第3288話 はるかな過去編 ――再合流――
セレスティアの故国レジディア王国で執り行われたレックスの結婚式。それに参列するべくレジディア王国を訪れていた瞬達であったが、彼らは同じくレックスの結婚式に参列するべく集結した八英傑の面々との間に知己を得る事に成功する。
その中の一人にしてカイト達の武器や防具の製造、修繕に携わる『銀の山』の棟梁の娘フラウから助言を受け、一同はカイトやレックスらに同行させて貰い冥界と神界に赴く事になっていた。というわけでそれぞれ分かれて素材集めに収拾する事になったわけであるが、冥界側は冥脈と呼ばれる道を通って『銀の山』へ向かう事になっていた。
「「「……」」」
無駄な言葉は絶対に言ってはいけない。瞬ら三人は冥脈渡りの途中、それを嫌というほど実感していた。そしてその中でも瞬はセレスティアが冥脈を渡ると聞いた途端、いくらカイトであれ正気を疑ったのも無理はないと思っていた。
(なんなんだ、あの化け物は)
はるか彼方。距離なぞ全くわからないほどの距離だろうとは思う瞬であるが、そんな彼の眼の前にはただ一つの目がギョロギョロと動いていた。
(止まってる……のか、動いているのかもわからん……だがあのサイズ……俺達の事なんて蟻ほどにも思えていないんじゃないか……!?)
絶対に勝てない。瞬は自身がある程度強くなっている実感があればこそ、遥か高みに立つ英雄達の背中がはるか彼方に見える様になればこそ、目の前の目玉には勝てないと本能的に理解していた。
それこそ、カイトでさえ勝てないかもしれない。それほどの化け物だった。実際、カイトさえ息を潜めてこの目玉の動きを凝視していた。
「「「……」」」
騎士団の騎士達を含め、完全に息を殺すこと数分。巨大な目玉がゆっくりと動いていく。気づかれなかったのか、気付いてなおどうでも良い生き物と無視されたのか。それは誰にも分からなかった。
「ふぅ……いやぁ、久しぶりにデカいの見たな」
「あ、あんなのが良くいるのか……?」
「良くはいないよ。あのサイズはな。でもまぁ、あのサイズじゃなけりゃ見ないわけでもないぞ」
あのサイズは見ないだけで、あのサイズでなければ見ないわけでもないのか。瞬はおそらくかなりの速度で動いているのだろうが遠すぎる事と対象が大きすぎる事で動いていない様に見える巨大な目玉に対してそう思う。
「あれはなんなんだ?」
「んー? さぁ、おそらくお前らの言う所の狭間に住まう魔物とかだろう。本来はああやって世界と世界の狭間にいるから、本当は誰もが見える範囲に奴らはいるんだ。ただ世界が外の情報を遮断しているだけで。もしかしたら、もっとデカい魔物もいるのかもしれないな」
「……」
言われてみれば、確かにカイトの言葉には筋が通っている。世界がどの様な形で象られているかは誰にも分からないが、少なくとも世界と世界の間に隙間がある事だけは事実なのだ。その間の距離がどういうものかは誰にもわからないわけであるが、少なくとも世界の中から見れば狭間は本来見えていなければおかしいだろう。
それが見えない以上、世界側が自らの境目に仕切板の様な仕切りを置いて外が見えないようにしたり、中の者たちが弾き飛ばされる事のない様にしている事は明白だった。事実瞬らの転移事故は世界と世界の衝突によるこの仕切板の破壊により起きたと考えられているし彼らもそれを知っている。
「なぁ、さっきのあのデカブツ。もし戦っていたら勝てていたか?」
「さぁなぁ……オレとてこの冥脈じゃ滅多な事では戦わん。実際、ここに来る前にも言ったと思うがここは世界の境界線が薄くなっているだけで完全にないわけじゃないんだ」
「そう言えばそんな事を言っていたな。あくまでも法則が緩んでいるだけで失くなっているわけではない、とか」
「そ……薄まっているだけで境界線があるにはあるから、今の目玉が気づかなかったのはあいつから見たらこちらはぼやけた画像になっていて、見つけられなかったという事だったのかもしれん……わからんけどな」
いくらカイトでもこの境界線の外側に出る方法は知りたくもなかったし、出た事もなかったらしい。出たら最後かもしれないのだ。いくら彼とて出ようとするわけがなかった。
そしてそういうわけなので、世界の外側から内側がどう見えているのかは完全に想像の域を出なかった。勿論、ノワール達学者勢も自分達の法則が通用しない外側から内側がどう見えるか、なぞわかるわけもなく、誰一人として推論さえ出来ない状態だった。
「そうか……兎にも角にも肝が冷えた……戦いが起きる事はなるべくはない様にしたい、というのはそういうことか」
「そういうことだな……あんな化け物共と戦ってたら命が幾つあっても足りん。あいつがこっちに入り込んできたらどれだけの被害が起きるかわかったもんじゃない」
一応は動いている巨大な目玉であるが、大きすぎてどう動いているかわからない。ただ小さくはなっていっている様子ではあったので、一同離れていっていると思っているだけであった。と、そんな事を話す二人の所へ声が掛けられる。
「団長」
「どうした?」
「後ろを確認してる奴から報告が……何かがこっちに入り込もうとしている様子がある、急いでここから離れた方が良い、と」
「はぁ……動けない次は急いで動かないと、か。事象が変になっても困る。急いで出発だ……が、大音は立てない様に要注意でな」
「はっ」
基本的に、ここでは誰も念話は使っていない。念話をきっかけとして何が起きるか不明瞭だからだ。勿論、かといって大声を上げて報告なぞ論外だ。というわけで基本的には足の速い者や隊長が報告や伝令に走る事になってしまうのであった。
「やれやれ……どうやら一休みといくわけにはいかないらしい」
「何が起きたんだ?」
「起きた、というよりも起きつつある、という所だ。厄介な話で薄くなっているのは事実だからな。ふとした弾みでこっちに外側の魔物やら事象やらが紛れ込む事がある。基本、そういう場合は弾き出されるんだが……それまでのタイムラグがあるからな。被害を被っても困るからさっさとずらかるぞ、ってこった」
「わかった」
さっきのよりも小さいのだろうが、それでも狭間の魔物が出てくるかもしれないのだ。そしてそれとの戦いをきっかけとして、何が起きるかわかったものではない。というわけで瞬もカイトの言葉を真剣に捉えてすぐに支度を整えて足を止めていた一同は今度は急ぎ足で再出発する事になるのだった。
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