第3234話 はるかな過去編 ――結婚式――
『方舟の地』での一件を片付けてたどり着いたセレスティアの故国レジディア王国の王都レジディア。そこではレックスの結婚式に向けて色々な場所から使者達が集まってきていた。
そんな中、結婚式を取り仕切るスイレリアと再会したソラや瞬達であったが、それをきっかけとしてこの世界に情報の抹消という謎の現象が起きている事を知らされる。
というわけでそれについての会議を行っていたレイマールやロレインから呼び出された一同はその特殊性からカイトと共に事態の解決への最後の一手となるべく協力を要請され、その対価として武器防具の修繕・強化を受けられる事になる。
そうしてそれに向けてカイトとレックスから話を聞いた一同であるが、それから数日後。結婚式を数日後に控え、街は大きなお祭りとなっていた。
「なんというか……ここまで歓声が響いてきているな」
「お祭りらしいお祭りなんてここ数年なかったからな。その反動だ……いや、本当にここまでデカいお祭りになると、一度目の侵攻を退けた後の凱旋式かもな」
城壁を超えて響いてきている王都の住民達の歓声に驚く瞬に、カイトは笑いながらかつてを思い出す。そんな彼に、ソラが問いかける。
「確か13歳で魔王倒したんだっけ?」
「先見隊……魔王というより魔王を名乗る事を許されたヤツの一人、って所だけどな。ま、あれで先見隊で何人も居る魔王の一人だってのは信じたくないってのはわかるけど」
「確か……内部に入り込まれてたとかだったよな?」
「ああ……まぁ、そう思いたくなるのは正直な所分からなくもない。一夜にして一国……それも小国じゃなくて統一王朝を構成する国の中でも大国と言われる国が一夜にして落ちたんだ。それも王都が壊滅とかじゃなく、国全土が石化させられるなんてあまりに実力に差がありすぎる。こっちが奇襲されたという点を差っ引いても、あまりに一方的過ぎた」
それで終わってほしい。このレベルを簡単に成し遂げられる相手がたかだか先見隊であって欲しくない。もしくはよしんば攻めてくるとしても自分の代ではやめてほしい。そう思いたかったとしても、それは仕方のない事だろう。そこに、先の統一王朝の王様は付け込まれたのだ。
「オレもそこでの事はレックスや陛下から聞いただけだが……統一王朝の王様はオレ達が注意喚起している事は軍備増強の言い訳やよしんば攻めてくるにしても大損害を被っている以上何十年も先になるだろう、って思わされていたそうだ。更にはよしんば攻めてきても一度は撃退したオレ達が居るだろう、って感じで取り合いはしなかったらしい」
「本当によくある内通者の手口だな」
「まぁな……でもこんなもの、外からは滅んでからでないとわかりようもない。それでも、セントリアの被害が抑えられたのはベルがオレ達の話を聞いて大結界を準備してくれていたからだ。あれがなかったら統一王朝の王族は全滅してただろうよ」
「ベルナデットさん? 以外も生きてるのか?」
「王族と一言で言っても色々と居るからな。直系はベル以外生きていないだろうが、傍流なら数人生きている。あいつと同じ様に神殿に預けられていたが故に、ってのがな」
確かに思えば直系と傍流ってのはあるか。ソラはカイトの語る内容に納得を浮かべる。と、そんな事を話す二人の眼の前で、魔術を用いた花火がいくつも打ち上げられる。そんな花火が描く模様を見て、ソラが思わず目を見開く。
「おぉ……獅子?」
「獅子。レジディアの国章だな。流れるたてがみは王都の横にある大河を模して……とか色々とあるらしい。詳しくはいっそセレスにでも聞いてくれ。オレも他国の物までは詳しくねぇよ」
「あははは……もし知りたいのであれば」
唐突にカイトから水を向けられたセレスティアであったが、彼女は優雅に飲んでいた紅茶を下ろして笑う。他国の騎士団長よりその国のお姫様に聞けというのは当然の話だろう。とはいえ、そんな彼女は同じように打ち上げられた国章を見て、やはりここが過去なのだと実感していた。
「……」
「どうした?」
「いえ……やはり国章も変化していくのだな、と」
「違うのか?」
「ええ……私達の時代にも獅子と大河は描かれていますが……一つだけ増えています」
「へー……まぁ、そっちの世界だと長い歴史になってるもんなぁ……」
国章は国旗よりも複雑な絵が描かれる事が多いのであるが、それはその意匠にその国の歴史や文化などが織り込まれる事が多いからだ。というわけで歴史が長くなれば長くなるほど見直しがされる際に増える事はあり得る話で、カイトも逆にセレスティア達が遠い未来から来たのだと理解する事になっていた。というわけで、カイトが興味深い様子で問いかける。
「何が増えてるんだ?」
「大剣です……レックス様の後、レジディアでは王族の武器として大剣が使われるようになりました。レックス様はやめとけ、と言われたそうですが」
「だろうなぁ……」
高身長のレックスよりも更に大きな大剣だ。あんなもの魔術の補佐無しで扱えるものではなく、よしんば使えたとて相当な技術を要求される。
レックスが大剣を選んだのは開祖マクダウェルが大剣を使ったという英雄譚にちなんだものだったのだが、使ってみた当人でさえこれは馬鹿だなと思う武器だ。それを意地と気合で使いこなしてしまった彼はやはり英雄なのだという所であるが、他人には決してオススメは出来なかった。というわけでそれを使いこなしてしまっている親友に、カイトは笑う。
「あんな大剣、あんなバカじゃない限りは使わねぇって」
「お前二つ使ってんじゃん」
「オレは別よ……って、お前かよ」
「おーっす」
カイトの指摘に指摘を返したのは言うまでもなくレックスだ。そんな彼はどうやら今日は結婚式の予行演習などは無いのか平服で、供も連れずに呑気なものであった。そんな彼に、セレスティアが頭を下げる。
「レックス様」
「おう。みんなも久しぶり……こっちに顔を出すのは本当に久しぶりか」
「それはそうですが……大丈夫なんですか?」
「時間とか?」
「はい」
瞬の問いかけに、レックスが笑う。そうして彼がため息を吐きつつ、現状を教えてくれた。
「まぁ、時間とか予定とかは問題無いよ。というより、明日から結婚式当日まではほぼほぼ別に予定が埋められてるから、今日がある意味最後の自由時間っていうか」
「あー……おつかれ」
「そう言うなって。付き合えよ」
おおよそを察したらしく逃げの一手を打つカイトに、レックスが逃さないとばかりに肩を組む。これにカイトは嫌そうな顔を浮かべた。
「やだよ、面倒くさい」
「だからだよ。俺だって行きたくない。話長いんだもん」
「だから嫌なんだろ。なんでお前の結婚式の後で冥界に行くのにこの上墓場にまで行かないといけないんだよ。しかも他所様の……いや、マジの他所様の」
「結婚式の習わしだからだろ。お前連れて来ないとうるさいんだって。顔見せるだけで良いから、な?」
どうやらレックスは自分が厄介事から逃れるために必死らしい。ぱんっ、と手を合わせてカイトを拝むような格好で頭を下げる。これにセレスティアが目を見開く。
「もしや聖獣様の身許へ?」
「そ。王族は結婚式前には必ず挨拶に行かないといけないんだ……あ、そうだ! セレス! 頼む! お前も来て!」
「え?」
「話のタネになる。な?」
「えぇ……?」
どこか情けない様子で頼み込まれるセレスティアは困った様子だ。が、彼女はレックスの子孫。偉大なる祖先が頭を下げてまで頼まれては、否やはなかった。
そして面倒がわかっているレックスは逆に自分が厄介から逃れられるのなら今は何でもするらしい。カイトとセレスティア、更にはイミナまで拝み倒していた。というわけでセレスティアは何がなんだかはわからないまま、カイトと共に聖獣なる存在の所へと向かう事になってしまうのだった。
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