第3285話 はるかな過去編 ――太陽の石――
セレスティアの故国レジディア王国の北部からレジディア王国、更に北の帝国に連なる一帯にあるという『銀の山』。その山頂から更に繋がるというかつての神々が住まう地であった神界に素材を集めに赴くというレックス達と共に神界へと赴いたソラ。そんな彼はなんとか神界にて初戦闘を終わらせると、その残骸を観察していた。
「……なんかあんま強くないっすね」
「強くはないな……まぁ、一人で十分倒せる程度だろ。素材次第ではあるけど」
「あー……確かにそれはあり得ますね……」
今回の魔物を構成していた素材は普通の岩石という所だ。しかしこれが魔素を多量に含んだ物質であればより強固かつ魔術にも強い耐性を持つ魔物となっていただろう。幸運に恵まれた、と言っても良かった。というわけで砕け散ってバラバラになった残骸の観察を終えたソラであったが、その残骸の中に妙に光る琥珀の様な物質を見つけ出す。
「ん?」
「どうした?」
「いや……なんか琥珀っぽい……でももっと鈍いっていうか……そんなのが……」
「お、マジか。どれだ?」
「えっと……」
ソラとしてもふとしたはずみで見つけた程度で、そうだったかもという程度だったようだ。魔力を使って大きな瓦礫をどかして、その下から小指サイズの小さなオレンジ色の石を取り出す。
「あ、あった」
「お、マジか。かなり中央付近にあったから、活性化してなかったのか? それとも出来なかったのかかもだけど……」
「これなんなんっすか?」
どうやらソラが手に取った石はレックスが思い当たる節があったらしい。かなり物珍しい様子でそれを見ていた。
「そうだな……ちょっとこっち来い」
「? うっす」
「よし……はっ!」
何がなんだかはさっぱりであるが、どうやら論より証拠と見せた方が早いと判断したようだ。彼は少し近くにあった少し大きめの岩の前まで歩いていく。そうして彼はその手頃な岩を大剣で真一文字に両断。テーブルの様に利用する。
「この断面の上にその神剣載せろ」
「? うっす」
とりあえずは言われるがまま、ソラは<<偉大なる太陽>>を乗せる。そしてそれを見たレックスが、ソラが手に持ったままのオレンジ色の石を<<偉大なる太陽>>の上へ乗せる様にジェスチャーで指示する。
「これで……うおっ!?」
『これは……おぉ、なんとも心地よい……』
「こいつは『太陽石』。太陽の力を多分に含んだ魔石だ。普通はあんな魔物の身体を構築出来る様な岩の中には無いんだが……」
ぽぅ。レックスが<<偉大なる太陽>>の上に乗っけられた『太陽石』に手をかざすと同時に迸った暖かな光が、<<偉大なる太陽>>を包み込む。
どうやら太陽の力を持つ神剣と太陽の力を有する魔石で相性が良く、<<偉大なる太陽>>の失われた力を賦活しているのだろう。
「普通は魔物の中に無いんっすか?」
「ない、っていうか……まぁ、滅多にないってレベルだな。今回はこのサイズだった事と、多分岩石の奥深くにあった事で活性化してなかったんだろう。普通だったらこの神界の神気に当てられて多少なりとも活性化してるもんなんだが……極稀にそういう事もある、って話かな」
「なるほど……って、あれ? もしかしてこれでも小さいサイズなんっすか?」
「ああ。それかもしかしたら俺達がどっかで手に入れた奴が欠けたのかもしれないな……えっと、どこあったっけ……」
レックスはソラの問いかけに、懐からなにかを探す様な素振りを見せる。そうしてしばらくの後。彼は懐から一つの魔石を取り出した。それはどうやら情報を保存しておくための装置らしく、彼は魔導具からから眼の前の『太陽石』と同じ色味の、しかしどちらかと言えば球形に近い石の映像を浮かび上がらせる。
「これが本来の『太陽石』。サイズとしちゃ片手で持つにはちょっと大変……ぐらいかな」
「へー……でも確かにこいつは小指サイズだし、形状もなんていうか細長い……」
「ああ。だから力を蓄えている最中のものだったのか、それとも俺達が取った奴がなにかの反動で剥離したか、ってわけ」
「へー……」
レックスの浮かべる『太陽石』の映像と自らの前にある『太陽石』の実物を見比べて、本来はもっと力を持つのだと察する。とはいえ、太陽の力を補給出来た事に間違いはないのだ。なのでソラが<<偉大なる太陽>>へと問いかける。
「どんなもんだ?」
『うむ……流石に神の力を直接供給されるに比べるわけにもいかんが、それでも一度ぐらいならば<<太陽の威光>>を使えるやもしれん。無論、この程度では大した出力にはならんが……この倍はあれば、一度ならば全力を出す事は出来るだろう』
「<<太陽の威光>>を?」
「<<太陽の威光>>?」
「あ、えーっと……神剣の力を解き放つっていうか……そんなもんっす」
「なるほど……神使化みたいなもんかな……いや、神使じゃないから疑似神化とかに近いか……?」
おおよそを自らの認識に当てはめるレックスであったが、その横でソラが重ねて<<偉大なる太陽>>へと問いかけた。
「後倍ぐらい、か……そのぐらいが限界っぽいか?」
『本来神の力もなく我が力を解放出来る時点で十分だろう。文句を言うな』
「そりゃわかってるよ。なぁ、さっきのレックスさんの映像並の大きさだったらどうなんだ?」
『ふむ……いや、流石にそれだけ大きくとも無意味だろう。我が力の根源は本来は太陽神の力。太陽の力も含まれるのである程度の補給は出来るが、神の力が無い。神の力に由来する力は使えんのだ』
「なるほどね……まぁ、やっぱり高望みってわけか」
『そういうことだな』
ソラとしても<<偉大なる太陽>>の言葉が道理である事はわかっているが、やはりこれだけ敵が強大であれば少しでも力が欲しいと思うのは無理のない事だろう。となればなにか出来ないか、と考えるのは当然だし自然だった。そうして考えていた彼であったが、そこでふと気になった事を聞いてみる。
「そういや、ここって元とはいえ神界なんだよな? ここで神気の補給して、『太陽石』で太陽の力の補給は出来ないのか?」
『ふむ……確かにそれは可能ではあるが。まぁ、お前も感じただろうがこの一帯の神の力は薄い。神が葬られたという逸話のあった『神葬の森』とは比べるべくもない。それでも確かに目覚めた頃であれば、この程度でも目に見えた賦活にはなったのだろうが……』
「今のお前じゃほとんど意味もない、ってわけか」
『そう理解して良い』
ソラの言葉に<<偉大なる太陽>>ははっきりと頷いた。というわけでここでの賦活は難しいと理解した彼に、<<偉大なる太陽>>は続けた。
『更に言えば、ここまで何度も通うのは難しかろう。その中で採掘まで行って、となるとやはり効率的でもない』
「費用対効果が悪い、か。わかった。まぁ、それでも。単発限りでも切り札を使えるのなら考慮には入れられるか」
『『太陽石』であれば、確かに選択肢に入れられよう』
「……何個か貰う事って出来ます?」
「小さいのとかなら……まぁ? あんま使い道無いのとかも時々見つかるから、それで良けりゃ持って帰って良いぞ。どうせ持って帰ってもノワールとかが実験に使うだけだしな」
「すんません」
話を聞いていたレックスの返答に、ソラが深々と頭を下げる。というわけで話がまとまった所で、レックスが口を開いた。
「うっし。じゃ、そうと決まれば……<<偉大なる太陽>>。『太陽石』の気配は覚えたな?」
『ああ』
「なら、それでサーチは頼んだ。太陽神の神剣が太陽の力を持つ石の力を探せないとは、言わせないぞ?」
『くっ……それが目的であったか』
大体を理解した<<偉大なる太陽>>がレックスの指示に僅かな苦笑をにじませる。そうして、ソラは<<偉大なる太陽>>を頼みにして『太陽石』の探索を行う事となるのだった。
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