表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3267/3949

第3250話 はるかな過去編 ――結婚式――

 『方舟の地』での一件を終えてたどり着いていた王都レジディア。そこでは王太子にして後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の中核的人物となるレックスの結婚式に向けて忙しなく準備が行われている最中であった。

 そんな中でレックスの客人として丁重にもてなされる事になっていたソラや瞬達であるが、彼らは同じく後に八英傑と呼ばれる事になる若者や王都レジディアの冒険者を統率する冒険者にして騎士という稀有な肩書を持つ者との間で会合を得ながら、日々を過ごしていた。

 そうして王都レジディアでの日々を過ごす事幾日。遂に結婚式当日になったのであるが、その日の早朝には一同揃って結婚式の支度に追われる事になっていた。というわけで、偽装としてヒメアの従者として振る舞う事になったセレスティアを連れたカイトは自分達の起居する一角へ向かうわけであるがその道中。ふと疑問だった事を彼女に問いかける。


「そう言えばふと思ったんだが、一つ良いか?」

「なんでしょう」

「結局水霊の儀って何なんだ? てかやった事ある?」

「ああ、水霊の儀ですね……ええ。正式な物は流石に滅多にはしませんが、簡易の水霊の儀はこの世界に居た頃は良くやっていました」

「そんな簡単なのか?」

「いえ、大変は大変です……でも私は正式の物でなかったのでまだマシな方ですね。レックス様の巫女の子は短ければ三ヶ月に一回は行っていましたから、凄い大変そうでした」


 今更という話であるが、セレスティアは本来レジディア王族だ。なので水霊の儀も引き継いでいる可能性はあるのでは、とカイトは思っていたらしい。というわけでそんな彼の問いかけに、今朝方までレックスがしていたという水霊の儀についてをセレスティアが教えてくれた。


「水霊の儀……身体の内を満たす水を大精霊様の加護が宿る水に全て置き換える儀式。正式なものになると断食に加えて水の接種も一日絶たねばなりません」

「飲めもしないのか。そりゃレックスも渋い顔になるわ……」

「ああ、いえ。魔力で水を生成せねばなりませんので、渇きとは無縁ですよ……ただその術式が非常にややこしい上に丸一日続けねばなりませんので、レックス様も厭われたのではないかと」

「おぉう……」


 さすが王太子様。結婚式は大変そうだ。カイトはどれだけ勇者だと称賛されようとあくまでも一介の騎士でしかない自らの身の上をこの時ばかりは有り難く思う。


「さっきレックスの巫女はそれを年に何回かやってるのか?」

「はい……まぁ、基本は簡易版で済ませますが、年に一度は絶対に」

「簡易版は何が違うんだ?」

「水の置き換えを事前準備した水の大精霊様の加護を受けた水で補う、という形です。丸一日の手間を省いた、というわけですね。それでも半日に渡ってその水だけの接種と魔力による体内の水の置き換えを行わねばならないので、大変は大変です」

「ふーん……ん? なぁ、それって飲むってことか?」

「そうですが……何か?」

「いや、なんでも……」


 そうか。そりゃそうだけどセレスティアも人の子だよな。カイトは置き換えると言っているがその実どういう意味かを想像して、少し恥ずかしそうだった。

 というわけでそんな彼に小首を傾げるセレスティアであったが、話の流れとどこか照れくさそうな様子のカイトが何を考えたかを察したらしい。彼女の方がカイト以上に顔を真っ赤に染める事になる。


「あぁ! ち、違いますよ!? 飲みますけど、その……別にそういうわけでは」

「あ、そ、そうなのな!? ごめんごめん!」

「は、はい……えっと。今身体の中にある水は特殊な呼吸法を用いて呼吸と共に排出します。正式な儀式では身体全体を浸す事で全身の皮膚を介してゆっくり置き換える事になりますが……経口摂取で一気に、というわけです」

「そ、そぉー……あ、あはははは」

「あ、あははは……」


 そりゃそうだ。儀式だもんな。カイトはてっきり飲んだら飲んだ分だけ出す。つまり少し婉曲的な表現をするとお手洗いを想像していたわけである。が、一応儀式なのでそういう事はなく、排出についても魔術を交えた儀式に則ったやり方になるのであった。

 まぁ、彼はその排泄に関してどういう儀式なのだろうかとセレスティアで想像してしまったため、恥ずかしげだったわけであった。というわけで二人して真っ赤に顔を染めながら歩いていく事十数分。ヒメアの居る一角までたどり着く。


「マクダウェル卿」

「セレスティア姫をご案内いたしました」

「かしこまりました……何を?」


 ヒメアの側仕えとして世話をするメイドの一人が、カイトとセレスティアが揃って顔を真っ赤にしていた事に疑問を呈する。が、これにカイトは恥ずかしそうに首を振るだけしかない。


「な、なんでもありませんよ」

「え、えぇ……あははは……」

「?」


 この様子は何かあらぬ事があったわけではない様子ではある。世話役のメイドは恥ずかしげな様子からそう思い、そしてそうであればこそ何があったのだろうかと首を傾げる。とはいえ、追求する時間はない。というわけで、セレスティアを中へと通す事にする。


「……セレスティア様、こちらへ。ノワール様もすでにお待ちです」

「はい」

「では、後は任せます」

「承りましょう」


 カイトの言葉に、メイドが一つ頷いた。当たり前だが流石に彼が着替えを手伝えるわけがない。というわけで一人になったカイトであったが、当然彼とて自分の支度があった。


「さて……今度はオレの番と」


 メイドやセレスティア達が入っていった部屋とはすぐ隣。カイトは自分用に用意されている客間――あまりに来る回数が多すぎて半ば彼専用になっているが――に入る。

 そこには今回の婚礼の儀に際して用意された彼専用の軍服があった。それは一般的な黒を基調とする軍服とは異なり、白と青を基調とし銀の細工の施されたこの世界の一般とは異なる軍服だった。


「……黒にして欲しかったんだがなぁ」


 目立ってしゃーない。カイトはレックスと揃い――ただし彼は白と赤に金の細工――で拵えられた軍服を見て少しだけため息を吐く。違うのは施された小さな細工はカイトが龍。レックスが獅子の意匠にされているという程度だろう。

 七竜の同盟からすればカイトとレックスは二大看板だ。なるべく対となるイメージを与えられるようにしていたのであった。そして当然、目立つようにもされていた。そして今回はレックスの婚礼の儀である以上、カイトはこれを着ねばならなかった。


「はぁ……ま、着やすい事だけは良いか」


 一般的な軍服は割りと細々とした所に細工が施されており、着るのは少し手間らしい。カイトもレックスも専用の軍服が作られるとなった際に着やすくしてくれ、と頼んで普通の軍服より簡単に着れるようにしていたのであった。というわけで彼は少しだけ恥ずかしげながらも、自ら専用に用意された軍服に袖を通すのだった。




 さて専用の軍服に袖を通したカイトであるが、彼は軍服に袖を通すと二振りの相棒を専用の剣帯に通す。というわけで支度を終えた彼は扉を開けて外を見るわけであるが、当然そこには誰も居なかった。


「良し。これで完成、と……こっちは終わりだが……まだ終わるわけもなし、と」


 当然だがヒメアにせよセレスティアにせよお姫様だ。用意に時間が掛かるのは当然だし、それもあってカイトはセレスティアを朝早くに迎えに行ったのだ。ただ着るだけにも近い彼の方があっという間に終わったのは当然だった。というわけで再び部屋に戻ろうとしたわけであるが、そんな彼に気だるげな声が掛けられる。


「おーう……」

「あぁ? なんでお前来たんだよ」

「見たわかんだろ」

「うわぁ……まーた凄いな……」


 カイトに声を掛けたのは水霊の儀を終えたレックスだ。そんな彼であるが、今回は流石に王太子として婚礼の儀に臨むので着る服は軍服ではなく貴族としての服。それも王太子としての婚礼の儀専用の服だ。

 白と赤を基調とする点は変わらないが、金細工がこれでもかというほど満載だった。その多さは先の『王家の谷』で着用した服の比ではなく、いつもなら爆笑するカイトが流石にそのゴテゴテとした様子には頬を引きつらせるしか出来なかったほどであった。


「……重くない?」

「重い。むっちゃ重い……歩けないレベルで。いや、マジで普段の鍛錬これでやった方が良いんじゃね、ってぐらいには重いし。てかこれで歩けるかっての」

「そう……」


 施されている金細工であるが、当然であるが金メッキであるわけがない。全て正真正銘の輝かんばかりに磨かれた純金だ。そこにルビーを筆頭にした様々な宝石、魔石が取り付けられており太陽の下で反射すると目が痛そうというのがカイトの素直な反応だった。というわけでカイトを押しのけ部屋の中へ入ったレックスはいつも自分が使うソファにどかっと倒れ込むように寝そべった。


「って、おい。お前その服でソファにどかって……寝そべってねぇか」

「これで寝そべるほどの勇気は俺にもない。魔術使った方がまだマシ」


 カイトの問いかけにレックスはしかめっ面で手をひらひらと振る。彼の服であるが、表も裏も全て緻密な計算が施された細工が至る所に取り付けられている。

 しかもその上でマントも床を引きずるほどの長さだ。彼であっても立っているのが精一杯な見た目だった。というわけで疲れた様子で客室のソファを基点として飛空術で横たわる彼に、カイトは苦笑しながらも何も言わない――それがわかっているからレックスも来た――事にする。


「はぁ……ま、こっちも暇してたから良いよ。お前も……その格好じゃ何もできそうにないしなぁ」

「あっははは。流石にお目付け役共も全員揃って殿下は立ったままで居てください、って言ったからな」


 歩くだけでもマントが引きずられて損傷しそうなのだ。そして当然、この服にはありとあらゆる防御をもたらす魔術が施されている。普通は飛空術なぞ出来るわけもなく、介助がなければ本当に立っているだけになるそうであった。


「水霊の儀だっけ? 終わってそれか。大変だな、婚礼の儀ってのも」

「あっはははは。俺の場合、それやりながら時間が足りないからって水の中で幾つかの儀式の言葉を覚え込まされたわ……」

「お、おぉ……」


 一応今回の流れはカイトも聞いていたのであるが、やはり儀式の多さに反してレックスには時間が足りなかったようだ。それでもやり遂げてしまうあたりレックスの凄さがにじみ出るわけであるが、やはり土壇場まで色々とあったらしい。

 セレスティアが大変と言う水霊の儀をやりながら、祝詞を幾つも覚え込まされたらしかった。というわけで覚え込んだ一説をレックスが口ずさんだ。


『我レックス・レジディアが始祖レジディアが盟約を結びし水司りし者へと願い奉る』

「へー……水の大精霊様への宣誓か?」

「そうそう……ん?」


 がばっ。今まで疲れた様子で覚えた一説を口ずさんだレックスであるが、カイトが感心した様子で笑った事に目を見開く。そうして目を見開いた彼が問いかける。


「わかったのか!?」

「あ、あぁ……普通にな」

「おいおい……俺自身何言ってるかわからないんだぞ」

「そうなのか?」

「ああ……今のは精霊言語。大精霊様達が使う言葉だ。おそらく今のこの世界でわかるのはスイレリア殿を筆頭にした神官の中でも中核だけだぞ。教えてくれたのも彼女だしな」

「そうなのか……未来のオレの情報ってやつかね」

「なんだろうな……」


 一体全体未来のこいつはどういう状態になっているんだろうか。レックスは大精霊が使う言語さえ理解してしまうというカイトに驚きを懐きながらそう思う。とはいえ、それならと有効活用させて貰うだけであった。


「なぁ、それなら俺が何言ってるかわかるって事だよな? てか、他にもわかるのか?」

「さぁ……だがわかるものはわかるんじゃないか?」

「なら、合ってるかどうかちょっと聞いてくれ。変な言葉だったら赤っ恥だからな」

「あいよ」


 どうせカイトも暇だし、レックスとて何かやれるわけでもない。そして彼とて自分の結婚式で恥は掻きたくない。というわけで二人は時間の許す限り、最後の最後まで準備に勤しむ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ