第3256話 はるかな過去編 ――結婚式の裏で――
『方舟の地』での一件を終えてたどり着いていた王都レジディア。そこでは王太子にして後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の中核的人物となるレックスの結婚式に向けて忙しなく準備が行われている最中であった。
そうしてレックスの客人として王都レジディアでの日々を過ごす事幾日。遂に結婚式当日になったのであるが、その日の早朝には一同揃って結婚式の支度に追われる事になり早朝から準備を行っていたわけであるが、それも終わりカイト達、ソラ達に分かれて結婚式に参列する事となっていた。
いたのであるが、カイトはレジディア王国より請われて聖獣やその他レックスでなければ応対出来ない様な高位の存在達の相手に駆り出される事になり、分身を使って外に出ていた。
「……なるほど。そりゃまた……いや、そうか。それなら納得も出来る」
『なんという……愚か者とは思うたが。そんなもの、失敗すれば自分達も諸共に吹き飛ぼう』
「それを考慮してさえ、平然と乗り越えちまう化け物共ってわけなんだろうよ……ちっ。そんな化け物にオレ単騎か。冗談きっついなぁ」
話を聞く限り、下手をすると今自分達が戦っている魔族達と同程度かそれ以上の戦闘力は持っているのではなかろうか。カイトは遂に聞かされた未来の自分が長く戦っているという敵達について苦い顔だ。
「いや、どうにも単体としての戦闘力であればお前よりは下らしい。当人達も揃って如何にお前と真正面から戦わないか、という所に重点を置いている様子があるそうだ」
「うわっ……マジかよ。やっぱ魔族共より厄介だな……」
少なくともこの世界の魔族達は自分達もずば抜けた力を持つ者たちだからか、カイトを搦め手で倒そうという様子は見えない。だからこそそんな魔族達の頂点に立ちながら謀略も駆使する大魔王が恐ろしいわけだし、それを軍隊として統率させられるからこその大魔王でもあるのだろう。というわけで搦め手を存分に使う<<死魔将>>達にカイトは心底嫌そうな顔だった。
『ははははは。だからこそ、お主もまた策略を身に着けたのであろうな。先に谷で話を聞いた時、それは妾も驚いたものじゃが。なるほど。そんな相手であれば策略の一つや二つ身に付けねばなるまい……その点ではレイマールの小僧もアルヴァの小僧も甘い。俗物に押し負けるとはのう』
それが人の世といえば人の世なのだから仕方がないのだが。そう思う聖獣も認めている事だが、カイトその人の地頭は非常に良い。そしてそれは貴族達もまた理解している。
だからこそそれを手に入れさせない様に貴族達はカイトの足を引っ張り続けるわけだし、それを理解していればこそアルヴァやレイマールはレックスやロレイン達を矢面に立たせてカイトには政略を考えさせない様にしているのだが、その庇護が無い以上カイトがそうせねばならないのは当たり前の話だった。
『……まぁ、良いわ。とりあえずはそういうわけじゃ。常識の通用せん魔物が現れる。手が数百の魔物……いや、それこそ数百の手で出来た魔物なぞ出てきても不思議はあるまい。ま、こんなもん想像出来るだけまだ良いがの』
「常識が通じないねぇ……倒せはするんだろ?」
「未来のお前は普通に倒していたな……まぁ、支援を貰ったは貰ったらしいが。後で聞けばこの程度本気でやれば大精霊達の力を借りなくても別に、という事だった」
カイトの問いかけに瞬はあの教国での戦いの後に聞いた話を語る。誰もがあり得ないと思ったあの巨体や異常の化け物でさえ、未来のカイトにとっては何千と戦ってきた『狭間の魔物』の一体でしかなかった。というわけで普通の、真っ当な手段でも倒せるという答えにカイトが胸を撫で下ろす。
「なんだ。別にちょっと常識が通じない、ちょっと強いだけの魔物なんだろ? なら別に良いか」
「まぁ……お前やレックスさんなら平然と倒してしまうだろうな」
自分達から見てさえ、今のカイトと未来のカイトであれば今のカイトの方が基本スペックは高いのだ。しかもそこにヒメアやノワールらの支援まであるという。未来の世界での戦いよりはるかに楽な戦いとなりそうな事は確実だった。とはいえ、そんな様子を見せるカイトに、聖獣がため息を吐いた。
『阿呆。常識が通じんというのがどれだけ厄介か……いや、お主らの方が常識が通じんかもしれんか』
「ひっでぇな……まぁ、良いや。とりあえず勝てそうなら考える必要もない。若干そのデカブツとかは厄介かもしれんが……後はどこで出るか、とか次第で避難誘導やら結界での取り込みやらが必要になるかもしれんか……そこらは姫様と詳細な打ち合わせをする必要がありそうだな」
『それが良かろうな……それはそれとしてそれ以前の話として穴を見つけねば何も話にならん故に、暫くは妾も共に征くぞ。それが本来の仕事故にな』
何度か言っているが、そもそも今回聖獣が『王家の谷』から出てきたのはこの異変を解決するためだ。ちなみに、民衆には恐怖を煽らない様にレックスの結婚式だから出たと告げているらしい。というわけで暫くは聖獣と共にこの異変に取り掛かる事が決まっているカイトもそれについてはそうしてくれと言うしかない。
「そうか……ま、それはそれで良いが。ん?」
「どうした?」
「言語が変わったな……」
首を傾げる瞬に、カイトはどこか周囲を伺う様な様子を見せる。それに瞬も流れてくる映像と音声に注意すると、確かに曲調とでも言うべき何かが変化した事を理解する。そんな彼らに、聖獣が笑った。
『妾への賛辞じゃの……カイトは何を言っているかわかるじゃろうが』
「わかっちまうんだよなぁ、これが……ほんと、未来のオレって何をやってるんだろうか、これ……」
ここらの翻訳の魔術でさえ対応出来ない言語を理解し、使いこなせるというのだ。未来の自身に降り掛かっているであろう困難を想像し、今から嫌そうな顔であった。というわけでガックリと肩を落とす彼であったが、未来の困難の前に今の困難が彼の前へ訪れる。
「マクダウェル卿! こちらにいらっしゃいましたか!」
「なんだ?」
「白竜公が御身は何処かと」
「白竜公が? え? 白竜公? 来てるのか?」
それは無理だ。出された名前にそう考えたカイトであったが、その名前が今回の参列者になかった名で思わず聞き返す。これに、彼を探していた兵士が引きつった顔で頷いた。
「ええ……『銀の山』の守護竜が来た事を龍脈を通じて察したとの事」
「そりゃまた……わかった。対応しよう」
これはこの対応が終わった後にカイトが教えてくれた事であったが、白竜公というのは幻獣の一体だったらしい。はるか大空を舞う巨大な白竜だったらしいのだが、それ故に居場所が掴めずだったらしい。
そして幻獣相手に並の兵士では噛み殺されるのが関の山だ。カイトか最低限四騎士が出ねばならなかったし、こうなる事が想定されているのでレジディア王国は恥を承知でカイトへと応対を依頼していたのであった。
「瞬。ソラでも良いが……オレが出たら次はグレイス達のどっちかが来る。そっちにもさっきの話をしてやってくれ。姫様達にそっちから話が出来るだろうからな」
「え? あ、あぁ、分かった」
どうやら流石は英雄達という所で、カイト以外にもグレイスらも駆り出される事になっていたようだ。というわけでカイトが去った後すぐ。今度はグレイスとライムが揃って分身で現れる。
「団長は大忙しだな……自分の結婚式でもないのに」
「自分の結婚式だったら今度はあっちに全部投げつけてるでしょう」
「それもそうだな。その時は私達も大いに楽をさせてもらうとしよう」
大空を飛んで移動するカイトの背を見ながら、二人の女騎士達が笑う。そうしてそんな彼女らがソラ達の所へとやってくる。
「団長から話を聞いた……聖獣様の案件という事だな」
「あ、はい……えっと」
どこからどう話せば良いのやら。グレイスの言葉にソラが応ずる。そうして一同は婚礼の儀の傍ら、この世界に起きているという異変に対する話を共有する事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




