第3297話 はるかな過去編 ――強化――
八英傑の一人にして、この世界においてカイト達に武器や防具を提供している集団である『銀の山』のドワーフの棟梁の娘フラウ。彼女からの助言を受けて、一同は武器の強化や修繕を受けるべく素材の収集に向かうカイト達に同行させて貰う事になっていた。
そうして素材を集めて再び『銀の山』にて集結した一同であるが、そこでソラと瞬はそれぞれ武器と防具を強化して貰ったわけであるが、練習場にて性能を確かめさせて貰っていた。
「ふぅ……やれそうか?」
『まぁ、やれそう……ではあろうな。結局のところやってみなければ何もわからぬという所であるが』
「そりゃそうだろうけど」
自信なさげなのは仕方がないか。ソラは<<偉大なる太陽>>の返答にそう思う。そもそも<<偉大なる太陽>>は異世界で使う事を想定されているわけではない。というより普通は想定しないのだ。ならばこうなるのは仕方がない事であった。というわけで、ソラは下手に暴発しないように意識しつつ、まずは鎧に魔力を通してみる。
「……お」
『なにか変わったか?』
「なんていうか……微妙にだけど<<太陽の威光>>状態に似てる」
完全に一緒というわけではないけれど、太陽の力を自らが帯びているのがわかる。ソラは黄金のラインを通して全身に行き渡る力を感じながら、<<偉大なる太陽>>の問いかけにそう語る。それを感覚的な話として伝えられて、<<偉大なる太陽>>はなるほどと頷いた。
『なるほど……確かにその様な気配は感ずるな。こちらには流路の関係か直接は届いていないが』
「なるほど……手の甲にも同じ仕掛け、しておいて貰った方が良さそうか?」
『その方が良かろう』
「ああ、それならもう同じ仕掛けしてるよ。ただ下手に解放出来る様にしていると万が一ヤバい、ってなった時にどうしようもないから一旦は止めてる」
一応は万が一があった時に備えて待機していたフラウであるが、やはり彼女もそれは考えていたらしい。というわけで答えた彼女に、ソラが問いかける。
「あ、そうなんすか? どうやれば?」
「ああ……右手の甲にあるスイッチ……ああ、その『太陽石』の流路の起点部分がスイッチになってるから、それを軽く押し込めば良いよ。あ、魔力使ってな。普通に物理的に押し込んでも意味はないよ」
「なるほど……」
フラウの言葉に従って、ソラはスイッチがあると言う部分に魔力の指先とでも言うべきもので触れてみる。すると確かに物理的には何もないが、魔力に対する抵抗が僅かにだが感じられた。そうしてそれを押し込むと、手のひらの側にも黄金色のラインが現れる。
「出来そうか?」
『出来そう……ではあろうな。結局はやってみねばどうとも言えんが』
「結局それか」
結局、やってみないとわからない事に違いはないらしい。ソラは<<偉大なる太陽>>の言葉にそう理解する。そうしてそう理解した彼は再び意識を集中し、数ヶ月前までは使えていた<<偉大なる太陽>>に宿る太陽の力を解き放つ。
「<<太陽の威光>>」
ぶぅん。今回は流石に戦闘ではないので本気ではないが、太陽の力の発露と共にソラの髪が黄金色に変色し、鎧もまた太陽が如き黄金に染まる。どうやら問題なく<<太陽の威光>>は使用出来たようだ。
「……初めてゆっくりやってみたけど。いつもってこんな感じなんだな」
『うむ……確かに『太陽石』とやらは神界にて太陽の力を蓄え続けて出来たと聞く。ならば出来ても不思議はない、という所であろうな。といっても、流石に出力はいつもに劣るが』
「確かにな……でも手札が復活したってのはぶっちゃけありがたいだろ」
『それは否定せぬよ』
ソラの言葉に<<偉大なる太陽>>も笑いながら同意する。確かに神気を纏えない分本来の力よりも格段に劣るが、それでも強化には違いない。あるとないとでは大違いだった。というわけでそんな二人の様子に概ね問題はなさそうだと判断したフラウが、ついで瞬を見る。
「で、こっちは……」
「……」
やっぱりすごい殺気だ。フラウはこちらは話し相手はいないからこそ黙して感覚を確かめる瞬を見てそう思う。やはり冥界の力で強化された<<赤影の槍>>の力は桁が違っていた。
ただでさえ冥界で拵えられた槍だ。<<偉大なる太陽>>と異なり神々が作ったわけでも長い時を経たわけでもないにも関わらず、その力は十分過ぎるほどだった。そして今は、もはやそれだけではない。
「……ぐっ!」
「やっぱり辛いか?」
「……少し。思った以上にこう……明確な死が身近にある様な」
「防具も冥界の素材で強化したからね。その代わり、死に対する耐性は凄まじいよ」
「……毒で身体を慣らしてる様な感じがします」
「あはは。察しが良いね。実際その通りさ」
フラウは瞬の例え話が正鵠を射る言葉であった事から楽しげに笑う。
「身体を死に慣らしてより強い死の力を使える様に、ってわけさ。そうしないと更に強い力を使おうとして、自滅なんて笑い話にもならないだろう? その防具は敵の攻撃から身を守ると同時に、自分の力で自分が傷付かない様にするためのものでもある、ってわけさ」
「諸刃の剣、ってことですか」
「そうさ。魔槍と名槍の差ってのはそこさ。強大な力を求める代わりに使用者にも代償を求めるのが魔槍。力はそこそこだけど使い手に代償を求めてこないのが名槍。ま、わかりやすい話だろう?」
「そうですね」
何度も聞いた話だ。瞬は自らも魔槍を使えばこそ、魔槍が代償を求めてくる事は理解していた。そしてその代わりとして強大な力を使用者に託すのだ。そんな当たり前の話だからこそ、瞬は身体を慣らす必要がある事を理解していた。
「とりあえずはそいつを使って身体を慣らしていけば、更に強い力を使える様にもなる。ここからは長期戦だね」
「身体への耐性は一朝一夕では無理ですか」
「当たり前だろ?」
「ええ」
後はゆっくりとしたペースで成長していくしかないか。瞬はここから先目に見えた強化は少ないだろうと考えていた。というわけで瞬はここからはいつもの様に地道に訓練していこうと改めて気持ちを入れ替えて、ひとまずは死という最も忌避される概念に。ソラは太陽という誰もが求める概念に身体を慣らしていく事に専念するのだった。
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