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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3241話 はるかな過去編 ――雷鳴剣――

 『方舟の地』と呼ばれる超古代文明の遺跡に起きた異変を解決し、遂に到着した王都レジディア。そこではレックスの結婚式に向けて準備が進められている真っ最中であった。

 というわけでそんな中でレックスの客人として丁重にもてなされる事になったソラ達一同は後にカイトと並んで八英傑と呼ばれる事になる若き英雄達との会合や冒険者にして騎士としても叙任されているという稀有な肩書を持つ王都レジディアの冒険者達の統率役であるゴルディアスらとの会合を重ねながら日々を過ごしていた。

 そんな中。レックスの要請を受けた一同はレジディア王家の王族達が眠るという『王家の谷』に住まう聖獣に会う彼に同行し、『王家の谷』に赴いていた。そうして『王家の谷』にて一夜を明かした後。一同は後から行くという聖獣と別れ、再び王都レジディアへ戻る事になっていた。


「……」

「そんな不満そうな顔をするな」

「いえ、そういうことは……」

「あははは」


 馬車にのって出発の支度が整うのを待つレックスは、不満げな様子のお目付け役のメイドの女性に対して笑う。今回、幾つかの理由から当初の予定を変更し、ソラ達を囮として使わず彼自身も最後まで同席していた。

 とはいえ幸いな事に今回は王都レジディアで合流する予定も出来たので、聖獣の方も後で良いかと思った事もある。長話は長話であったが、一夜――それでも朝の遅い時間の出発になったが――で十分だった。


「でもおかげで良い話を聞けた」

「殿下は、そうでしょうね」

「おいおい……何も聞いてなかったのか?」


 どうやらこいつは自分が昔から好んで読んでいた雷神マクダウェルの物語を直に見た者の話だから聞いていたと思っているらしい。レックスは呆れた様子のお目付け役にそう思う。が、これにお目付け役は首を振る。


「いえ、聞いておりましたが」

「そうだろうよ……でも中身までは吟味してなかったな」

「はい?」

「……魔族以外に魔界の扉を閉じられたのは開祖マクダウェルだけだ。無論彼には魔族の血が流れているからそれはそうだろう、というのが学者達の話ではあるがな」

「それが通説なのでは?」


 現在レックス達が戦っている魔族の侵攻であるが、語られている通りこれが一度目ではない。世間的には別物とされている十年前の最初の侵攻を別にしても、もう一度。開祖マクダウェルが退けたという戦いがあるのだ。それについては誰もが伝説で知っている所で、魔族の血を引いているからこそ魔界の扉も閉じられたのだというのが今までの通説だった。


「そうだ。通説だ……が、通説なんて結局は伝説や逸話から導き出した有り得そうな理由というだけだ。それが真実かどうか、誰にもわからない」

「……だが、と」

「そう。だが、だ。開祖マクダウェルと共に旅をしたという聖獣様であれば、真実を知っている可能性はある。俺達でさえ同行した事を知らなかった、ってのは間抜けな話だが……今回、ソラが話のきっかけを作ってくれたおかげで突っ込んだ話を向こうからしてくださった」


 どうやって開かれている魔界との扉を閉じるのか。それについてはノワール達が研究を進めているが、如何せん魔界の扉とやらがどういうものか誰も見た事がないのだ。

 なので誰もが推論に過ぎず、先にレックスが語った通り魔族でなければ駄目なのではという意見も多かった。が、結局のところ誰も正解はわかっていなかった。


「かつて開かれた魔界の扉は<<雷鳴剣(らいめいけん)>>によって閉じられた。<<雷鳴剣(らいめいけん)>>には本来、魔界との扉を閉じる力がある。閉じれる以上、開けもするのだろうが。閉じるのでも疲れるからやりたくないな、と笑っておった」

「っ」


 そう言えばそう仰っていた。お目付け役は聖獣の口ぶりを真似てその言葉を語ったレックスに、思わず目を見開く。


「そう。魔族の血がなくても魔界の扉は閉じられる……<<雷鳴剣(らいめいけん)>>があればな。どうやって閉じるかはわからん。が、聖獣様はこうも仰られていた。確かに閉じる際大太刀は開祖マクダウェルが使ったが、小太刀の方は別の者が使った。それが誰だったかはど忘れしてしもうたが、と……そして別に魔族の血を継がなければ<<雷鳴剣(らいめいけん)>>を使えないわけでもない、ともな」


 色々と調べる事は多いが、少なくとも魔界の扉を閉ざす方法は見付かったと考えて良いだろう。レックスは今回の謁見が非常に実り多い物であると考えていた。


「俺とカイト。そして魔界の扉を閉じるのに必要な二つの剣……人知れず伝説を受け継いできた者と、誰もが知る伝説の継統。こうして俺達が揃っているのは何も無意味な事じゃなかったんだろう」


 おそらくこうして強大な力を有する二つの騎士団が出来上がったのは、魔界の扉を閉じるのに必要だったからなのだろう。レックスは妙な確信にも似た感情を得ていた。というわけで僅かな興奮を宿しながら、レックスが告げた。


「帰ったら親父に即座に報告する。今回の謁見はあまりに実りが多すぎる」

「御意……ですが<<雷鳴剣(らいめいけん)>>はどう致しましょう」

「それか……それが厄介だな」


 <<雷鳴剣(らいめいけん)>>。開祖マクダウェルが使った二振りの魔剣にして聖剣。これであるが、レックスは一度だけカイト――と先代の雷迅卿――に頼み込んで見せて貰った事があった。その際は王子としてシンフォニア王国を訪れていたので、このお目付け役も同行していたのである。


「<<雷鳴剣(らいめいけん)>>は今、力を失っている。マクダウェル家が誰も使わないのはそのためだな……まぁ、使えたとしても滅多な事で使うとも思えないけどな」

「かと……どうにかして、力を取り戻させねばならないかと」

「そうなんだよなぁ……」


 がらがらがら。レックスは馬車の窓を開いて、外に顔を出す。そうして探すのは勿論、彼だった。


「カイトー」

「あー?」

「今大丈夫か?」

「おう、大丈夫だが」


 基本的にカイトは今回ヒメアの護衛が主な仕事で、部隊の統率を取るわけではない。というより今回の護衛はレジディア王国の近衛兵だ。カイトが指揮出来るわけがなかった。というわけで暇をしていた様子の彼に、レックスが問いかける。


「<<雷鳴剣(らいめいけん)>>って今も力失ったままなのか?」

「ままだな。オレ達も魔界の扉が開かれたから力を取り戻したりはしてないか、と見たが……結局はあのままだ」

「そっかぁ……」

「開祖様の話か?」

「そ……<<雷鳴剣(らいめいけん)>>で魔界の扉を閉じたって話」


 どうやらカイトもまた魔界の扉を閉じた話の本当の意義を理解していたらしい。カイトの言葉にレックスは同意する。


「それな……どうしたもんか」

「な……あ、そうだ。イミナ!」

「はっ……如何されました」

「<<雷鳴剣(らいめいけん)>>ってそっちの時代だと力取り戻してるのか?」


 今の時代では力を失っているが、少なくともこの時代の自分達はどうにかして魔界の扉を閉じているのだ。更に先の未来になにか情報が無いかと思ったのである。が、これにイミナは申し訳無さそうだった。


「申し訳ありません……それが<<雷鳴剣(らいめいけん)>>は失われてしまっております……いえ、おりました、が正確なのですが……」

「どういうことだ?」


 あれは開祖マクダウェルが使った伝家の宝刀とも言うべきものだ。マクダウェル家の家宝にして名誉とも言うべきもので、あれが失われたというのはいくらシンフォニア王国で内乱が起きていたとしてもカイトには信じられない事だった。


「それが分からなかった、というのが本当の所なのですが……どうにも未来の……ただしこの時代の更に未来のクロード様が何かを考えられたのでは、というのが正解なのではないかと未来のカイト様はお考えの様子です」

「クロードが? 何をしたんだ?」

「わかりません……ですが、未来のカイト様へ<<雷鳴剣(らいめいけん)>>の小太刀を渡すようにエドナに指示されたと」

「「ふむ……」」


 この未来のクロードはあくまでもこの世界のクロードの未来だ。その彼が何故カイトに向けて<<雷鳴剣(らいめいけん)>>を渡すように仕向けたかは、未来のカイトにもわかっていない。なので誰もが首を傾げるわけであるが、少なくとも<<雷鳴剣(らいめいけん)>>が失われている事はわかった。


「小太刀について未来のオレは何か言ったのか?」

「何を考えているのだ、とお怒りになられてはいましたが……ひとまずはお持ちになられています」

「ふむ……力は?」

「わかりません。未来の御身であれば、ご存知だったかもしれませんが……」


 カイトの問いかけに、イミナは再度申し訳無さそうに首を振る。彼女自身、今回の話まで<<雷鳴剣(らいめいけん)>>が魔界の扉を閉じる鍵になるとは思っていなかったようだ。

 これについては未来のカイトも忘れていたというより彼にとっては開祖マクダウェルの小太刀である方が重要であったため、完全に失念していたようだ。


「力を戻した方法とかは……」

「申し訳ございません……」

「いや、良い……こりゃ帰って文献を調べまくらないとならなそうだなぁ」

「頑張ってくれ。こっちも支援出来るだけは支援する……が、一個心当たりがある」

「「「うん?」」」


 苦笑いを浮かべるカイトに対して何か思い当たる節があったらしいレックスに、全員が首を傾げる。


「北の要塞……それがある地」

「<<雷鳴の谷>>か! 確かに何故あんな所に、と思ったが……」

「ああ。交通の要衝かつ雷の力を使った大規模な攻撃が可能だから誰もがやられたと思っていたが……もしそうなら」

「それを隠れ蓑に、<<雷鳴剣(らいめいけん)>>が力を取り戻さないようにしている可能性は……十分にありそうだな」


 レックスの指摘に、カイトもそれはあり得ると険しい顔だ。と、そんな風に険しい顔を浮かべる一同であったが、そこに声が掛けられる。


「殿下!」

「ん……準備が整ったか」

「は。いつでも出発出来ます」

「わかった。なら出発してくれ……カイト。さっきの話、念話で続けるぞ」

「あいよ」


 こんな話は移動しながらでも出来るのだ。ならばそうするだけとカイトもレックスも出発に備える。そうして、王都レジディアへの途上で二人は魔界の扉対策を話し合うのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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