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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3294話 はるかな過去編 ――概念強化――

 『銀の山』の棟梁の娘フラウ。かつてセレスティアの世界において存在した八英傑と呼ばれる英傑の一人であり、彼女は前世のカイト達へと武器や防具を提供している鍛冶師であった。

 というわけで、そんな彼女からの助言を受けて自分達の武器や防具の修繕や強化を行うべく素材集めを行っていたソラや瞬。彼らはカイトやレックスと共に冥界・神界へ赴いて時に鉱物資源を採掘し、時に魔物を討伐しその素材の剥ぎ取りを行いとしていた。

 そうしてある程度の素材が集まった所で再び『銀の山』の中にあるドワーフ達の工房にて再集結したわけであるが、そこでソラと瞬の二人はカイトに招かれて素材の精錬現場を見学させて貰う事になっていた。


「……」


 強化された<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を手にしてみて、瞬は今まで以上に濃密な死が漂うのを理解する。幸いというべきか、<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>はそれでもまだ瞬が扱い切れる領域ではあったようだ。自身を喰らおうとする意思は見えない事に僅かな安堵を浮かべる。


「ま、そんなもんさね。そいつはまだまだ成長させられる余地はあったが……確かあんたの師匠とやらが手慰みで作った物なんだろ? 似せたのはガワだけ。中身となる部分がまるっきり空っぽだったのさ。そこに今、アタシらがちょっとだけ中身を注いでやった」

「ちょっと、ですか……これで」


 フラウの言葉を聞きながら、瞬は思わず苦笑を浮かべる。確かに<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>はそもそもクー・フーリンが自身の槍、<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>をより深く理解するために真似て作っただけのものだ。彼が使った事は一度もなく、そして彼があくまでも理解するために作ったが故に中身までは真似ていない。故に中身は空っぽなのは仕方がない事だっただろう。

 それでもあれだけの力を持つのはひとえに大本となる<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>の凄まじさを如実に示しているわけであるが、故にこそフラウの言う通り成長させられる余地はまだまだあったのであった。


「ちょっとだよ。その大本をアタシが見た事はないからなんとも言えないけどね。そのなんとかって英雄が何千年掛けて鍛えた物なんだろ? ああ、ここでの鍛えたは私ら鍛冶師が鍛えたって意味じゃなくて、何千年一緒に旅をして様々な経験を積ませたって意味だ。付喪神って知ってる?」

「それは勿論」

「そうか……それと一緒さ。長く愛用された武器ってのはそれだけでもう一つの武器みたいになる。長く自分と共にいる正しく相棒って感じでね。わかるかい? 優れた英雄ってのは一人で戦いながらも常に二人で戦っている様なもんだ。だから強い。相乗効果も生まれるしね」

「……」


 思い出すのは、今まで瞬が出会ってきた数々の英雄達だ。それを思い出す事でなんとなくであるが、瞬はフラウの言っている意味が理解出来たようだ。そしてそんな様子に、フラウも笑う。


「その様子だと思い当たる節はあるみたいだね……まぁ、カイトみたいに二人どころか三人で戦ってる様なふざけた奴もいるけどね。あれは本来まるっきり別の由来を持つ物があいつの所で一つになった感じなんだろう」

「元々は実の父さんと母さんの物らしいからな……こいつらまで忘れてるってお粗末なお話になるが」

『『……』』


 フラウの視線の先には、ただ黙して何も言わない二振りの双剣――ただしカイトの言葉にかなり申し訳無さそうな様子は醸し出していたが――があった。

 これは先にカイトとやり取りしていた通り、本来はカイトの実の父母がそれぞれ一振りずつ持っていた武器だ。なので宿る意思も双剣という一つの概念ではなく、それぞれが別の意思を宿している。

 それがカイトという存在の誕生により彼が双剣として持つ事となるという、ある意味では英雄と英雄の子だからこそ起きた異例な事態と言って良かった。


「あはははは……本当にねぇ。思い出してくれりゃ色々な問題が片付くかもしれないのに」

「そんな他所様を頼りにしたところで」

「いや、あんたの両親だよ? あんたの時点でどう考えたって化け物じみた戦闘力持ってるって。他大陸か隠れた種族だと思うけど……力を借りられりゃとんでもない戦力にはなるだろうさ」

「わかればな」

「そ、わかれば」


 その分からない事が問題なのだ。カイトの言葉にフラウも苦笑混じりに笑うしかない。そもそもこの時代ではカイトの出自は全く不明なのだ。そして地球の様に全世界的な情報網があるわけでもないのだから仕方がない事だろう。


「……ま、良いや。無理はわかってるしね……で、そいつに話を戻すと。そいつはまだまだ成長の余地がある。それはあんたのお師匠様がやってるように何年も掛けて育て上げなきゃならないものと、私ら鍛冶師達が餌をやって育てないとならないものだ」

「餌ですか」

「餌さ。その子はまだ雛鳥にさえなってない。言ってしまえば卵にもなってない……いや、なってなかったんだ。今しがた、アタシらがそいつに卵になれる種を植えてやった、みたいな感じだね」

「種……」


 とどのつまり、これでさえまだ卵に至っていないらしい。瞬は自身の持つ相棒の更に先が空恐ろしいものでさえある事を理解する。そんな彼に、フラウが笑って告げた。


「そうさ。そいつは凄まじい力を持つ。あんたのお師匠様やそのまたお師匠様は英雄なんだろ? それも一つの神話で中心になれるぐらいの」

「はい」

「なら、魔槍と呼ばれながらもおそらくその二人は全く間違った育て方をしてなかったわけだ……そんな武器をその英雄本人が作り上げたものだ。土壌は間違いなく善性を有している。それを魔槍でありながらも主人をもり立てられる名槍に仕上げられるか、それとも持ち主さえ見境なく喰らい尽くす呪装と化すかはあんた次第。しっかりやんな」

「はい」


 フラウの言葉を瞬はしっかり胸に刻み付ける。元々彼としても師の誇りたる<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>を模した、それも師が手ずから拵えた武器だというのだ。

 粗末に扱う事なぞ出来るわけがなかったし、そんな事を考えた事は一度もない。それどころかネックレスを手に入れて以降は肌見放さず、それこそお風呂の時さえ共に携えている。愛着と呼べる物もすでに抱いていた。そしてそれはフラウも見てわかっていたようだ。瞬から再び<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を受け取りながら笑う。


「ま、真面目な事言っちまったが、あんたなら問題無いだろ」

「そうですか?」

「こいつがあんたに反発してるのは、ある種甘えてるみたいなもんなんだ」

「甘えている?」

「そ……こいつはすでにあんたを主人と認めてる。だから自分を扱えるか、って試してるのさ。現に冥界で暴れてもあんたを殺しには掛かってなかっただろ?」

「そういえば……」


 本来は一息に殺しに来る事だって出来たはずなのだ。なのにあの時は暴れようとする気配を滲ませ、まるで自身に制御させようとしているかのようであった。瞬はフラウの言葉に冥界で死を吸わせた時の事を思い出す。というわけで驚いた彼であったが、同時にはたと気がついた。


「って、わかったんですか?」

「あははは。アタシらは鍛冶師だよ? 直近で起きた事ぐらいはわかるさ。ほら、食べな」


 やはり彼女らはカイト達さえ頼る優れた鍛冶師というわけか。瞬は先に精錬されたインゴットを砕いた欠片が山盛りに盛られた山の中に穂先を突っ込まれた<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>に告げるフラウを見てそう思う。そうして<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>が僅かに真紅の輝きを放つと、まるで吸収するかの様に黒々としたインゴットからなにかを吸い取っていく。これが概念の強化の光景だった。


「よし……これ以上やると多分持ち手の方が駄目だな。親父。固めちまおう」

「おう」


 ある程度の所で<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を引き抜いたフラウの言葉に『銀の山』の棟梁が応ずる。そうして、それからもしばらく瞬は自身の槍が新たな力を授かる所を見学させて貰うのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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