第3263話 はるかな過去編 ――武器――
セレスティアの故国レジディア王国にて後に伝説的な英雄王として名を残す事になるレックス・レジディアという青年。その彼の婚礼の儀に参加する事になったソラ達はかつてのカイトや後にカイトやレックスと並び八英傑として名を残すその幼馴染達との出会いを経ながら、日々を過ごしていた。
そうしてレックスの婚礼の儀から数日。彼らはカイトから自分達の武器の修繕に使われる素材の収集への旅路についての話を行っていたのであるが、それもおおよそ終わって今は単なる雑談会の様な様相を見せていた。
「そう言えばなんだが……グレイスさんとかライムさんの持つ武器って何か有名なのか? いや、見たらそれだけで力が凄いっていうのはわかるんだが」
「そりゃそうだろ。あいつらの持つ武器だぞ……だが、どうしたんだ?」
「いや、今度一緒に冥界に行くわけで、そこで素材を探すというのだから一応聞いてみようと思った、という所なんだが。ならば冥界や神界の素材で出来ているのか、と思ったんだ」
カイトの問いかけに対して、瞬は今回の話し合いに合わせて取り出していた自身の槍を見ながら問いかける。改めてになるが、彼の槍は素材の隅から隅まで冥界の素材で出来ている。なので冥界の素材でなければ修繕も強化も出来ないと言われれば納得だが、それなら同様にグレイス達の武器もそうなのかと思ったのであった。そしてそんな問いかけに、カイトは一つ頷いた。
「なるほどね……そうだな。グレイスの持つ剣は神界の素材……『太陽石』と呼ばれる素材を原料として。ライムの持つ双剣は冥界で採掘される『冥鉄』と呼ばれる黒みを帯びた金属だな。それに加えて『銀の山』の奥深く。溶岩地帯に居る魔物やら更に北の雪原地帯に住む魔物とかの素材を使ったりして、それぞれの属性を強化したりしてる。勿論、それ以外にも神界や冥界の魔物の素材も使ったり溶かしたりしてる」
「そんなに使っているのか」
「ああ……まぁ、当たり前だな。オレぐらいなものだろう。強化されていないのは」
「そうなのか?」
元々カイトの双剣は彼が拾われた時から共にあったもので、彼と共に成長するという特殊な性質を有していたという。それは知られていたが、強化も何もされていないとは思っていなかったようだ。
「ああ……これがどういうわけかさっぱりなんだが、こいつは修繕は出来るんだが強化が出来ないみたいでな。まぁ、オレの力を受け止めきれるし、このままでもとんでもない力を有しているから問題無いっちゃ無いんだが」
「苦い顔だな」
「もっと強くできりゃ良い状況ってのはわかるだろ」
「あ、あぁ、それはそうか……」
苦い顔のカイトの指摘に、瞬は何を当たり前な話だっただろうと納得する。そもそも今でさえ大将軍級の魔族と戦って相打ちまがいな状態になっているというのだ。武器を更に強くして総合的なパワーアップを、とカイトが望むのは無理ない事だった。というわけで、彼が少しだけ愚痴を口にする。
「まぁ、もっと強い武器がありゃとは思うんだが……『銀の山』の連中もこいつ以上の武器を作るのはちょっと厳しい、って言うしなぁ……というより、オレと一緒に成長していく以上鍛えようがないというかなんというか」
「どうしてだ?」
「とどのつまり、こいつの本来の力をオレがまだ出しきれてないって事だろ?」
「あ、そうか……成長していくのではなく、もしお前に合わせて本来の力を解放しているのだとすれば……」
「そ。オレが逆に不甲斐ないってわけで、武器側に合わせられてる状況でもっと良い武器をと望んでも無理な話でしかない」
これはカイトもまた指摘された事ではあったらしい。そもそも彼と共に成長するというが、武器側が力を抑制してカイトに合わせていると考えても良いのだ。ならば良い武器をと望むのではなく、自身の基礎ステータスを上昇させた方が遥かに真っ当かつ妥当だった。
「……まぁ、それでも。若干の改良は出来るらしいから、改良は加えてるんだけど。でも結局改良加えた所でそれを含めてこいつら成長しちまうから、改良する意味があるのかないのか」
「た、大変だな、不思議な武器を使うのも」
「本当に……っと、まぁ、それはさておき。そんな具合でオレ以外は全員……レックスも緋々色金で出来た大剣だ。それに神界で取れる素材を山程……これでもかと言うほど注ぎ込んだ大剣だ。小手にしても鎧にしてもそうだな。わかるとは思うが」
「確かレジディア王家は古い神の血を引いているんだったか」
「そ。だからあいつの力を最も強化出来るのは神界の素材ってわけ」
何度か言われているが、レックスとセレスティアの持つ<<赤虹>>という力は古い神の一族に端を発する力との事だ。というわけでその力を持つレックスが神界へ向かい、開祖マクダウェルが縁を持つ冥界へカイトが向かうのは自然な流れではあっただろう。と、そんな話を語ったカイトへと、瞬が問いかけた。
「だがセレスティアは冥界と」
「の、方が良いという話らしいな」
「何か不思議な気がするが……」
「オレとの連携の側面から、らしい。なんか良くわからんのはオレも一緒だ」
不思議そうに首を傾げる瞬に、カイトもまた同じ顔で首を傾げる。先の通り本来セレスティアであれば神界に向かうレックスに同行するのが良いはずなのであるが、未来のカイトが冥界に縁が強い事を聞いたノワールがそれならと彼女の巫女服の強化は冥界の素材にしたいと発言。レックスの部隊からカイトの部隊へと入れ替わる事になったのである。なお、その代わりとしてイミナが神界に向かう事になっていた。
「未来のオレが冥界に強い縁がある……そうだな?」
「ああ……いや、思えば思うほど冥界に縁がありすぎるな……」
語るなと言われているから詳しくは語らないが。瞬は改めて未来のカイトの立場を思い出し、あまりに冥界との関わりが多すぎると改めて思い直す。そんな彼に、カイトはそうかと思うばかりだ。
「そうか……まぁ、それなら最終的にはこの世界のオレじゃなく未来のオレとの連携になっていくのだから冥界の素材を使いたい、という話らしい。流石に未来のあいつもそこまでは見通して作成は出来ていなかったそうだからな」
「ふーん……まぁ、強くなるのならそれの方が良いか」
「ああ……なんか大変な作業にはなるらしいがな。神界と冥界の素材の両方を織り交ぜて、とか」
大変なんだろうな。カイトも瞬もあくまで使い手であるため、ノワールやフラウが大変というのだから大変なのだろうと思うばかりだ。というわけで二人はセレスティアの巫女服の強化についてそんなある種子供っぽい理解をするわけであるが、話を再び武器に戻す。
「ああ、話がズレたな……兎にも角にもそういうわけで冥界の素材や神界の素材は大量に消費するから、年に何回かは取りに行かないといけないんだ……だが場所が場所だから行ける人員が限られちまってなぁ」
「まぁ……神界と冥界だからな」
「あははは。ま、しゃーない。そして今後お前らもしゃーない側の戦士になっていく」
「そ、そう言えばそうなるのか……」
そもそも今ここでこうして一団に参加させてもらう話が出ているのは、彼らの武器や防具もまた神界か冥界の素材で強化しなければならない領域にたどり着いたという事なのだ。そして一度たどり着いた以上、レベルを落とす事は命取りだ。であれば、エネフィアに戻ってもそうし続けるしかない。というわけで、瞬は未来に目を向けて呟いた。
「向こうで素材をどうするかな……」
「向こうでもそりゃ、神界や冥界で取れる素材になるだろうな」
「だろうな……流石に買えんか……いや、ヴィクトルやリデル家あたりだと取り扱ってくれそう……ではあるが。流石に予算は厳しいか……」
「商人か?」
「ああ。商家に強い繋がりを持つ公爵だ」
「やめとけ。費用はバカ高いぞ」
「だろうなぁ……」
カイトの指摘に、瞬が笑う。そもそも商人達が簡単に手に入れられるのであればこうしてカイト達が自分で取りに行く事なぞないだろう。それをするといくら戦時とはいえ費用がとてもではないが足りないからこそ、彼らは年に何回か素材を取りに行くのであった。というわけで、瞬は変な所からエネフィアに帰った後の事について頭を抱える事になるのだった。
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