第3300話 はるかな過去編 ――移動――
かつてセレスティアの世界において八英傑として名を残す事になる過去世のカイト。そんな彼や彼が率いる騎士団に武器や防具を提供していたという『銀の山』にて自分達の武器や防具を強化して貰う事になったソラ。そんな彼はこの時代のカイトの幼馴染にして唯一カイトと対等に戦える人物であるレックスと共に神界へ赴いて、『太陽石』と呼ばれる特殊な鉱石を入手。
鎧にそれを仕込んで貰って新たになった鎧を身に纏い、カイト、セレスティアと共にスイレリア・聖獣の招きを受けて『黒き森』へと赴く事になっていた。が、その道中。魔物に追いかけられた一同はその場で留まって交戦する事になっていた。
「ふぅ……はっ!」
「ふーん……動きが若干上昇してるな……」
カイトは魔物の群れとの交戦の傍ら、攻撃に対してカウンターを叩き込むソラを見ていた。まぁ、彼だ。余所見していようと問題なぞない。というより彼の障壁を突破する事は未来の彼の障壁を突破するより困難なのだ。魔族、それも高位の魔族でもなければ、問題なぞあるわけがなかった。
(おおよそあれはあの神剣の力が復調したから、ではないだろうな。おそらくソラ自身も神剣を何ヶ月と保有し、そして太陽の力を身に受け続けていた事により太陽の概念そのものが強く影響……良い方に影響する様になってきたというわけか)
自身の推測を確かめる様に、カイトははるか上空を見上げる。今日の天気は雲ひとつない晴天。太陽は燦々と輝き、その生命力を大地へと降り注がせていた。
(ちょっと未来のオレにプレゼントし過ぎかね……ま、後々オレが楽になるんだから良い事か)
ざんっ。目にも留まらぬ速さとはまさにこの事だろう。ソラのチェックを終わらせたカイトが身を翻したかと思えば、双剣が無数に斬撃を生じさせて周囲の魔物達を消し飛ばす。彼の速度重視の攻撃は並の魔物では強撃にも匹敵してしまっていた。というわけで早業なのか力技なのかわからない一撃を真横で放たれて、ソラが思わず唖然となる。
「……はい?」
「なんだ?」
「いや……今の、何? なんかの技?」
「いや……単に切り払っただけだけど」
「……」
『……やめておけ。わかっているだろうが、身体能力だけであればこの時代の神使殿の方が遥かに強い』
言葉を失うとはこのこと。そんな様子で言葉を失ったソラに、<<偉大なる太陽>>も半ば呆れた様に首を振る。未来でさえ馬鹿げた出力を持つカイトも、この時代のカイトを見ればまるで児戯に等しかった。まぁ、その分未来のカイトにはこの時代のカイトが子供の遊びに見える技術が備わっているため、結局厄介さは変わらなかったのだが。
「だよな……」
「そんなどうでも良い事は良いから手を動かせ。余所見してて戦えるほど余裕のあるわけでもないだろう」
「それはわかってるよ……っと!」
次の相手が来たな。ソラはカイトの言葉に改めて気を引き締めると、正面から向かってくる獅子の様な魔物へ向けてしっかりと腰を落とす。それに合わせて、彼の鎧に新たに刻まれた黄金のラインが僅かに発光する。
「……」
やはりか。カイトはソラが意図したわけではないだろう発光を見て、彼自身が太陽の力を僅かに帯び始めている事を理解する。
(日中だと太陽の力を帯びて、力が増幅されていそうか。この調子だと、鎧無しでもその内太陽下では強化される様になりそうだな)
『神使殿』
『うん? ああ、えーっと……確か<<偉大なる太陽>>だったか? どうした?』
『貴殿が気付かれている内容だ』
『あれか……にしても神使殿か。あまり実感の無い言われ方だ』
どこかむず痒い。カイトは自身に対して放たれる言葉に僅かなむず痒さを感じていたのだろう。その顔には苦笑が混じっていた。これに<<偉大なる太陽>>は頭を下げる。
『申し訳ない。が、下手に言い方を変えて未来の貴殿に無礼があると我が本来の主人に申し訳が立たん。受け入れて欲しい』
『構わんさ。その代わりオレも普通にさせて貰っているしな……で、どうした?』
『かたじけない……この未熟な主人の事だ。おおよそまだ気付いておらん』
『見ればわかるよ』
<<偉大なる太陽>>とカイトはただ何か調子が良いな、鎧を調整してもらった甲斐があるな、という程度に考えている様子のソラに僅かに笑う。
『もう少し黙っておいてくれ。後で自らの状態にも気付けていない事を茶化してやりたくてな』
『りょーかい。ま、お目付け役みたいなもんだったらそれが役目か。任せるよ』
『うむ』
<<偉大なる太陽>>自身は歴戦の戦士ではない。あくまでも武器だ。が、同時に歴戦の戦士以上に何人もの戦士達と共に幾千幾万の戦いを経験している。故にこういった若い戦士を見てきた事もあるのだろうとカイトは考えていた。
(存外、良い組み合わせか……瞬は師匠がいる的な事は言っていたが。ある意味じゃソラにとっての師匠はあの神剣になるのかもしれないな。師匠は、って聞いたら頓珍漢な事を言ってたからなぁ)
普通はあのタイミングの問いかけじゃそうならんだろう。当時を思い出して笑うカイトが思い出したのは、師匠について問われてブロンザイトの事を口にした時の事だ。確かに知略の面での師匠は師匠だが、武芸などの面での師匠かと言われればそうはならない。
というわけである意味では武術の師はいない様なソラであるが、その代わり幾千幾万の戦場を戦士達と共に駆け抜けた<<偉大なる太陽>>がいて適時助言を与えてくれていた。武芸は教えられていなくても、ソラにとっては戦士としての師匠と言えただろう。そうしてソラの観察を終えた彼はついで、セレスティアの観察に移る。
「……うーん」
やっぱり綺麗だ。研ぎ澄まされた感覚から放たれる斬撃は途切れることなく、まるでふわりと舞い踊る様に魔物を切り裂いていく。女の細腕、それもセレスティアほどの美少女の細腕で大剣を振り回せるかというと普通に考えれば否であるが、やはり魔術があれば数十キロの大剣であっても振り回せてしまう。が、だからといって力技で振り回しているかというとそうではなかった。
「ふっ……はっ……」
(基本は遠心力を利用して、魔力の消耗と体力の消耗を可能な限り低減している。力を込める瞬間は軌道を変える一瞬のみ。失敗すれば大剣がすっぽ抜ければ良い方。下手すりゃ脱臼もあり得る……集中力が必要な戦い方だ。神殿に仕える神殿騎士達が習う戦い方の系譜だな)
結局、未来のカイトもこの時代のカイトも思考回路は一緒だ。なので未来のカイトが考えた様に、この時代のカイトもまた同じ結論を下していた。といってもこちらのカイトは最初から答えを得ていたわけであるが、それに確証を得たという所だろう。
「知恵が僅かに回ったのだろうが……遅いな」
斬撃が通り過ぎたのを見た狼型の魔物が地面を踏みしめ跳躍しようと試みるのを見て、カイトはまるっきり相手にならないだろうと判断する。
確かに狼型の魔物が跳躍しようとした瞬間はまた別の魔物を切り捨てた斬撃が通り過ぎた直後で、跳躍した瞬間には遠心力を利用した関係でセレスティアは狼型の魔物に背を向ける格好になっていた。
が、その次の瞬間だ。セレスティアの持つ大剣が急加速する。こちらも見様によっては早業もかくやという速度であったが、そこに込められている威力は大剣に相応しい強大なものだ。
故に急加速した大剣が狼型の魔物を刀身が切り捨てると同時に、そこに込められた魔力を受けて狼型の魔物は跡形もなく消し飛んでしまった。そうして周囲の魔物が消えた所で、セレスティアが大剣の速度を緩めて停止する。
「……見事なもんだな」
「ありがとうございます……ですが流石にカイト様の双剣には及びませんよ」
「オレのは力技で操ってるだけだ。強引な速さと言って良い。そっちのは技を利用した速さだ。腕を互角まで落とせば勝てるかどうかだろう」
「ありがとうございます」
再度の称賛にセレスティアは今度は素直に受け入れる。と、そんな彼女の背後に再び狼型の魔物が迫りくる。そうしてセレスティアの頭部を噛み砕かんと跳び上がるが、これにカイトが双剣を間に挟む。
「それになにより、オレの場合はこの通りサイズが可変だからな。速度を重視したい場合は振りやすいサイズにも変えられる」
『あの……若。それは良いのですが噛まれるのは』
「悪い悪い……はっ!」
双剣の片割れの苦言に、カイトが笑いながら刀身に噛みつかせた狼型の魔物の首を刎ねる。そうして残った頭部を魔力で消滅させると、噛まれていない方の刀身に魔力を纏わせる。
「ふっ」
一息に、カイトがその場で双剣を翻す。そうして無数の斬撃が放たれて、周囲に残っていた魔物が跡形もなく消し飛ぶ事になる。これに数瞬先の戦闘に備えていたソラが間抜け面を晒す。
「……あえ?」
「悪い悪い……でもまぁ、なるべく今日中に『黒き森』までたどり着きたいんでな。そのために早馬ならぬ早竜を飛ばしてるんだ。鈍らない程度に戦ってもらいたいが、あまり時間を掛けるわけにもな」
「はぁ……まぁ、わかるけどよ」
急ぎたいなら最初から自分でやってくれれば良いだろうに。カイトの言葉に道理を見つつも、ソラは内心そう思う。ちなみに逃げなかった理由は簡単で今回交戦した魔物の多くが狼型や獅子型などの四足歩行の魔物達で、いくら速度重視の地竜達と言えど追いつかれる可能性があったからだ。下手に逃げすぎて途中で他の魔物と合流されてしまっても困る事も大きかった。
「あはは……ま、移動を再開するぞ。エドナ!」
カイトの号令を受けて、少し離れた所で地竜達と共に次元をずらして避難していたエドナが姿を現す。そうして、三人は改めてそれぞれの鞍に跨って再び移動を開始するのだった。
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