第3282話 はるかな過去編 ――銀の山――
セレスティアの故国レジディア王国にて出会った八英傑残りの四人。その一人でありカイト達の武器や防具の修理や改良を行っているフラウというドワーフの少女の助言を受け、瞬は<<赤影の槍>>の強化。ソラは力を失って久しい<<偉大なる太陽>>の賦活を目的としてそれぞれ冥界と神界に赴く事になっていた。
というわけで一足先にカイト達と共にシンフォニア王国に戻って冥界に向かった瞬らと時同じく。ソラらレジディア王国に残留した面々もまた、レックスと共に神界へと赴いていた。
「すっげー……なるほど、こりゃ銀の山っすね」
「だろう? まぁ、俺が胸を張る事でもないけどさ」
少し遠くに見える『銀の山』を見るソラの感嘆の言葉にレックスが少し胸を張るわけであるが、自分で言っていて別に自分が誇る事ではないと思い直したらしい。これにソラが笑う。
「いや、でもこれマジですごいっすよ……本当に銀色っていうか。なんでなんっすか?」
「なんで、か……なんでなんだろ。俺もそう言えばそういうものと思ってたからなーんにも気にしたことなかったな。なーんか聞いた気がしないでもないけど」
『そりゃ、カイトが聞いたから。で、横に大将が居たからだろ……確かね。確かカイトが聞いてた気がする。真夏に目が痛いんだがなんでこんな銀色なんだって』
「あー……そういやそんな事ぼやいてたなぁ」
もう何年前だっけ。レックスはフラウの話でカイトが上空から『銀の山』を見下ろし、反射する光で顔を顰めていた事を思い出す。そして思い出して、色々と思い出したようだ。
「そうだそうだ。あの時確かデカい魔物が出たんだっけ。んでカイトが上から攻めてて、終わった後に『銀の山』を見てなんでこんなに輝いてんだよ、ってぼやいたんだったな」
『そーそー。あの時『銀の山』の共鳴を使ったからね』
「あれはなー。そりゃ目が痛いわ」
「共鳴?」
なにか二人だけでわかる話をしている様子なのだが、ソラには何がなんだかさっぱりだ。というわけで首を傾げる彼に、レックスがしまったと教えてくれた。
「おっと、悪い……えっとな。この『銀の山』なんだが見てわかる通り普通の山じゃない」
「そりゃまぁ……霊山だって話も聞いてますし」
『そうだね。この御山は退魔の力も持ってるすごい山だ……まぁ、そういうわけだからこの尾根の石ころも魔石を含んでたりしてね。だから銀色に見えるってわけ』
「まぁ、使えるレベルじゃないらしいんだけどさ」
『流石にね。クズ石はクズ石だ。砥石として……ぐらいなら使えるかもね』
レックスの言葉にフラウも笑って同意する。というわけでソラの見ていた『銀の山』は鈍い銀色という様子の山で、その銀色も灰色を揶揄しているわけではなく本当に銀色だった。が、流石に輝いているほどではなく、目が痛くなる様子はなかった。
「とはいえ、この山全体が特殊な鉱石も含有してるらしいから、地脈を使えば山全体で共鳴現象を引き起こす事が出来るんだ……ま、『銀の山』のドワーフ達でも出来るのはフラウぐらいなもんだけど」
『外ならあんたらも出来るけどね』
「あははは……やりたかないけどな。地下深くまで行かないといけないし、あそこら辺溶岩とか怖いし」
「お、おぉ……」
どうやら色々ととんでもない所に行って初めてその共鳴とやらは使えるらしい。ソラは笑うレックスの様子にそう理解する。とまぁ、そんなこんなで益体もない様な有益な様な話をしながら進み続けることしばらく。一同は『銀の山』に設けられていた登山道を進んでいた。
「……レックスさん。一個良いっすか?」
「ん? どうした?」
「ここ、山っすよね」
「そりゃ……そうだろ。何を今更?」
あまりに当たり前の問いかけをされて、レックスがキョトンとした様子で首を傾げる。あまりに不思議な問いかけ過ぎて、その意図が掴みかねたらしい。というわけで、そんな彼にソラが質問の意図を告げる。
「いや、山って結構登ると涼しくなるじゃないっすか。なのにここ、登った所からあんまり気温変わらないな、って」
「あー……それか」
ソラの問いかけに、レックスはそう言えばもう結構上まで来ているなと納得する。すでに『銀の山』の守護竜も背中が見えるほどに下にあり、おそらく1000メートルは優に超えただろう。
彼方の麓では『銀の山』のドワーフ達がフラウ指揮の下で今回の交易で手に入れた物資を麓の入り口から中に運び込んでおり、その姿はただでさえ小柄なドワーフ達が更に小さく見えていた。
「ここに登る前にこの『銀の山』は特殊な鉱石を多量に含んでる話したよな?」
「っすね……もしかしてその影響で?」
「ああ。この『銀の山』は霊山って話もしてたと思うけど、そこらもあってこの山全体が特殊な結界に覆われている様なもんなんだ。まぁ、そこまで強力な結界ってわけでもないから、強い魔物なら無視しちまう程度だって思えば良いけどさ」
「魔物払い程度ってわけっすか」
「その程度だな……安全に暮らす分には十分って考えれば良いよ」
この世界も当然の様に魔物が闊歩する以上、地球の様にどこでも街を建造出来るわけではない。いや、地球とて技術の進歩や地球そのものの狭さから魔物の出現地域を把握し、発生と同時に討伐する手立てが確立されているだけとはソラも聞いている。
故に結界が必要ないだけで、本来はこの世界やエネフィアの様に街には大規模な結界が展開され安全の確保をせねばならないのだ。というわけでこの『銀の山』そのものが結界の代わりとなるため、中のドワーフ達が安心して暮らせるというわけらしかった。
「まぁ、それはそれとして。そういうふうな特殊な力場が発生してるんだけど、さっきこの地下深くには溶岩が流れてる話もしたよな?」
「なんかヤバいらしいっすね」
「ヤバいってかなんてか……最深部の地下神殿なんかそこかしこで溶岩吹き出しててドワーフ達でさえ立ち入れない様な魔境だ」
「地下神殿?」
「ああ……もう誰が建造したのかもまーったくわからない神殿。レジディアの旧文明でもないだろう、ってのが大まかな見立て……ヤバいぞ、あれ」
「は、はぁ……」
そんなものまであるのか。ソラは楽しげに笑うレックスに思わずあっけに取られる。というわけで楽しげに笑っていたレックスであったが、慌てて気を取り直した。
「いや、それは良いんだよ……そこの溶岩が多量に含む火属性の魔力を組み上げてるらしくてな。流石に一番上まで行くとキツいみたいなんだけど、ここぐらいまでなら温かいんだ……ああ、そうだ。そういうわけだから上に行けば一気に寒くなるから気を付けてくれ。寒暖差で体調崩す奴結構多いんだ」
「あ、わかりました」
あくまで温かいのはこの一帯だけということか。ソラはレックスの言葉に気を引き締める。と、そんなこんなをしながら歩いていると、唐突に二人の足元が持ち上がる。
「うわわわあ!?」
「っと! こりゃ寝てる魔物を踏んづけたか!」
「大将!」
「頼む!」
ソラと共に上へ跳ね上げられたレックスが、配下の騎士の一人の言葉にそう告げる。そうして、神界に向かった面々もまた強大な魔物――ただし彼らの前では物の数ではなかった――との戦いが開始される事になるのだった。
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