第3229話 はるかな過去編 ――会議――
『方舟の地』と呼ばれる超古代文明の遺跡の異変を解決し、ようやくたどり着いたセレスティアの故国レジディア王国の王都レジディア。そこで瞬やソラ達は異変を解決した者として、王城にてレックスの客人として扱われる事になっていた。
というわけで客人として扱われる傍ら後に八英傑と呼ばれる八人の英雄にしてカイトの幼馴染である人魚族のアイク、ドワーフ族のフラウらとの会合を経つつ日々を過ごしていたわけであるが、ふとした事からスイレリアと再会。そこで彼女が発見した異変を聞くと、彼らはカイトと共に会議に参列するように要請を受ける事になっていた。
「陛下」
「うむ。よく来てくれた……おおよその話は聞いているな?」
「はっ」
「それでセレスティア……ソラくんに瞬くんも一緒か。君達もよく来てくれた」
「ありがたきお言葉」
レイマールのねぎらいにセレスティアが優雅に頭を下げる。やはり王侯貴族。しかもレジディア王国ではバレない程度で内々に王族としての扱いを受けているらしく、王族としての優雅さを段々と取り戻しつつあった。
「うむ……今回の一件。我が子より聞いたが……改めて君がレジディアの姫でありシンフォニアの姫である事を理解した。そしてそのおかげでわかったのだとも」
「そのために、我が血の交わりはあったのやもしれません」
「うむ……いや、今は良かろう」
とりあえず席に座ると良い。レイマールは立たせたままなのは忍びない、と一同に席を勧める。それに一同用意されていた席に腰掛け、ひとまずハヤトが呼びに行っているスイレリアを待つ事にする。というわけでその間にカイトが念のため確認を取る。
「それで陛下……一応流れとしてはやはり例の?」
「うむ……大神官殿が見極められたという謎の空白地。あれが何か。そしてどのように対策を取れば良いか。それを話していてな」
「やはり」
「うむ……無論これが単なる情報の一時的な消失であれば……いや、良くはないがな。が、自然現象として発生するのであれば、そういう事もあろうと片付けられもしよう」
やはりレイマールが危惧していたのも、スイレリアと同じくこれが魔族達の仕掛けた罠であった場合だったようだ。というわけで色々と協議を重ねた様子だったのだが、そこでロレインが問いかける。
「それで君達に一つ質問だ。確か以前アイクと君達が会合した際、水の大精霊様が御顕現なされたと聞いた。それはまず相違ないか?」
「それは同席した私も見ておりますので間違いありません」
「そうか……いや、大精霊様が聖域以外でも顕現なさるというのは正直驚愕でしかないが……今はそれは横に置いておこう」
大精霊達の性質については未来のカイト以外ほぼ誰も知らないも同然なのだ。なので少しだけ後ろ髪を引かれつつも、ロレインは一旦それを横に置く。そうしてアイクとの話に確認を取ったロレインが再度問いかける。
「それでは次の確認だ。その際、水の大精霊様は顕現に必要な要素として『水の宝玉』、カイト。そして君達という風に仰られていた……そこも間違いないか?」
「はっ……未来の彼らから流れ込んだ未来の私の要素を縁として、ようやく顕現は為し得ると」
「そうか……ふむ……」
「うむ……ああ、実はな。可能であれば今回の一件、どうにかして大精霊様のご助言を頂きたいと思っていたのだ。流石に情報の消失なぞという事象は人の手に余る」
険しい顔になったロレインの横。同じく険しい顔をしたレイマールが事の次第を語る。おそらくこの大陸で一番の物知りであろうスイレリアでさえ原因不明と口にするのだ。それを解決しようとするのなら、更に高位の存在から知恵を借りるのが一番。そう結論付けるのは何ら不思議のない話だった。と、そんな結論を出したレイマールらであったが、そこに声が響く。
「それはおそらく難しい事かと」
「大神官殿……それは如何に?」
「お久しぶりです、皆様……それで無理と断ずる理由ですが、単純です。情報が抹消させられてしまっているからです」
「それは、どういう……」
スイレリアの言葉に、レイマールが険しい顔で首を傾げる。これにスイレリアは勧められた席に腰掛けて、話を続ける。
「私も今回の事態にあたり、風の大精霊様の元へと赴き話を伺いました。が、情報の抹消とは世界からの情報の抹消……世界から情報が抹消されては如何に大精霊様とて情報は手に入れられぬ。当たり前の話ではありましたが」
「なるほど……大精霊様はあくまでも世界を司る者。その世界から情報が抹消されてしまえばどうする事も出来ない、と」
「そうなります。大精霊様はあくまでも八元素を司る意思が形を持った存在。失われた情報を手に入れる事は出来ない」
やはり消されてしまった情報はどうする事も出来ないらしい。が、それでも何も打つ手なしというわけではなかったようだ。
「ですがまるっきり打つ手なしであったわけでもありません。大精霊様より過去の情報の痕跡を拾う手段については頂いております」
「過去の情報の痕跡……ですがそれらも全て消えてしまったのでは?」
「そうですね。消えてしまったはずです……が、やはり世界とは凄まじいものです。消えてしまったとて何もかもがなくなるわけではない」
こんっ。レイマールの問いかけにスイレリアは杖の頭で机を軽く小突く。すると魔法陣が浮かび上がり、その中心から更に光が溢れて何か複雑奇っ怪な紋様が浮かび上がった。
「それは?」
「この机が保有する情報……とでも言いましょうか。このようにその空間の情報が抹消されたとて、その近辺の情報は失われていない。またその時点での情報が抹消されていたとて、復活後の情報は残っている」
「大神官殿。情報の抹消は何かしらの魔術を埋め込むためではと考えておりますが、それについては如何に?」
「それは大いに有り得るでしょう……というより、私もそれを危惧しております」
ロレインの問いかけに対して、スイレリアも同意する。そしてこれがあればこそ、カイトを単騎で調査に出す事を却下したのだ。というわけで、彼女が危惧する内容を口にする。
「これが人為的であった場合、情報が抹消されたということは即ち白紙のキャンバスに絵を描く事が出来るようになったというようなものです。しかも白色で塗りつぶしたのではなく、今ある紙を捨てて新しい紙を貼り付けたようなもの。ある種余計な情報がなければこそ最高効率で魔術やらを構築する事が出来る……無論、そんな事をしてしまうということは大精霊様、ひいては世界に弓を引くようなものではありますが」
「「「……」」」
これが魔族達にせよそうでないにせよ、もしも人為的に引き起こしたのであればとんでもない事をしたものだ。一同はスイレリアの語る内容がある種の禁忌に触れるものであるとわかっていればこそ、誰もが険しい顔だった。というわけで険しい顔のロレインが問いかける。
「大神官殿……もしこれが情報の抹消であった場合、考えられる問題は?」
「先の通りどんな魔術であれ使用が容易になる事があるでしょう……それ以外には何が起きるか、大精霊様にもわからないとの事です」
「それは……厄介な」
「ええ、厄介です。ですが仕方がないのです。世界の情報の抹消というのはそういうもの……本来起きるべきと定められている世界のルールを消しているのですから、何が起きても不思議はないとの事です」
当たり前の話だ。ロレインは推測される事態の一つを改めて提示されただけというだけに過ぎないにも関わらず、その顔は非常に険しかった。そんな彼女が深い溜息を吐く横で、今度はレイマールが告げる。
「魔法のようなもの……かもしれませんな」
「それもあり得ます。いえ、いっそその方が良い。魔法を使おうとして失敗している……その方がまだ対処のしようもある」
魔法とは世界の法則を書き換えるもの。ある意味では今回の事態のように世界の法則を抹消する事も出来るのだ。なので魔法の発動に失敗した結果、情報が抹消されたと考えれば後はその魔術師に対処するだけで良い。
原因不明や悪意ある相手でないだけまだマシだったし、よしんば魔法使いが相手だろうとカイトとレックスがいればどうにでもなった。というわけで、一同はそれから暫くの間、この困難な事態に対しての協議を進める事になるのだった。
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