第3243話 はるかな過去編 ――結婚式――
『方舟の地』と呼ばれる超古代文明の遺跡で起きていた異変を解決しやってきたレジディア王国は王都レジディア。そこではレックスの結婚式に向け、忙しなく準備が行われているところであった。
そんな中でレックスの客人としてもてなされる事になっていたソラや瞬達であったが、結婚式までの日々をカイトやレックスと同じく後に八英傑と呼ばれる事になる若き英雄達や王都レジディアの冒険者を統率する騎士にして冒険者という稀有な肩書を持つ者らとの会合を経つつ過ごしていた。
そうして日々を過ごしていたわけであるが、レックスの要請を受けて『王家の谷』と呼ばれる歴代レジディア王族の墓があるという地へと赴いたわけであるが、それから帰った後。瞬はカイトに呼ばれ結婚式場の現地視察に同行する事になっていた。
「皆様の場合はこちらとなります」
「……ず、随分と遠いですね」
「末席ですので……ご容赦ください」
カイトに連れられ大聖堂にまでやってきた瞬であるが、そこからは別行動だった。というわけで結婚式に際してどこにいれば良いかと案内されたわけであるが、案内されたのは式場の端も端。大聖堂からかなり遠くの場所であった。とはいえ、これも無理はないだろう。なにせ今回招かれているのは数百人規模の参列者が居るのだ。一応はレックスが気を回してくれたわけであるが、それでも用意出来たのは末席も末席だった。と、そんなわけで一応の場所を確認していた彼のところへ、遅れて連絡を受けたソラが現れる。
「先輩」
「ソラか……ん? 他は?」
「いや、流石に状況からぞろぞろと引き連れていくと迷惑になるだろうから、って俺だけっす」
「ああ、そうか」
「……って、ここっすか」
「みたいだ」
これはえらく遠いな。ソラも瞬も仕方がないと思いながらも苦笑を滲ませる。と、そんなわけで大聖堂の外まで伸びている参列者の席を見て、ソラがふと疑問を呈した。
「そう言えばここからだと聖堂の中の様子見えないんですけど、そこら何かあるんですか?」
「ええ……そういえばそろそろかな。少し待っていてください」
ソラの問いかけに、何か考えられてはいるらしい係員が通信機を介してどこかに確認を取る。そうして暫く待っていると、唐突に大聖堂の正面口の左右に巨大な水の壁が浮かび上がった。
「「うおっ」」
「ああ、悪い。今確認した……というわけです。流石に中の様子が見えないでは問題ですので、このように水の壁が浮かんで……ああ、出ましたね。中の様子が伺い知れるようになっております」
「「へー……」」
やはり水に所以ある王都というだけの事はある。水をモニター代わりにして浮かび上がった内部の様子に、ソラも瞬も感心したようにしきりに頷く。
そこでは立ち位置の確認やレジディア王国側からの要望を聞くカイトやグレイスらの姿があり、その反対側にはレックスが率いる四騎士達の姿もあった。その誰もが堂々とした騎士の格好で、今回の婚礼の儀に王国がどれだけの威信をかけているかが伺い知れる様子であった。
「ああ、そうだ。そう言えばお伝えするように言われていたのですが、そちらの横の席にはシンフォニア王国のアルダート様がいらっしゃいます」
「おやっさんが……なるほど。わかりました。ありがとうございます」
やはりこちらに来て数ヶ月が経過しようと、こういった冠婚葬祭のマナーはソラ達にはわからない。というわけでレックスが気を回しておやっさんの近くで万が一にはフォロー出来るように差配してくれていたのである。
と言っても元々おやっさんは彼らのような若い冒険者が粗相をしないように、粗相してもフォロー出来るように一塊にされている。なので気にする必要が無いといえば無い事であった。
「いえ……それでこちら婚礼の儀の進行に関する資料となります。皆様に関係のあるのは、この赤字で記された部分となります」
「「……」」
どうなっているんだろう。一応家柄もあり冠婚葬祭に出る事はままあった二人であるが、それでも異世界の結婚式、それも王侯貴族の結婚式がどういう流れになるかは興味があったようだ。というわけで渡された資料を開いて確認するわけであるが、即座に目が点になった。
「こ、これは……」
「……こ、これ……全部一日でやるんですか?」
「ええ……開始は朝の9時。終わりは夜の9時を予定しております。勿論途中には休憩がありますのでご安心ください。進行表にも書かれてあります」
「「……」」
どうやら婚礼の儀とは自分達が思う以上に大変なものだったらしい。何か不思議な事でもありますか、という様子で笑う係員に対して、丸々半日掛けて行われるらしい婚礼の儀の内容にソラも瞬も思わず言葉を失う。
といっても、日本の結婚式とてお色直しなどを含めれば朝一番の開始で昼を跨いで、というのも珍しくはないだろう。それが伝統やらに則った形になるのであれば何をか言わんやだった。
ソラも瞬もそこを甘く見ていた、というわけである。とはいえ、それで終わらないのは当たり前といえば当たり前だった。
「それでですね。次の日は」
「「次の日!?」」
「ええ……ああ、ここまでかしこまった内容は最初の一日だけです。大精霊様や聖獣様への宣誓、歴代王族への宣誓。あとは同盟の仲介者たる七竜への宣誓……それと……えっと……」
「ごめんなさい。覚えきれないので……」
あとは何があったかな。自分向けの資料を取り出しながら自分達に説明してくれようとする係員に、ソラが頭を抱えながら制止する。伊達に最も古く伝統のあるやり方で行われるというわけではなかったらしい。しかもそれに加えて後々加わった宣誓も全て行われるとの事であった。それは係員も覚えきれなかっただろう。というわけで係員もソラの反応にしまった、と照れくさそうに笑う。
「ああ、すみません。そうですね。兎にも角にもこの前半半分ぐらいは皆さんは参列されているだけで構いません。ですので万が一の場合には遅れても大丈夫ではありますが、開始前には必ずご連絡ください」
「わかりました」
これについては流石に礼儀の問題だな。ソラも瞬も係員の言葉を素直に受け入れる。と、言うわけで再び進行表を見て自分達がするべき事の確認をしていくわけであるが、その最中。係員の方の通信機が鳴り響く。
「ん? ああ、すみません。少し失礼します」
「どうぞ……」
何があったんだろう。ソラも瞬も断りを入れた係員に少しだけ耳をそば立てる。その一方、係員の顔には困惑が浮かび上がっていた。そうして暫く。係員が戻ってくる。
「……申し訳ありません。セレスティア様というのは……ご存知ですか?」
「ええ……それはまぁ。彼女が何か?」
「急なお話なのですが、セレスティア様を連れてきて頂けますか? 私も良くわからないのですが……」
ちらり。係員は先程とは少しだけ異なって真剣な様子で話し合っているらしい水のモニターの中の様子を伺い見る。どうやら連絡は中の職員達からだったらしい。というわけでそんな様子に、ソラが通信機をポケットから取り出す。
「わかりました。ちょっと待ってください……使って良いですか?」
「大丈夫です」
「ありがとうございます」
何がなんだかはさっぱりだが、どうやら何かのっぴきならない事態が起きているらしい。ソラもそれを察して通信機でセレスティアに連絡を取る。幸い先程カイトからの呼び出しもあった事で全員揃っていたらしく、連絡を取る事は可能だったようだ。
そうして彼がセレスティアへと連絡を取る一方、大聖堂の中から神官らしい人物が現れる。案の定、神官の目的は二人だったようだ。神官はこちらに少し小走りで駆け寄ると、係員に問いかける。
「彼らが?」
「はい……一体何が?」
「いや……私も良くわかっていない。が、マクダウェル卿やらと上の方々が話している間に何かがわかったのか、急に慌てた様子になられすぐに呼び立てるように、と言われたのだ」
「はぁ……」
どうやらこの神官もあくまで使いっ走りというところだったようだ。事情を知るのはカイトや今回の婚礼の儀を取り仕切る神官達だけで、行って来いと言われて来ただけらしかった。
と、そんな事を話していると、だ。今度はカイトが聖堂から現れる。そんな彼は神官や一緒に居る瞬の姿を見て、一瞬でこちらまで移動する。
「ああ、良かった。瞬もまだ居たか」
「ああ……何があったんだ?」
「いやな。すっかり忘れてたんだよ。で、流れ確認してるときふと……あっははははは……やばかったぁ」
どうやら今回の一件は見落とすと非常にマズい話かつ、ここで大っぴらに出来ない内容でもあったようだ。珍しく彼の額には冷や汗が浮かんでいた。
「ああ、悪い。二人共。ここからはオレが引き継ごう。元々彼らはレックスの客人だし、シンフォニア王国ではオレの客人になる。対応するのであればオレが筋だろう」
「よろしいですか?」
「ああ」
「では、失礼します」
カイトの言葉を受け、神官と係員が頭を下げてその場を後にする。彼らとてカイトが来たのは話を聞かせられない内容だからと察するには十分だっただろう。と、そんな話をしているとソラも通信が終わったようだ。背を向けていた彼がこちらを向いて、そこに居たカイトに驚きを露わにする。
「あれ? カイト」
「おう……悪いな。で、悪いついでに先に言っておくと、セレスティアだけは別席を用意する事になった」
「別席? 王族だからか?」
「そうだ……が、ここは今回の婚礼の儀に関わる内容でな。進行表は持ってるな?」
「ああ」
カイトの問いかけに、瞬は受け取っていたプログラムを開く。そうして一覧に記載されているところの内、先程関係ないと言われていた前半分の一つをカイトが指さした。
「ここ……王族による赤き虹の顕現とあるだろう?」
「ああ……これがどうしたんだ?」
「これなんだが聞いた話、王族達の力を共鳴させて赤き虹を作るというものらしい」
「「……あ」」
王族達の力を共鳴させる。その意味するところを理解して、ソラも瞬も思わず目を見開く。そしてそれは、いつの間にやらやってきていたセレスティア――どうやら急ぎと見て話している間に出ていたらしい――もまた一緒だった。
「あ……」
「ああ、セレス。悪いな、急に」
「い、いえ……そうでした。簡易の婚礼の儀でも赤き虹はありますね……」
この時代の者ではないから主体的に関わる事はない、と他人事として捉えていたらしいセレスティアであったが、流石にそうも言っていられない内容が入っていた事を思い出して半笑いを浮かべていた。というわけで、そんな彼女に瞬が問いかける。
「なんとか抑えられないのか?」
「出来ますが……巫女服が必要になってしまいます。いえ、巫女服は持っていますが……あれは色々とあって使えないかと……」
「見た途端高貴な存在だとバレる……か?」
「……はい」
あはははは。乾いた笑いを浮かべるセレスティアに、カイトもまた乾いた笑いを浮かべる。と、そんな彼が首を傾げた。
「ん? 巫女服?」
「ああ、カイト様の巫女として立つ時にのみ着用する巫女服です。先にお伝えした皆様と交信する際に使う補助の力が備わっている、とお考え頂ければ」
「なるほどね。そりゃ気合入ってそうだ」
未来の世界において人類の希望となるべくして育てられている八人の使い手と八人の巫女だ。その防具となるとありとあらゆる最高水準の技術が使われているだろう事は明白で、そんなものを身に着ければ間違いなく目を引く事になるだろう。とはいえ、そこらはわかっていたようだ。
「一つ聞きたいんだが、それは神官達の服と似ているか?」
「ええ。系譜としては一緒ですので」
「良し……すまん。ついて来てくれ。セレスの立ち位置を急いで考えないと」
セレスティアの返答に、カイトが半笑いで笑いながら大聖堂の中へと誘導する。そうして、一同は大聖堂の中へと入って改めて話を行う事になるのだった。
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