表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3297/3947

第3280話 はるかな過去編 ――冥界――

 セレスティアの故国レジディア王国にて出会った八英傑残りの四人。その一人でありカイト達の武器や防具の修理や改良を行っているフラウというドワーフの少女の助言を受け、瞬は<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>の強化。ソラは力を失って久しい<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の賦活を目的としてそれぞれ冥界と神界に赴く事になっていた。

 というわけでカイトと共に冥界へと赴いた瞬であったが、彼は冥界を統率する冥界神の招きを受けたカイトと共に冥界神の身許へと赴いて情報交換を行うとそこで少しの冥界についての説明を受けたわけであるが、その後は当初の予定に沿って冥界の素材を集めるべく動いていた。が、その前に。瞬は本格的な戦闘を前に死神から教えを受けていた。


「ほらほら、死が迫ってますよーっと」

「っぅ!」


 迫りくる死の気配に、瞬はその場を大きく蹴って跳躍。魔物の魔の手から逃れる。が、そんな彼の足元を舐める様に、赤黒い煙が迸る。


「っ」


 まずい。瞬は自身の足元に迫る赤黒い煙を察知して、地面に槍を突き立てて通り過ぎるのを待つ。


「あ、それ普通はだめなんで。覚えといた方が良いと思うよ、新人くん」

「そうなんですか?」

「そ……その煙は死の煙。触れるだけで常人なら良くて即死。悪けりゃ苦しみ抜いて悶絶死さね。それは武器だって変わらない。長く触れ続ければ、容易に朽ち果てるだろう。ただ君の槍は冥界の素材で作られたより濃密な死そのものだ。だから逆に賦活しさえしてしまう……が。そうであればこそ」

「っぅ!?」


 どくんっ。敢えて言うのであれば、なにかが脈動する様な気配。瞬は自らの足元でそれが迸るのを知覚する。それに瞬は直感的に、このままではまずいと判断。虚空に足を掛けてその場から更に高く跳躍する。これにモルテが満足げに頷いた。


「はい、正解。その槍は冥界で鍛え上げられた槍。しかも死神の大鎌にも類する刈り取る側の武器さ……それに濃密な死を与え続ければ当然、その力は持ち主にさえ牙を向いてしまうってわけさ」

「なるほど……」


 ということは今感じたのは勘違いでもなんでもなく、<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>が自らを喰い殺そうとする力の奔流というわけか。瞬は冥界の暗闇を舞いながら、改めて自らが携える槍はかの大英雄が授かった魔槍を模した物だとしっかりと自覚する。というわけで空中を舞う瞬を見ながら、モルテが助言を続ける。


「でも同時に、そいつほどの死を纏うのなら低度の死ぐらいなら食い尽くしてもしまえる。勿論、切り払ったり振り払ったりする事も容易だろう。こんな風に」


 ざんっ。モルテは論より証拠と自らの足元まで流れ込んできた赤黒い煙を自らの大鎌で薙ぎ払う。そうして薙ぎ払われた赤黒い煙はまるで死神の大鎌には太刀打ち出来ないとばかりに雲散霧消。斬撃が通り過ぎた後にさえ、流れ込めなくなってしまう。これに瞬が思わず感嘆の言葉を漏らした。


「すごい……死の煙が……」

「本当ならその子だってこの程度は出来るだろうねぇ……そいつの大本の大本は間違いなく死をも凌駕した様な化け物が使っていたもんだ。現状で大元には及ばなくても、十分低級な死を寄せ付けない力は持っている」

「……」


 モルテの助言を聞きながら、瞬は自らの<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>に意識を集中させる。そうして先程まで彼の足元に流れ込んでいた赤黒い煙より更に濃密なもはや黒にも見える赤き光が、<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>の穂先に宿る。赤黒い光は死そのもの。赤黒い煙を濃縮して、まるで固形化したかのようであった。


「はぁ!」


 モルテの行動を思い出しながら、瞬は赤黒い穂先で切り払う様に赤黒い煙を切り払う。それは大きな斬撃となって煙を両断していくと、その中央に居た魔物の姿を露わにした。その光景に、モルテは一つ頷いた。


「まぁ、及第点って所かねぇ……本体を見切れる程度には切り裂けている」

「ふぅ……」


 やはりまだ死を纏う一撃を多用出来るほど、瞬の技術も肉体も<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>に追いつけていないみたいだ。モルテは死を濃縮した一撃を放った瞬がたった一発で乱れた呼吸を整えるのを見てそう思う。

 その一方、赤黒い煙を切り裂いた瞬はその中心に居た魔物の姿を戦闘開始前からようやくもう一度しっかり確認する機会を得てしっかり様子を確認していた。


(肉の樹……とでも言うべき魔物か。植物系の魔物なのか、動物系の魔物なのか……良くわからんな)


 やはり冥界は地上に比べて不可思議な魔物が多かった。今回彼が相手をしている様な相手程度であれば、まだ奇襲を食らう事もなく瞬でも真っ向勝負を挑んで勝てる。

 が、冥界神との話を終えて彼の創り出した冥道で先に陣地の設営に合流した時に見た相手は動かなければ樹と見紛うばかりで、奇襲を受ける可能性は非常に高かった。

 というわけで正しく肉の樹と言うべきか肉の柱と言うべきかという気持ちの悪い魔物を観察していた瞬であるが、肉の樹が大きく蠢いて再び身体の各所から赤黒い煙が吹き出した。


「っと……」


 どうしたものだろうか。瞬は再び赤黒い煙に包まれる肉の樹の魔物を見ながら、攻めあぐねる状況について少しだけ考察する。幸か不幸かこの肉の樹の動きは非常に遅く、先に瞬が見た肉の樹――正確には瞬が戦う個体の一つ上の進化個体――の様に木の幹の様に生える肉の触手が尋常ならざる速度で迫りくるという事もない。勝てないわけではないが、勝つためには一工夫必要な相手と考えられた。


(どうしたものか……だめか)


 ちらりとモルテを伺い見た瞬であるが、自身の意図は先読みされていたというわけなのだろう。モルテの方はまるで槍を投げる様なジェスチャーをした後、腕を交差させて駄目という事を明示する。

 当たり前だが動きが鈍く接近戦を仕掛けるのが得策でないのであれば、瞬としては槍を投げつけて遠距離から一撃で仕留める様に動きたい。が、それは見抜かれていたというわけであった。何よりそれで倒しては<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>の死の力の制御にはなり得ない。仕方がない事ではあっただろう。


(とどのつまり、この程度の死であれば<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を使ってなんとかしてみせろ、というわけか)


 先にモルテも言及しているが、本来<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>はこの程度の死なぞ物ともしない超級の魔槍だ。それをまだ瞬が使いこなせていないからこそ先程は軽い死の気配で瞬を殺そうとしたわけであるが、今後それが戦闘中に起きては困る。

 なので今このタイミングで冥界の魔物の内、死に関連する力を扱えながらもさほど強くない魔物相手に経験を積ませよう、というわけであった。


(とりあえず死を纏った一撃ならばなんとかは出来そうではあるが……それでも突っ込むのは最後の手段としておきたいな)


 槍の投擲が駄目となると次に瞬が思いついたのは、自らが一本の槍となり一気に敵へと肉薄するプランだ。こちらは赤黒い煙に触れる事にはなるが、至極短時間だ。一撃で仕留められるのであれば、十分に考慮には入れられるだろう。が、やはり濃密な死に身体を晒す事には違いなく、瞬としてもなるべくはしたくない。最後の手段か、死を弾けるだけの何かしらの方策を考え出してからだった。


「となると……やってみるか」


 今回は幸いな事にカイト達も瞬らの強化は瞬らの利益にもなる。なので今の戦闘も完全に瞬単騎で戦える様にフォローしてくれており、色々と試せはしそうであった。というわけで、それから暫くの間。瞬は正しく冥界の魔物という様な死を振りまく魔物を相手に試行錯誤を繰り返す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ