第3289話 はるかな過去編 ――再合流――
セレスティアの故国レジディア王国で執り行われたレックスの結婚式。それに参列するべくレジディア王国を訪れていた瞬達であったが、彼らは同じくレックスの結婚式に参列するべく集結した八英傑の面々との間に知己を得る事に成功する。
その中の一人にしてカイト達の武器や防具の製造、修繕に携わる『銀の山』の棟梁の娘フラウから助言を受け、一同はカイトやレックスらに同行させて貰い冥界と神界に赴く事になる。というわけでそれぞれ分かれて素材集めに収拾する事になったわけであるが、冥界側は冥脈と呼ばれる道を通って『銀の山』へ向かっていた。そうして冥脈を通ることしばらく。突然周囲の景色が一変する。
「次はなんだ……?」
「いや、到着したって所だ……総員、警戒態勢解除! 冥脈を出たぞ! 一旦呼吸を整えろ!」
「はぁ……」
「ふぅ……」
カイトの号令に、騎士達が一息つく。彼が敢えて声を上げたのは安全を知らせるためだ。というわけで危険地帯を脱したと瞬も理解。小休止を挟む事になったらしいので、彼は周囲に倣って呼吸を整えると共に一度周囲を見回す事にする。
「ふぅ……ここは……なんなんだ? なにか人工物っぽい柱が幾つも見えるが……」
「『銀の山』の地下遺跡だ。『銀の山』には『方舟の地』とは違う超古代の遺跡があってな。それが、この大空洞を作ったんじゃないか、って話だ」
「この空洞を……?」
見渡す限りに続くだだっ広い空間に、瞬が思わず気圧される。薄暗いからか天井が見えないのはまだ良いとしても、空洞の果てが見えない事は驚きしかなかった。
「地平線の先にも壁が見えないぞ。上はまぁ……薄暗いからかもしれんが」
「デカいからな……オレ達も詳しい広さは知らんが……深さも相当だし広さも相当なモンだ。少なくとも街が幾つかは入る広さはある」
「広さは見ればわかるが……これをか」
「流石に人工的にこんな空洞が出来るとは思えない、って話だ……まぁ、魔物が作ったものをこの文明が使った可能性はあるらしいけどな」
「その場合は……考えたくもないな」
こんな大空洞を作れるだけの魔物だ。どれほどの巨体を有しているのか、考えたくもなかった。数が多かったとしてもその時は恐ろしいほどの数だろうし、どちらにせよ考えるだけでも空恐ろしいものがあった。というわけでそんな瞬の言葉に、カイトも笑った。
「あははは……そうだな。こんな空間を作る様な魔物だ。倒すのは一苦労だろう。下手すりゃ厄災種だな」
「確かにそれはあるかもしれんな……」
どうにせよ出会いたくはないものだ。瞬はおそらく勝ち目なぞ無いだろう相手だと悟ればこそ、出会わない事を祈るしかなかった。そうして小休止を挟んで再び進む事にするわけであるが、そうなると一つ疑問が出た。
「そう言えばここはもう『銀の山』ではあるんだよな?」
「そうだな」
「どうやって上に上がるんだ? どこかに階段でもあるのか? いや、山でも入りそうな空洞ではあるが」
「確かに山でもすっぽり入りそうだな……常人なら落ちたらひとたまりもないだろう。オレ達常人じゃないけど」
先程瞬が言及した通り、天井がどれだけ高いかは薄暗いせいで見えていない。が、おそらくここまでの大空洞であれば深さおそらく数キロ単位で掘られている可能性はあり、本当に山があっても不思議はなかった。とはいえ、山があったりするわけではないらしい。
「まぁ、流石にこれを移動するには『方舟の地』みたいな昇降機が必要になるだろうが……この文明はな。上に上がる手段は一つしかないんだ……いや、見つけられてないだけかもしれないんだが」
「どんなのだ?」
「魔法陣による転移だ……いやぁ、あって助かったよな」
「階段、無いのか?」
「あっても数キロの階段だぞ。登りたいか?」
「……御免被るな」
オレは嫌だぞ。そんな事を真顔で告げるカイトに、瞬もまたはっとなって同意する。天井がどれだけの高さにあるかもわからない大空洞を最上層まで登る階段だ。間違いなく下手な登山より大変だろう事はかつて日常的に京都で山登り――陸上のトレーニングの一環――をしていた瞬は嫌というほど理解していた。というわけで瞬の返答に、カイトも笑った。
「だろうな……ま、流石にこれだけ広い空間だ。どこかに階段があるか、となっても探しきれてない。というより、柱が何本とか天井まで続く柱があるのかとかまだわかってない事が多すぎるんだ」
「そうなのか……いつ頃見付かったんだ、この遺跡は」
「比較的最近だな……確か十数年前とかそんなのだったはずだ。まぁ、そもそも魔法陣の台座が見付かったのが最近って所だからな」
「そうなのか……地下の採掘をしていて、とかか?」
「らしいな……まぁ、詳しくは当人にでも聞けば良い。どうせすぐに上だしな」
当時の状況についてはカイトも関わっていない事があり、詳しくはわからないらしい。というわけで自身に聞くより当人に聞いてくれという所だったようだ。そうしてそんな話をしながら進むこと数時間。
すでに朝なのか昼なのか夜なのかさっぱりわからない状況ではあったが、冒険者として鍛えているはずの瞬が疲労感を覚えだした頃だ。遠くになにか揺らめく光が見える事に気がついた。
「あれは……なんだ?」
「ああ、ようやくだな……あれは『銀の山』のドワーフ達が置いてくれた目印だ。手っ取り早い話が松明だ。流石にこの広い空間だと目印が無いと迷子になって最悪そのまま……だからな。実際、何度か調査隊から救難信号が発せられた事もあったし」
「な、なるほど……確かに目印がないとこれは……」
迷って不思議はない。瞬は周囲を見回して、改めて似た様な空間かつ端が見えない事で自身がどこにいるのかわからなくなっても不思議はないと納得する。実際、エドナが思い切り走っても問題無い程度の広さだ。迷えば命の危険もあり得るだろう。そんな理解を得た瞬に、カイトが教えてくれた。
「ここまでくれば後少しだ。もう少し頑張れ」
「わかった……だがここら一帯以外になるとどうやって目印を見つければ良いんだ?」
「ああ、それか……ここに入る部隊にはこういった目印と共鳴する魔導具が付与されるんだ。万が一にはそれを使うと、方角は教えてくれる」
「そういったものがあったのか」
カイトが瞬に見せたのは、コンパスの様な魔導具だ。後にフラウに聞けばこの松明は特殊な力を帯びているとの事で、それに引き寄せられる鉱石を使っているので方角はわかるとの事であった。ここまでカイト達が迷わずこれていたのもそれ故との事であった。
「そういうこと……まぁ、あまり遠くまでは設置出来てないんでな。こういうものが必要ってわけ」
「そうか……ん?」
「ああ、魔法陣の台座だな。後はあれに乗って、上へひとっ飛びだ」
次に見えたのは、数十メートルはあろうかという白い石の台座だ。というわけで一同はそれに乗って、上へと移動する事になるのだった。
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