第3291話 はるかな過去編 ――精錬――
かつてセレスティアの世界に存在していた八英傑と呼ばれる八人の英雄達。その一人にしてかつてのカイトが率いる騎士団に向けて武器や防具を製造していたフラウという『銀の山』を治めるドワーフの棟梁の娘から助言を受け、武器の修繕や強化を行う事になったソラ達。
そんな彼らは冥界・神界に自分達の武器や防具の修繕・強化を行うべく向かう事になっていたカイトやレックス達に同行する形で冥界・神界へ同行。素材の収拾を行っていた。
というわけで、一同により集められた素材が『銀の山』へ集められる事になったのであるが、そこでソラと瞬の二人はカイトの誘いを受けて素材の精錬現場を見せて貰う事になっていた。
「……ふぅ。ん?」
「おう。精が出るな」
「なんだ。カイトか……どうしたんだい……って、二人の見学って所か」
「ああ。邪魔にならない所で見ておくから、気にしないでくれ」
「あいよ」
カイトの言葉に、フラウが手をひらひらと振って背を向ける。そんな彼女の手には黄金色に輝く金属の延べ棒の様ななにかがあった。と、それを思い出したのか、作業に戻ろうとした彼女が手を止める。それに作業を手伝っていたのか彼の方が主体だったのかはわからないが、大柄なドワーフの年かさの男性が問いかける。
「……どうした?」
「っと、親父。ちょいと待った……ソラだったね。ちょうど良いや。あんた、確か防具はフルアーマーだったね」
「っすね。預けてたと思うんっすけど」
先にも言われていたが、一同は武器も防具も全て一度『銀の山』の職人達に預けていた。それをフラウが知っているかどうかはわからなかったので、一応ソラは言及したようだ。
「ああ、聞いてるよ。あれはちょっと特殊過ぎたからね。アタシが直々に調整やるよ。内装はノワールの方で見てもらってるし」
「あ、ありがとうございます……え? もしかしてあれっすか?」
「そりゃ分解させてもらったさ。面白いねぇ、やっぱ……ま、それはそれとして。若旦那から話は聞いてる。『太陽石』でなにか強化が出来るかもだって?」
「あー……出来るんじゃないか、って話はしてました。ウチの神剣と」
「神剣当人が言うならそうなんだろうね」
ソラの言葉にフラウが精錬した物質を見ながらそう告げる。そうして確かめていたなにかに満足したのか、彼女は持っていたそれをソラへと投げ渡す。
「ほれ」
「うわっと! 投げるなら言ってくださいよ!」
「あははは。落とした程度じゃ壊れやしないもんさ」
「はぁ……って、あっつぅ!?」
一息ついた。胸をなでおろした所で、ソラは自身が持っていたそれが熱を、それもちょっと程度ではない熱を帯びていた事に気付いて思わず取り落とす。
「こ、こんなの投げ渡さないでくださいよ!」
「そんなに熱かったのに、よく長々持ってられたな」
話していたのは数秒ほどだろうが、ソラが思わず取り落としたのだ。瞬は半分笑いながら少し鈍感すぎやしないか、と問いかける。これにソラも手を振りながら恥ずかしげだった。
「あっはははは……いや、でもマジ熱かったっす」
「いや、悪いね……でもま、その様子ならなんとか出来そうか」
「「?」」
笑いながら謝罪するフラウの言葉に、ソラと瞬が揃って首を傾げる。そうしてそんな彼が瞬へと告げた。
「瞬だったね。あんた、そいつ持ってみな」
「え? ですが……」
「大丈夫。それでさっきの疑問やら全部解決だよ」
「は、はぁ……」
フラウの言葉に流石の瞬も少し気後れしながらも、カイトをちらりと見るとそちらも少し笑っていたのを見て意を決しつつ、一応は聞いてみる。
「……せめて布か何かで触れても大丈夫ですか?」
「その必要はないよ。暖かくもないから」
「え?」
先程の様子は明らかに演技じゃなかった様な。瞬はフラウの言葉にソラを見る。それにソラが慌てて首を振った。
「いや、結構熱かったっすけど!?」
「そういうことなのさね……ま、そういうわけだから持ってみなよ」
「はぁ……」
どういうことなのかさっぱりなのであるが、とりあえず大丈夫である事に間違いはないらしい。というわけで、瞬は意を決して素手で落ちた黄金色の延べ棒を触ってみる。
「……ん? 温かいは温かいが……」
「えぇ……?」
「うん。なんともないですね……」
「だろうね。これであんたまで反応してたら大笑いしてたんだが……まぁ、太陽と死は相性悪いからねぇ」
地面に落ちていた黄金色の延べ棒を瞬から受け取りながら、フラウが笑う。そうして受け取った所で、彼女は今しがた自分が見ていた巨大な炉の様ななにかを見る。
「こいつは『太陽石』を溶かして精錬した金属だ。こいつを溶かすのにはこの炉を使った」
「……この炉? 幾つもあるんっすか?」
「そ……こいつ以外にも色々と炉がある。光属性の強い物質だとこの炉だね」
どうやら素材によって使う炉とやらを変えているらしい。ソラも瞬もフラウの言葉からそれを理解。そんな彼女の視線を追って下を見る。
「この下に幾つも炉があってね。用途によって使い分けてる……そうだね。ちょうどこれから次の素材をしようと思ってたから見せてやるか。親父」
「おう……おい」
「え、あ、オレ?」
「……」
くいっ。フラウの父こと『銀の山』の棟梁が顎でカイトに指示を出す。これにカイトは仕方がないと壁際まで移動して、8個のレバーの前で立ち止まる。
「どれだ?」
「闇……良いよな、親父」
「構わん」
フラウの言葉に『銀の山』の棟梁が同意する。というわけでカイトが指定されたレバーを引くと、がこんっと大きな音が鳴り響いて炉が動いて下へと格納される。そうしてなにかが地下で動く音が鳴り響くこと、数分。今度は見た目こそ一緒だが真っ黒な炉がせり上がってきた。
「これは……」
「闇系統とか死の概念を有している素材に使う炉だね。さっきのは太陽に関する素材を精錬する時に使う炉だ」
「あ、それで……」
なるほど。ソラはフラウの言葉に得心がいったようだ。そしてこうなれば、次に何が行われるか瞬にもわかったらしい。
「ということは……今度は自分のですか?」
「そういうこと……良し。親父。突っ込んじまうから、炎の管理頼む」
「おう」
部屋の片隅にあったよく見れば蠢く袋を手に取る一方で、『銀の山』の棟梁が逆側にあった大釜へと近寄っていく。そうして彼が大釜を抱えあげると、中から真っ赤な液体が僅かだが顔を覗かせる。それに、ソラが引きつった様子でカイトへと問いかける。流石に作業中の当人達に聞く勇気はなかったらしい。
「……え? もしかしてあれ……溶岩?」
「ああ。精錬でも溶岩を使うからな」
「……素手で持ってないか?」
こちらも同じく頬を引き攣らせ、瞬が見たままを問いかける。素手で煮えたぎった溶岩が入った大釜を持ち上げているのだ。正しく現実離れした凄まじい光景でしかなかった。そうしてフラウが炉の上に素材の入った袋をそのまま突っ込んで、『銀の山』の棟梁が下側に溶岩を流し込む。すると、炉が熱を帯び始める。
「さて……じゃ、やるか」
ゴキゴキ。フラウが手を鳴らしながら、楽しげに笑う。そうして、『銀の山』のドワーフ達による素材の精錬が開始されるのだった。
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