第3284話 はるかな過去編 ――神界――
セレスティアの故国レジディア王国にて出会った八英傑残りの四人。その一人でありカイト達の武器や防具の修理や改良を行っているフラウというドワーフの少女の助言を受け、瞬は<<赤影の槍>>の強化。ソラは力を失って久しい<<偉大なる太陽>>の賦活を目的としてそれぞれ冥界と神界に赴く事になっていた。
というわけでソラらレジディア王国に残留した面々はレックスと共に神界へと赴いていた。そうして神界にたどり着いて、すぐの所で拠点を設営。ようやく神界での行動を開始する。
「……普通……に見えるんですけど」
「うーん……普通っちゃ、普通か。文明の痕跡……があるにはあるけど」
「あー……確かにありましたね」
レックスの返答にソラは確かにと周囲を見回す。そんな彼の目にはおそらくかつては神殿を中心としてあったのだろう住居の痕跡が見受けられた。
「……てか、ちょっと思ったんですけど。大きくないっすか? なんかサイズ感がバグる……?」
「ああ、それか。ってな話は言われてるよな。なんっていうか……神殿のサイズがちょっと大きいのは納得なんだけど、それ以外の普通の住居っぽい建物のサイズが妙に大きいって」
「っすよね。これ、普通の人よりちょっとどころじゃないぐらい大きい気が……」
「んー……こりゃ、俺も神話として聞いただけなんだけど、神話の時代のこの大地には巨人が居たらしい」
「へー……でも確かにこのサイズだったら……」
ソラは偶然残っていた様子の扉の残骸を持ち上げてみる。大きさとしては3メートルほど。常人の身の丈を大きく超えており、横幅もそれ相応に大きかった。ここまで大きいと一般的な人のサイズより、鬼族やらの大柄の種族に適したサイズだった。というわけで巨大な残骸を見ていたソラであるが、はたと気付いた。
「……てか、魔物もデカいって可能性ないっす?」
「あー……そう言えばデカいな。気にした事はなかったけど」
「……」
彼に聞いた事が馬鹿だったかもしれない。ソラはあまりにあっけらかんとした様子のレックスにそう思う。まぁ、そう言っても。生まれてより将来を嘱望され、剣を握れる様になった途端に天才児として頭角を現したと言われている彼である。
レイマールさえカイト達彼自身が同格――特定分野では劣るとさえ――を認められる英雄と出会わなければ暴君と成り果てたのではと危惧するほどの力を持つ彼にとって、たかだか大きいだけの魔物なぞ幼少期から物の数ではなかった。というわけで少し話していたわけであるが、急に地面が揺れ動くのを二人が感じる。
「ん?」
「話してたら、か……やってみろ」
「え?」
「ま、何事も慣れだ。全員、手を出すなよ! 新人の初仕事ってやつだ!」
やれやれ。レックスの言葉に各々武器を抜き放とうとしていた騎士達がそんな様子で各々の得物から手を下ろす。そんな様子に、ソラが声を大にする。
「えぇ!?」
「がんばれー」
「っとぉ! マジかよ!?」
どんっ、と自らの背を押して地面から湧き出してくる巨大な岩石の巨人へと突き出すレックスに、ソラは悪態をつく。とはいえ、手助けは貰えないらしい。イミナ、由利共に援護出来ない様に妨害されていた。というわけで、ソラは諦めて単身眼の前の敵に向き直る。
「ちっ……マジかよ」
『英雄とは得てして強引なものだ』
「でしょうね!」
<<偉大なる太陽>>の言葉にソラが再び声を荒げる。とはいえ、やると決まればやるしかないのだ。ソラも<<偉大なる太陽>>を前に盾を構えしっかりと地面を踏みしめる。
(まず地面……安定。てか、レックスさんの話だとここって超高空……って話だよな。どんぐらい上なんだろ……いや、それ以前に地平線が見えてるってことは……ここはまだ端っこには程遠いな。いや、そりゃそうだよな。ここが入り口って事は中心に近い場所……ただし、中心からは程遠い場所でもある……かな)
攻められた時に政治的、軍事的な中心から近い所に入り口を置いていれば危険。ソラはブロンザイトから学んだ事を思い出し、それはこの世界でも通用するだろうと考える。というわけで、多少大きく面積を取って戦っても大丈夫と判断。続けて盛り上げってくる敵をしっかりと見定める。
(容姿……人型の岩石……ただし胴体は寸胴型。幾つかのブロックタイプか……)
ブロックタイプ。それは冒険者達が魔物の容姿を言い表す言葉の一つで、幾つかのブロック、塊で構築された魔物だ。今回であれば大小異なる岩石が手足を構築しており、厄介な性質として不活性状態では自然界に存在する岩石と同じ様に乱雑な状態になっているという所であった。それが本体が起き上がると同時に浮遊して、身体を構築するのである。そして、もう一つ。厄介な点があった。
(このタイプだと手足の破壊は効果無いんだったよな……どうなってんだろ、こいつ。いや、今考えるべき事じゃないんだけど)
どうやら余裕はあるらしい。ソラは岩石の手足を見ながらそう思う。そうして観察していると、まるで遠心力を利用しているかの様な機敏な動きで腕を突き出してくる。それは本来届かない距離からの一撃であったが、どういう原理なのか岩石のブロックが飛翔してソラへと襲いかかる。
「はっ!」
飛来する岩石のブロックに対して、ソラはタイミングを合わせて盾を突き出す。しかも盾にまとわせる障壁を衝突の瞬間に円錐状として衝撃を一点集中。逆に敵の放つ威力を利用して大きくえぐり取る。
「無駄はわかってんだけど!」
『やらぬよりマシだ!』
岩石の巨人の腕が大きく抉れたその穴の中に、ソラが<<偉大なる太陽>>の切っ先を叩きつける。そうして、直後。彼は身を屈めてしっかりと地面を踏みしめて身を固める。
「おっと」
ソラが身を屈めて障壁を前面に展開したとほぼ同時。引き戻されて岩石の巨人の本体に再び接続された腕が爆発を起こした。<<偉大なる太陽>>の切っ先に魔石を引っ付けておいて、引き戻されると同時に爆発させたのだ。そして内部からの爆発だ。岩石の巨人とて堪ったものではない。
とはいえ、こういったブロックタイプの魔物の特性としてソラが思い出した通り、個々の部位が独立したパーツで出来ているという事がある。なので腕が吹き飛んでも、特に問題はないらしい。身体が揺れ動いて、吹き飛んだ破片が本体へと集まっていく。
「そうなるだろうと思ってたぞ、っと!」
どうやら大きい程度で戦闘力としてはさほどかもしれない。ソラは岩石の巨人の動きを見ながらそう思う。とはいえ、実際にはこの魔物も本来なら楽に倒せる相手ではない。ソラにも十分な経験と地力が備わりつつあるというわけであった。というわけで、破片を集める動きに合わせて距離を詰めたソラはそのまま岩石の巨人の本体へと盾の先端を合わせる。
「おらよ!」
どんっ。やはりこういう場合、ソラの<<杭盾>>系の攻撃は有効と言えるだろう。というわけで胴体のど真ん中から反対側まで衝撃が浸透し、岩石の巨人の胴体が砕け散る。
「……ふぅ」
どうやらコアも胴体にあるタイプの個体だったらしい。ソラはかつて交戦した事のあるコアが全く別の所にあるという魔物を思い出して、標準的な個体で良かったと胸を撫で下ろす。そうして、ソラは神界での初戦闘を終わらせるのだった。
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