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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3268話 はるかな過去編 ――亡国の姫――

 セレスティアの故国レジディア王国においてはるかな昔に存在していたとされる伝説的な英雄王レックス・レジディア。過去に飛ばされた事によりそんな彼との出会いを果たす事になったソラ達であったが、そこをきっかけとしてこの時代のカイトやその幼馴染達との会合を果たす事になっていた。

 そうして会合を繰り返すこと幾日。一同はレックスの婚礼の儀に出席するべくレジディア王国を訪れていたわけであるが、婚礼の儀も終わりおよそ一週間が経過しようとしていたわけであるが、その結果。婚礼の儀に関わる諸々も終わりを告げ、ようやくレジディア王国側も色々と一段落しつつあった事でようやくベルナデットとの謁見が明日に迫っていた。というわけで、ソラは謁見に備えてカイトからベルナデットの来歴や人となりを聞く事となっていた。


「てな具合かなぁ……まぁ、今更だがあいつもあいつで波乱万丈の人生を送ってるわな。政争に巻き込まれ戦争に巻き込まれ……王族なんだから珍しくもないかもだけど」

「あいつもあいつでって……いや、そうか。お前もわりと波乱万丈の人生か」

「だろ?」


 ベルナデット並に波乱万丈の人生はあり得るのだろうか。そう思ったソラであったが、目の前で笑うカイトは幼少期には原因不明により孤児となり、マクダウェル家に養子として拾われ。その後は13歳でシンフォニア王国がある意味で滅んだ事により流浪の旅に出る事になり、一年後にレックスと共に原因となる魔王を討伐。

 シンフォニア王国へと帰順を果たすと勇者の称号と共に騎士に封ぜられ養父や義弟らと共に次の侵攻に備えるわけであるが、その数年後。予想された魔族の侵攻を受けアルヴァを逃がすべく父が戦死。紆余曲折を経て父の騎士団を引き継ぎ、その後は戦力の再編に携わり四騎士による<<青の騎士団>>を組織。そこの騎士団長だ。確かに彼も彼で相当な波乱万丈の人生であった。


「笑える事かよ」

「いや、面白いは面白いぞ? お前らみたいなのにも出会うしな」

「まぁなぁ……そりゃ、俺らみたいなのは会わないよなぁ……」


 波乱万丈な人生であれ、楽しめるのが生きていくための秘訣なのかもしれない。ソラは楽しげに笑うカイトに釣られて少しだけ咲いながら、そう思う。というわけでひとしきり笑いあった所で、カイトが気を取り直した。


「ま、当人も特に気にしてないから別にベルから聞いても良かったは良かっただろうがな。聞きづらいのも事実か」

「気にしてないの?」

「気にしてないのは気にしてないだろう……親子関係も結構冷え切ってたっぽいからなぁ。ちょっとショックは受けてたみたいだけど」

「ちょっと? 実の親が死んだのに?」


 ソラの感覚としては、実の父親の死去はかなり大きな衝撃に感じられるらしい。そしてカイトの方も養父たる先のマクダウェル卿の死去にはクロードと共に滂沱の涙を流し、前後不覚に陥ったとも聞いている。驚くのも無理はなかった。


「まぁな……そもそも神殿に預けられてるぐらいだぞ。何度も言っているが、暗君と言われる部類の方だった。ベルのお父君はな……実際はそう見えてしまうほどに魔族に入り込まれていた、のだろうが」

「……」

「あはは……ま、だから合同の軍事演習に奇襲を受けた、と聞いた時あいつはすぐに察していたよ。ならば父は生きていないでしょう、ってな。ショックはショックだったんだろうが、そうなる事がわかった上での事だから受け入れるしかなかった、って所もある」

「……強いんだな」

「強いっていうか……まぁ、賢いは賢いんだわ。まーったくそう見えないんだけど」

「……へ?」


 今までの話を統合するに、ベルナデットという人物の功績はとてつもなく聡明な姫君だ。賢者の部類と考えられるだろう。そして事実それについてはカイトも認めていたのだが、それに対して彼は楽しげに笑っていた。というわけで呆気にとられたソラを横目に、彼はセレスティアを見る。


「なぁ、セレス。ベルの人柄とかって後世伝わってる?」

「いえ……それが不思議なほど何もないですね。事実、転生前までは皆様いらっしゃったのに、何故かベルナデット様は滅多に語られず……ただレックス様にご助言をされていたとは何度も語られておりますが」

「だよな」


 おそらくそうなるだろうな。カイトは未来の世界で語られるベルナデットがほぼほぼ功績のみである事を聞いて納得しかなかったらしい。


「ぶっちゃけ、戦略ならあいつはオレやレックス超えてるだろうな。攻めならベル、守りならウチの姫様。そんな塩梅」

「そんな?」

「やっばいぞ? オレらも暇だから、ってんで時々ボードゲームとかやるけど、オレもレックスもベルにだけは勝率3割とかそんなの。まぁ、姫様にもなんだけど姫様の場合は引き分けになっちまう。攻め手に欠けるからな」


 カイトとレックスの二人を相手にボードゲームとはいえ勝率7割。それは間違いなく当代では有数の軍略家だろう。父の死や合同軍事演習への奇襲に驚かなかったのも無理はなかったかもしれなかった。


「だから裏に引っ込んで語られない、と」

「いや? 単にあいつの性格の問題だろう」

「えぇ?」

「波乱万丈の人生だから、じゃなくもうあいつ凄まじい天然でな……さっき教会が包囲されたって話しただろ? あの時オレが先行して迎えに行ったってか守りに行ったわけだけど、その時平然と紅茶飲んでたからな、あいつ」

「……はい? え? 確か政敵の兵士達に完全に包囲されて、魔界の扉も開かれる寸前だったんだよな?」

「おう……魔界の扉が開かれるのもおそらく神殿の大魔術を操れるあいつだから察知は出来てただろうな」

「……マジで?」


 その状況下で平然と紅茶を飲みながらカイトを待っていたというのだ。凄まじい胆力なのではなかろうか。ソラはベルナデットのイメージが一転して女傑に早変わりする。そんな彼に、カイトは当時を思い出したのか大爆笑だ。


「マジマジ。で、当人はお待ちしておりましたー、とか呑気な声で言った挙げ句、カイト様もお茶を飲みますかー? スコーンもありますよー? だぞ。さすがのオレもお前らしいよ、としか言えんかったわ」

「いつもなの!?」


 かなり間延びした口調はおそらくベルナデットを真似たものなのだろう。政変と魔族の侵攻に養父の死を飲み込み駆けつけてみればのこれで、さすがのカイトも思わず肩を落としたと共に安心もしたらしかった。


「そ……いや、まぁ、当人は間に合う事がわかってたんだろうが。呑気は呑気なのよ、あいつ……まぁ、だからあいつが怒ったら一番怖いんだけど。笑顔の圧がヤバいのよ、あいつ。だからレックスも尻に敷かれるだろうなー」

「お前にゃ言われたくねぇわ」

「ふぇ?」


 楽しげに結婚したばかりの親友の未来を笑っていたカイトであるが、後ろから響いた声に後ろを振り向く。そこには案の定、レックスが立っていた。楽しくおしゃべりをしていたせいで、彼が来た事に気付いていなかったらしい。そしてソラもまたその声で気付いたらしい。


「あれ? レックスさん。どうしたんですか?」

「おっと……とりあえずずっと待たせちまったから、そのお詫び兼お土産だ」

「え? 良いんですか?」

「ああ……遅れて悪かったなぁ。途中魔物が出たって報告があってな。流石に村人達に泣きつかれちゃしょうがない」

「いや、大丈夫っすよ」


 おそらくレックスが出た以上は特に問題もなかっただろう。そしてここで王国軍を駆けつけさせるではなく、自分がやってしまうあたりレックスらしくはある。何よりそれが国民達の人気の理由でもあるのだ。というわけで、問題がなかったといえばなかったのであるが自分が巻き込んだ結果遅れたわけでもあるので、お詫びとしてちょっとしたお菓子を持ってきてくれたのであった。


「で? 俺がなんだって?」

「ああ、明日ベルと謁見だろ? それでベルの来歴を教えてくれってな……流石に普通は聞きにくいだろ?」

「あー……」


 そりゃ普通は亡国の姫君に来歴を教えてくれなぞ言えるわけがないし、さりとて知っておかねばならない所は多いだろう。ならばと幼馴染のカイトに聞いたのは自然な話だろう。が、それならとレックスが椅子に腰掛ける。


「それなら俺が教えてやろう」

「え?」

「良いって良いって。気にするな。いっぱいあるぞ?」

「ただお前が話したいだけだろ……のろけはほどほどにしろよ」

「そうでもある」


 カイトの指摘にレックスは満面の笑みでうなずく。どうやらベルナデットとの惚気話をしたくてたまらなかったらしい。というわけで、一同はその後。のろけ話兼彼女のさらなる過去のお話をのろけ話多めで強制的に聞かされる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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