第3290話 はるかな過去編 ――工房――
八英傑と呼ばれる後にセレスティアの世界において伝説的な英雄として名を馳せた者たち。その一人にしてかつてのカイトの幼馴染の一人であるフラウ。彼女はカイトやレックス達のために武器や防具を製造する『銀の山』の棟梁の娘であった。そんな彼女の助言を受けて、自分達の武器や防具の改良を行うべくカイト達と共に冥界へと瞬であったが、冥界での素材集めを終えると冥脈と呼ばれる道を通って『銀の山』へとたどり着いていた。
「へー……じゃあ、地下はどっかの洞窟があるんじゃなくて、魔法陣から転移してる形なんっすか」
「だったな……カイトに聞けば当初は遺跡の遺構だと思われていたそうなんだが」
「何処かのバカが乗った所転移しちまったって馬鹿な話だそうだ……ま、そんなのいつでもある話だろうけどな」
瞬の言葉に続けるように、カイトの声が響く。それにソラと瞬の二人が振り向いた。
「カイト? あ、久しぶり」
「おう。元気そうでなにより……上は楽しかったか?」
「た、楽しいってのはなかったけど……まぁ、久しぶりに神界の残滓に触れたって感じか。色々とためにはなったかも?」
「あはは。そうか」
確かに単に神界の跡という様な場所で、遺跡がチラホラあるかという程度だ。隅から隅まで調べれば楽しめる物が一つや二つ残っているかもしれないが、今回は遺跡調査でもなく単なる魔物退治が大半だ。
鉱石類はゴーレムが勝手に集めてくれるわけであるが、それにしたって元々の住居跡とは無関係な場所が大半。遺跡を見て回れる事もなかった。というわけで楽しいも何もない、というソラの意見にカイトも笑いながら納得。手頃な椅子に腰掛ける。
「で、どうしたんだ?」
「ああ。集めた素材の精錬を見るか、と思ってな……女性陣を誘うか、って言われると内容としてどうかと思った事も大きい」
「「あー……」」
確かにそれはそうかもしれない。カイトの提案に対して、ソラも瞬も何故自分達に持ってきたかという理由を納得する。全員調整して貰うために『銀の山』のドワーフ達に武器や防具をあずけており、これから何処かに行く事も出来ない。
というわけで各々好き勝手にしろとなっていて、ソラと瞬は隊のまとめ役に近かったことで一度お互いの情報を共有しよう、と女性陣には休んで貰って二人で集まって情報共有をしていたのであった。
「行くか。ちょうど情報共有も終わった頃だし」
「そっすね……それにあれがどうやって素材になるか、って少し気になる所もありますし」
「確かにな……」
瞬が思い出していたのは、あの禍々しい素材達だ。あれをどうやって自分達の武器や防具の強化に活かすのか。素直に気になったようだ。
「良し……じゃあ、ついてこい。ついでにドワーフ達の工房も見てみろ……まぁ、途中なんだけどな」
「そうなのか……そう言えばドワーフ達の工房って見た事ないな。どんなのなんだろ」
「ふむ……溶岩を使っていたり……か?」
「ヤバそうっすね」
「使ってるけどな」
「「え?」」
「言っただろ、地下の溶岩流を利用してるって」
まさか本当にそんな事をしているとは。ソラと瞬はただ言っているだけだったはずがカイトに肯定され、思わず仰天する。が、一方のカイトはこの前話した事を忘れている様子だと笑っていた。というわけでそんな二人を連れて、カイトは『銀の山』の中にあるドワーフ達の工房へと向かう事にする。そうして聞こえるのは、そこかしこで鉄を打つ音だ。
「おー……なんか物語に語られるドワーフ達の工房って感じだな……」
「が……やはり熱気がすごいな。鉄火場とは良く言ったものだ」
「鉄火場か……確かに鉄火場だな。特にここら一帯は工房エリアだから、何十人が鉄を打っている。精錬は最奥だな」
「そうか……何十人?」
「そりゃ、鍛冶師は何十人といるだろう」
「そ、それはそうだろうが……」
それでこれだけ鉄を打つ音が響き渡っているわけか。瞬は改めて周囲を見回して、カイトの言葉に納得を得る。というわけで改めて見回した瞬であるが、素直に感想を口にした。
「……なんというか、自然の洞窟を利用している様な場所なんだな」
「そうだな……一応手入れというか改修はしているらしいが。やりやすいらしい。だから街の工房とかをイメージしてるやつはこんなある意味野ざらしの鉄火場を見て思わずぎょっとなるとかは聞いた事がある」
「お前はならなかったのか?」
「オレ? オレはガキの頃から来てたからな」
「……あ、そっか」
カイトの返答に、ソラがそう言えばカイトもまたフラウの幼馴染であったと思い出す。なのでそういう疑問を抱くよりも前に自然に受け入れていたとの事であった。というわけでそんな事を話しながら先へ進むことしばらく。鉄を打つ音が小さくなっていき、それに比例する様に熱気が更に強まっていく。
「「……」」
「あはは……キツいか?」
「まぁ……な」
「おう……なんでこんな熱いんだ? 蒸し風呂状態ってか……」
防具を着ていなくて助かった。ソラはあのフルアーマーを着ていたら喩え冷房機能があってもキツそうだったと思いながらカイトへと問いかける。これにカイトが教えてくれた。
「さっきのエリアが鉄を打つエリアなら、こっちは集めた素材を使って精錬された素材を武器や防具に練り込んでいるエリアだ。だからさっき言った……ああ、あった。ほら、あれ」
「あれは……なんだ? 大鍋?」
「溶岩を入れている大鍋だな」
「あれが全部溶岩なのか?」
おそらく大の大人が一人すっぽりと入るだろう大きさの大鍋を見て、ソラが目を見開いて問いかける。これにカイトは一つ頷いた。
「ああ……まぁ、そのまま使うわけじゃないらしいがな。とはいえ、ああやって原初の火の力を利用して、素材を溶かすらしい……詳しくは聞くな。オレも職人じゃない」
「へー……」
「原初の火というのはなんだんだ?」
感心するソラの一方。瞬はカイトの言葉が気になったらしい。溶岩を指し示す事は理解していたが、それがどういう意味なのかを問いかける。
「それか……えっと、なんだったかな……この世界は最初火に包まれていた、とかなんとか。創世記にそうあるそうなんだ。あ、創世記ってのはこの世界で最も古い神話で、世界創生に関する話が記された古文書の事だな。ドワーフ達はそれに記されている原初の世界の火の残滓として、溶岩を重用してるらしい」
「なるほど……」
確かに科学的に星の成り立ちを考えた場合、元々超高温の星が冷えて今自分達がいる星が出来るのはわかる流れだ。瞬はカイトの言葉がおそらく古代のどこかの文明がそういった科学的に考えた話が下地となっているのだろうと納得する。その一方、カイトは話を続ける。
「まぁ、そりゃ良いか。そういうわけなんで、原初の火は何もかもを溶かす事が出来るって事らしい。で、どんな素材でも溶かし合わせる事が出来るから、ドワーフ達は溶岩を使っているとかなんとか」
「「へー……」」
それが合っているかどうかは別にして、話の筋をしては通っている。ソラも瞬もカイトが語るドワーフ達の話に感心と納得を露わにする。そうして、三人は今度は鉄火場より凄まじい熱気を放つエリアを抜けて最奥へとたどり着くのだった。
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