第3240話 はるかな過去編 ――開祖――
『方舟の地』と呼ばれる超古代文明の遺跡にて起きた異変を解決したどり着いた王都レジディア。そこではレックスの結婚式に向けて国を挙げての準備が進められている最中であった。
そんな中でレックスの客人として王城で丁重に扱われる事になったソラや瞬達であったが、彼らは後にカイト達と同じく八英傑と呼ばれる事になるアイクやフラウ、王都レジディアの冒険者を統率する騎士にして冒険者という稀有な肩書を持つゴルディアスらとの会合を重ねる日々を過ごしていた。
そうして後数日まで結婚式が迫ったある日。カイトの来訪を受けていた一同は彼を目的として現れたレックスに請われて、『王家の谷』と呼ばれる歴代レジディア王族の墓がある地へと赴いていた。
「そう言えばずっと疑問だったんですけど……一つ聞いてみて良いですか?」
「良いぞ。答えられる事であればの」
ソラの問いかけに対して、酒の入った聖獣は上機嫌に頷いた。そんな彼女に、ソラはかねてから疑問であった事を問いかける。
「その開祖マクダウェル? それってどういう方だったんですか? カイトに聞いても伝説とか逸話が大半で、結局どういう人物なのかっていう人物像が見えてこなくて」
「ああ、開祖マクダウェル……当時は雷鳴のマクダウェル、雷神マクダウェルとも呼ばれておった騎士。騎士というには多くの女を侍らせておったがの」
「「ごふっ!」」
ソラの問いかけはカイトもイミナも当然興味がある事だった。なので面には出さなかったものの――無論誰でもわかったが――聞き耳を立てていたわけであるが、聖獣から出された言葉に思わず口にしていた酒を吹き出す事態となっていた。が、これを見た聖獣が楽しげに笑う。
「くくく……ま、今のは冗談半分じゃ。カイト、お主と同じじゃ。旅を重ねるにつれ、気付けば多くの人が集っておった。それは時のエルフの大神官であり、さる国の姫であり……幾つもの戦いを経て終世の友となった騎士であり、あれが旅立ったその日から連れ添った女であり。見目麗しき女も多かったが故、口さがない者は侍らせたなぞと言っておっただけじゃ。安心せい」
「はぁ……肝の冷える冗談はやめてくれ……」
「ははははは。偶には弄って遊ばねば面白うなかろう」
吹き出した酒を拭うカイトに、聖獣がからからと楽しげに笑う。一応カイトも清廉潔白な騎士というのはあくまでも自分達のイメージだろうと覚悟はしていたが、流石にそれでも数多の浮き名を流す女性にだらしのない騎士だとは思いたくなかった所はあったらしい。
なのでまさかの言葉に心底驚いていたわけであるが、単にこうなるだろうという事を見越した聖獣の戯言だったようだ。というわけで、聖獣が改めて気を取り直してかつての騎士を思い出す。
「ま、先も言うた通りお主やレックスと同じじゃよ。ただまぁ……無口な男ではあった。いや、あれは無口というかなんというか、という所ではあるが」
「口下手……とかですか?」
「いや、それもまた違う。あれの幼馴染の女はこれがまぁ、非常におしゃべりな女でのう。あんなのと一緒におればそりゃ口数も少なくなろう。話す必要が無いんじゃ。妾が一日話しても話が尽きぬ女なぞそうはおらんかったぞ。あれで聖職者というのじゃから、世の中わからんもんじゃの。実際、商人顔負けの商魂も見せておった」
あの女は思い出すだけで面白い。聖獣は開祖マクダウェルの幼馴染を思い出し、楽しげに笑う。そうしてひとしきり笑った後。聖獣は話を続けた。
「ま、そんな感じで口数は少なかった。あれの言葉を勝手に代弁するからの……が、間違いなく性根には熱い物をもっておったぞ。あれは魔族の血を引いていれど、間違いなく騎士と呼べるだけの善良な性根は持っておった」
「「「……」」」
ぐっ。かつてを思い出した聖獣がそれを確かめるように、そしてどこかさみしげに拳を握る。
「ああ、それはそれとしても同時に戦士として見ればずば抜けた剣の才能も有しておるな。そうじゃカイト。お主の家にはあれの使っておった二振りの剣が残っておろう」
「<<雷鳴剣>>か?」
<<雷鳴剣>>は真の名ではなく、後世のカイト達がそう呼んでいるだけだ。銘は残っているが、それを秘匿する風習があったらしい。それについては聖獣も知っていたし、この場のソラ達以外は全員が知っていた。なので誰も指摘せず、聖獣もただ頷くのみである。
「うむ……使い手の意思を受け形を変える稲妻の剣。小太刀振るえばそれだけで大気が燃え、大太刀振るえば神の怒りが轟く……その力、其れは正しく神也」
「魔族達にしめやかに伝わるという話ですね」
「おぉ、お主は知っておったのか」
自身の言葉に口を挟んだイミナに、聖獣が驚いた様子で告げる。これに、カイトが問いかける。
「どういうことだ?」
「あ、えーっと……いつからかはわかりませんが、開祖様について魔族が語っている話が伝わっているのです。魔族達が一度目の侵攻の折り、神により退けられたという逸話がある、と」
「神……雷神……雷神マクダウェル」
「はい。おそらくそうなのだと……今のお話を聞くに、其れは正しく神也。そういう事ではないかと」
「そういうことじゃ。もはや語るまでもなく魔族共は一度目の侵攻の折り、あれにより退けられた。あれの雷鳴が轟くだけで魔族共は逃げ惑い、恐れおののいたものじゃ。其れは正しく、太古の人が雷を神の怒りと恐れ崇めたようにの」
イミナの言葉に続けて、聖獣が戦士としての開祖マクダウェルについてを語る。そうして、そんな彼女がはっきりと断言した。
「あれは間違いなくお主らやお主らの率いる四騎士と共に肩を並べたとて決して見劣りはせん戦士であったぞ」
「「「……」」」
わかっていたことだ。カイトもレックスもイミナも、自分達に伝わる大英雄の物語を知っていたというのにそれを見てきた者の言葉に心躍らせる。それに聖獣は更に気を良くする。というわけでまるで子供が寝物語をねだるように目を輝かせる三人を見て、聖獣は開祖マクダウェルの話を繰り広げる事になるのだった。
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