第3295話 はるかな過去編 ――黄金の鎧――
八英傑の一人にして、この世界においてカイト達に武器や防具を提供している集団である『銀の山』のドワーフの棟梁の娘フラウ。彼女からの助言を受けて、一同は武器の強化や修繕を受けるべく素材の収集に向かうカイト達に同行させて貰う事になっていた。
そうして素材を集めて再び『銀の山』にて集結した一同であるが、そこでソラと瞬は各々の武器や防具の強化の現場を見学させてもらう事になっていた。
というわけで、瞬が自らの槍に死の概念を与えられさらなる強化がされていた一方。ソラはというと、こちらは流石に武器の強化は出来ないので<<偉大なる太陽>>に『太陽石』を乗せてここまでの数ヶ月で失われた力を取り戻させつつ、自身はフラウから鎧の方の修繕と強化について話し合いを行っていた。
「『太陽石』を砕いて鎧に埋め込む……ですか?」
「ああ……ノワールと話してると、おおよその魔力の流路がわかったからね。『太陽石』を埋め込めば、あんたがやってたっていう<<太陽の威光>>? だかそんなのを再び使う事が出来るだろうって話だ」
「出来るんですか?」
<<太陽の威光>>は自身の一時的な大幅強化の手段に乏しいソラにとって数少ない大幅強化の手段だ。そしてこれは神から与えられた力という世界から見て最上位の力に等しく、これの妨害はそもそも発生源がソラが手にする<<偉大なる太陽>>である事と相まって非常に困難と言えるらしい。
が、同時に神という特定の世界に依存する存在がいればこそ使える力である限り、別世界では使用出来ないという明確な弱点も抱えていた。これは当然神使達も抱える弱点であるが、本来異世界転移なぞ意図的に行おうとする者は少ないので問題にはならなかった。というわけでその弱点を克服出来る手立てとなるかもしれない、と食いついたソラに、フラウははっきりと頷いた。
「出来るは出来るさ……多分ね」
「なんか微妙な言い方っすね」
「推論に過ぎないは過ぎないからね。やった事がないし、あんたの神剣から出来るかもしれん、程度に聞いてるから出来るんじゃないかと考えてるだけだ」
「あ、なるほど」
それはそうとしか言えない。この世界において<<太陽の威光>>を使えるのはソラ一人だ。そして<<偉大なる太陽>>とて自身が異世界で使われた場合にどうなるか、なぞ想像の域を出るわけがない。結果としてやれるんじゃないか、という推論になってしまうのであった。
「でも埋め込むって言っても『太陽石』って何度も遣い回せるもんなんですか? なんか何度も集めに行っている、っていうぐらいなんで使い捨てみたいなもんなのかなって勝手に思ってたんですけど……」
「まぁ……使い捨てである事は否定出来ないねぇ……本来あんなの使い捨てになるわけがないんだけど。どうにも四騎士連中が使うからかあっという間に摩耗しちまってる。特にグレイス。あいつの鎧に『太陽石』を鎧に埋め込んでるんだけどねぇ……太陽に打ち勝つ女ってのはあいつらしいといえばあいつらしいけれど」
「……あー……」
なるほど。四騎士達が使うのなら本来あり得ない事態であってもあり得たとして不思議はない。というわけでやれやれと本来ならばあり得ない事態を引き起こすグレイスについて言及していたフラウであったが、気を取り直す。
「まぁ、本来なら増幅器に出来るぐらいには強大な力を有している。あいつが異例過ぎる……んだけど四騎士連中もその団長達も異例過ぎて何が正しいか最近さっぱりだよ」
「あははは……流石に俺が使えば正しい形で機能するだろう、と」
「そ……グレイスも最初は増幅器として使ってたんだよ。でも最近は増幅器より制御機器として使ってる。『太陽石』の出力があいつの入力に追い付いていないんだ」
「あははは……」
そんな気はしてたけど。ソラは改めてはっきりと言及された言葉に思わず半笑いになるしかなかった。というわけで少し乾いた笑いを上げたソラであるが、すぐに気を取り直す。
「でもってことは、基本的には問題ないと」
「そうさね。問題はない……で、方法論なんだけど……よっと」
ばさっ。フラウは机の上にソラの鎧の簡易的な見取り図を広げる。それを見せながら、フラウは一応の説明を入れる。
「こいつはあんたの鎧の外面だけを記載した図面だ……中身の情報を残しちまうとどんな面倒になるかわかったもんじゃないからね。けど説明とか修理の際に面倒だから外側だけは図面に残させてもらったってわけ」
「あー……確かに全部残そうとすると『方舟の地』みたいな事が起きかねませんしね」
「そういうことさね。アタシらが見逃されてるのは情報の漏洩の危険性が無いと判断されてるからなんだろうが……だからこそどこまでの情報は大丈夫でどこ以上の情報はヤバいのかしっかり判断しなきゃならない……ま、そりゃ良いか」
どうやらフラウも『方舟の地』での一幕は聞き及んでいたらしい。故に手に入れようともしない方が良いだろうと判断していたようだ。
というわけで図面についての説明を入れた彼女は鎧の各所。ちょうど両手両足を大の字に広げ五体を結べば星型になる様な場所――但し図面では分からなかったが――に白い小石を置く。
「この5箇所に砕いた『太陽石』の欠片を配置する」
「欠片……大丈夫なんですか?」
「それについては問題ないよ。そして砕いた『太陽石』の欠片はあくまでも起点となるためのものだ。この5箇所からこういう風に……」
つー。フラウは両手両足と頭部のサークレットからそれぞれ胴体の中心に伸びる様に線を引き、その交わったちょうどみぞおちの辺りに少し大きめの黄色の小石を置く。
「砕いた『太陽石』を練り込んだ特殊な塗料を使って、胴体の中心まで流路を伸ばす。そしてここの中央部分に……精錬した『太陽石』を埋め込む。ちょうどこのあたりは空白になってたからね。まぁ、本来の鍛冶師がなにかをしようとしてたのかもしれないけれど……悪いがそれはわからないから、帰ってから元通りにして使うなりなんなりしてくれ」
「わかりました」
「えらくすんなり受け入れるね」
「兎にも角にも今の俺達はこの時代、この世界で生き延びないとならないんで。流石にそこで遠慮しておっちんじまったら元も子もないでしょ?」
「いや全くだ」
半ば苦笑混じりに笑いながらのソラの指摘に、フラウもまた完全に同意する。というよりも実は渋る様子ならばこの話をして説得しようと考えていたそうなのであるが、その必要がなかったと後に彼女は笑っていた。とはいえ、ソラとしても何もなく言ったわけではない。故に今度は彼が問いかける。
「強度とかは大丈夫なんですか? 塗料って事は上から塗るだけっぽいですけど」
「ああ、それは問題ない。さっき言った塗料も塗料っていうよりも表層部に練り込む形だ。だから実質強度としては上がる。それに流路そのものもあの神剣に合わせる形で強化されるから、全体的に見ればあんたとの相性が更に上がると考えれば良い……この鎧を手にした時はまだ、あの神剣を手にするなんて考えてもいなかったんだろ?」
「そうっすね。本来は揃いの剣だったんっすけど」
「そうか……ならあの神剣に合わせる形でのカスタマイズってわけだ。攻撃力としても防御力としても上げられるって考えて良い」
「なら、やっぱり断る理由はないっすね」
「良し」
物の道理がわかる奴で助かった。フラウはソラの言葉にそう思う。そうして、ソラの許諾を得た事でフラウは早速と鎧の強化に取り掛かる事にするのだった。
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