終点が必要だ。始点はエネフィア。終点は地球だね。でも世界と世界の距離は物理的な距離とはまた異なっている。ならば、どうするという話になった?」
「えーっと……確か当初の話だと世界と世界の狭間にドローンみたいなものを飛ばして、二つの世界の場所を観測出来ないかって話だったと思う」
ここらがどう出来るか、というのは研究班に任せていて、ソラもそういう報告があると聞いている事が大半だ。故にシルフィの問いかけに対して、ソラは一つ一つ何ヶ月も前の事を思い出しながら答えていく。と、そんな彼にカイトが問いかける。
「ドローン?」
「ゴーレムみたいなもの……かな。それを灯台として活用して、転移術における始点と終点を固定させる……ってのが今考えられてる方法」
「なるほどな……確かに筋は通っているか」
「そう。ま、そこらは未来の君が主導しているからね。かなり道理は通っているよ」
「は、はぁ……」
シルフィからの称賛に対して、カイトはどこか気恥ずかしさを滲ませながら頷いた。とはいえ、今回この話をさせていたのはこの内容が自身が語りたい話が含まれていたからだ。
「さて……それで、だ。じゃあ、ソラ。こうは考えられない? 外側から二つの世界を観測出来るのなら、世界の形そのものを観測する事も出来るんじゃないか、って」
「「「あ……」」」
おそらく場所を観測するよりもはるかに難しいだろうが、外側から世界を観測する事が出来るのであればその壁を観測する事もまた不可能ではないかもしれない。シルフィの問いかけに、一同ははっとなった様子で目を丸くする。
「そっか……じゃあ、外側から観測し続ければある程度情報さえ掴めてしまえばいつ薄くなりそうかとかもわかるってことか……」
「そういうこと。内側からだと大きすぎてわからない変化でも外側から……離れた場所からなら変化していく様子が良くわかるだろうね。もちろん、狭間の空間は次元や空間という法則も狂っているから、やるなら色々と考えないといけないだろうけれど。例えばソラ達がやろうとしている様に外と内の二つの場所から情報を集めたりして変化を見極めたり、とすれば不可能でもないだろうね……もちろん、これは僕らだからこそ出来ないから、僕ら大精霊の推測になってしまうんだけれど」
それでもシルフィの推測は正しいように思える。ソラ達は揃って彼女の推測に道理を見る。というわけで方法論に筋が通ったのを見て、スイレリアが問いかけた。
「それでは現在この下手人が大っぴらに動いていないのは、まだ情報が集めきれていないからと」
「だろうね。何をしようとしているかは僕らにもわからないけれど。多分そういう事なんだろう」
まだこの下手人は自分の存在がバレない様に動いている。それは一同が現段階で共通して持っている認識だ。というわけでまだ猶予はあると誰しもが判断。ならばと話を次の段階へと遷移させる。
「それで下手人を探すにはどうすれば?」
「方法は一つ……この世界の外側に設置されているだろう端末を見つけ出して、そこから逆算して居場所を掴む方法」
「破壊してしまえば良いのでは?」
「君らしい意見ではあるね。でもこの端末がいくつあるかは下手人にしかわからないから、破壊した所で無駄だろう。何より、狭間に端末を置くという事の意味は冥道を通る君なら良くわかると思うけれど?」
「……なるほど」
シルフィの指摘に、カイトは冥道においては自分達さえ安易な戦闘は避ける事を思い出して、下手人が世界の外側に飛ばしている端末とやらは一つや二つではないだろうと考えたようだ。とはいえ、そんなシルフィの助言に、スイレリアが僅かな懸念を滲ませる。
「上手く行くでしょうか。この下手人とてどこかのタイミングでは露呈する事はわかっているはずです。ならばその端末とやらから逆探知される事も想定に入れているのではないかと」
「しているだろうね……でもそんな彼だか彼女だかでも絶対に想定出来ない事が一つだけあったんだ」
「それは一体……」
「カイト。君だよ」
「私……ですか?」
ソラ達でもセレスティアでもなく自分。まさかの指摘にカイトが目を見開いて驚きを露わにする。これにシルフィははっきりと頷いた。
「うん……もちろん、その想定外の事態を引き起こしている事にソラ達の影響がある事は否定しないよ。でも何より君が重要なんだ」
「……私に出来る事でしたら何なりと」
「ああ、その必要はないよ……かつて語ったと思うけど、未来からソラ達が来た事により未来の君が結んだ縁が君にも引き継がれている。とどのつまり僕ら大精霊の中継地となる力だね。本来、それはより強い力になるんだけど……それは横においておこう。重要なのはそこだ。僕らの中継地となれることだ」
「……つまりは?」
それの何が重要なのだろうか。シルフィの言葉の意図が掴めず、カイトは小首を傾げる。そしてこれにシルフィはこの時代のカイトであればこの疑問も仕方がないと思っていたのでしっかりと教えてくれた。
「つまり、本来外側に出れない僕らが外側から世界の内側を観測する事が出来るんだ。しかも僕らはありとあらゆる所に存在する存在。そして世界を司る者だ。敵がやっていると同じ方法で外と内を見極める事が出来るし、世界側の情報を全て把握する事も出来る。だから情報のやり取りが発生した瞬間を見極める事ができれば、下手人と端末の双方の場所を見極める事も出来る……だろう」
「あ、だろうなんですか」
「しょうがないじゃないか。僕らだってこんな事したことないんだもん。というか、君が居ないと成り立たない作戦なんだから当然じゃないか」
ここまで大精霊らしく語っておきながら最後の最後に僅かに自信なさげな様子を滲ませた自身に思わずたたらを踏んだカイトに、シルフィは少しだけ不貞腐れた様子で告げる。これにカイトが頭を下げる。
「も、申し訳ありません」
「はぁ……まぁ、そういうわけだから。外に出るにしても色々と情報は集めないといけないからまずは起きた現場を巡ったりして情報を集めて貰う必要はあるんだけど、最終的にはカイトが僕らと一緒に冥道から外に出て貰う必要がある。もちろん、今回は事態が事態だから僕らが全面的に支援はするよ」
「ありがとうございます」
「うん……ああ、そうだ。その上で先に言っておくと、スイレリア」
「なんでしょう」
「君のお兄さんのグウィネス。彼にも協力を要請している。ただ彼には彼独自で動いてもらっているから、一旦合流は見送ってくれ」
「ということは……やはり?」
「あはは。そういうこと……まぁ、あまり彼を責めないでやってよ。彼が旅に出る一因には今回みたいな事態が起きた場合に遊撃になれるから、という所があるからね」
「……かしこまりました」
不承不承がにじみ出ているなぁ。シルフィはスイレリアの様子にそう思う。とはいえ、それを気にする彼女でもない。
「ま、こんな所だね。ああ、それでさっきも言ったけど、基本僕らはカイトの近くでないと自由には顕現出来ない。だからもしなにかがある場合はカイトを介して話すから、そこだけ注意しておいて。それとカイトは……まぁ、エドナが居るから問題ないか。あ、そうだ。一応緊急時だから一時的にエドナには僕らの加護を付与出来る様にしておくよ」
「天馬に加護を?」
「別に人でなければ出来ない、っていう道理はないよ。ただ流石に今の彼女が自発的に加護を使う事は難しいから、君がトリガーになる形にはなってしまうけどね」
「「「……」」」
やはり彼女らは大精霊なのだろう。自分達では知り得ない事を山程知っている様子だ。カイトを含めた一同は初めて聞くいくつもの内容に改めてそれを理解する。そうして概ね話が終わった事で一同は聖域を後にして改めて今後の方針を練る事になるのだった。
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