第3302話 はるかな過去編 ――助言――
『銀の山』で武器や防具の強化を行ってもらい戻ってきたシンフォニア王国。そこでソラ達を待っていたのは、『黒き森』からの招待状とでも言うべき封書であった。
というわけで同じく封書を受けて『黒き森』へと向かう事になったカイトと共に足の速い地竜を借りて『黒き森』へと赴いたソラは、『黒き森』をほぼ素通りする形で風の聖域へと移動。そこで風の大精霊ことシルフィと再会。彼女から世界の情報の抹消についての話を聞く事となっていた。
「さて……それでこの一件はおおよそ人為的に引き起こされているという事で納得して貰えたと思うんだけど。ここから先が困った話になってくる」
「困った話……ですか?」
「うん。まぁ、もう察しているかもしれないけれど、世界の情報の抹消は即ち誰がそういった事を引き起こしたかという情報も抹消しているという事でもあるんだ。当然だけどこんな事をしでかした犯人もそれが僕ら大精霊に……いや、それ以前としてこの世界そのものに弓を引く事と同義である事はわかっている。その何者かの目的は僕らにもわからないけれど、知られたくない事は確実だ」
誰しもがこれが人為的に引き起こされた事ではない、と考えていたのはこれを引き起こした某がしている事はあまりに狂気の沙汰だったからだ。というわけで、スイレリアが一つ問いかける。
「魔族……という線は」
「さぁ……それはわからないけれど。少なくとも組織的な犯行ではないだろうね。組織的な犯行であるのならどこかにその情報が残る。残っていないという事は……だよ」
「「「……」」」
とどのつまり強大な力を持つ某かが単独で引き起こしている。一同は厄介さを増していく情報に表情を険しくさせる。そんな彼らに、シルフィは苦笑気味に首を振る。
「但しそれはあくまでもこの世界の存在なら、という所でもあるけれどね」
「この世界の存在であるのなら? つまりは彼らの様に別世界からの存在である可能性もある、と?」
「いや、別世界の存在だったとしても情報は残るさ」
「?」
それならば先程の話と話は異なるのでは。スイレリアはシルフィの言葉の意味が掴めず小首を傾げる。これにシルフィが唯一の例外を教えてくれた。
「狭間さ。世界と世界の狭間。法則の狂った場所……そこには僕らの権能も及ばない。当然の話だけれど」
「ですが、それは……」
「うん。世界と世界の狭間。世界が定めし法則さえ狂った場所。普通じゃそんな所で生きていくなんて出来はしない……んだけどそこに街を作って人が住む基盤さえ整えられた事があるんだ」
「「「なっ……」」」
どんなバカだ、そんな事をするのは。到底不可能としか思えない、正真正銘の狂気の沙汰を知って一同は思わず絶句する。というわけで半ば信じられないとばかりにスイレリアが問いかける。
「まさかその者たちが?」
「ああ、いや。それは絶対に無いよ。うん、無しと断じて良い。彼らは本来は罪人でないにも関わらず罪人とされて世界から追放された者たちだ。追放したのだって世界ではなく君達人だ。それをある強大な力を持つ者が庇護して、街を作り上げたのさ」
「そんな者が……」
それが真実であるのならそれは間違いなく大偉業と讃えられる事だろう。スイレリアは冤罪により世界から追放された者たちを救ったという某に対して畏敬の念さえ抱く。そしてそんな彼女に、シルフィは続けて教える。
「それに何より、その彼らはもはやすでに誰も残っていない。誰一人としてね」
「何故それがわかるのですか?」
「その指導者の一人が世界と取引をして、全員を再び転生という形で世界に戻せる様にしたからさ。そして彼らを含めて、それぞれが別の世界へと旅立っている。あははは……だってそうでしょ? そうでないと僕らが知っているわけないんだから」
「あ、なるほど……」
そもそも先程も言及されている様に、世界と世界の狭間にはシルフィ達の権能さえ通じない。故に彼女らも本当は知らないはずなのだ。なのに知っているという事は、それを知れるだけのなにかがあったという事にほかならなかった。というわけで納得したスイレリアに、シルフィは続ける。
「ま、そういうわけで。組織的な活動が出来ないわけじゃない。だからあり得なくもない、というわけ」
「その者たちが、という事も?」
「あはは。さっきも言ったけれどそれはないよ……だって目の前にいるもの」
「……え?」
唐突に視線を向けられて、カイトが驚愕に包まれる。これにシルフィはうなずいた。
「そう。かつての君こそが、その指導者だった。いや、その指導者の一人だった」
「っ」
得体のしれない何かが、八英傑の存在を教えられた時に感じたと同じなにかが彼の胸を突く。
「君ももはや覚えてはいないだろうけれど。その魂が覚えている。かつての世界を。彼らと、彼女らと共に過ごした日々を」
「きょう……かい……そうだ、オレはあの古びた教会で……」
「……そう。君がここにいる事こそ、あの世界にかつて居た者たちが戻っていない証明にも等しい。そしてそんな事もしないだろう。する意味もないからね」
「「「……」」」
なるほど。そういう事であるのならかつて世界と世界の狭間に暮らした者たちの線はなさそうだ。その指導者の生まれ変わりだったカイトがここにいる事で、一同もそれに納得する。
「でも同時に出来ないわけではない、という意味でもある。だから組織的じゃない、というわけでもないんだけど……ごめん。そこらは流石にはっきりとした事はわからないよ」
「となると、後は」
「うん。後は残っている僅かな痕跡から犯人を見つけ出して止める……ぐらいしかないかな。ごめん、ああまり力になれなくて」
「いえ……それでも某の力により引き起こされている可能性が高いとわかっただけ随分良い。天変地異ならばどうしたものか、という所でしたので」
シルフィの謝罪に、スイレリアが一つ首を振る。そうしてそれからしばらくの間、一同はシルフィから探し方などについての助言を受ける事となるのだった。
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