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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3228話 はるかな過去編 ――暗雲――

 『方舟の地』における異変を解決し、たどり着いたセレスティアの故国レジディア王国の王都レジディア。そこで瞬達は異変解決に尽力した者の一人であるとしてレックスの客人として王城で扱われる事になっていた。

 そうして王城にて彼の結婚式までの日々を過ごしていたわけであるが、ふとした事から瞬はリィルと共にカイトに誘われ魔物の討伐に出ていたのであるが、その帰り。

 大聖堂の見学に立ち寄らせて貰う事になっていた。が、そこで古くからの習わしで結婚式を取り仕切る事になったスイレリアから呼ばれたというセレスティアと共に大聖堂へ入る事になり、そこでこの世界に起きているという異変を聞く事になる。そうして、数日後。この日は残念な事に朝から暗雲漂う日で予行演習も取りやめとなり、カイトは暇そうに一同の部屋を訪れていた。


「そう言えばカイト。結局この間の件はどうなったんだ?」

「この間の……ああ、大神官様の件か?」

「ああ。俺たちが今動ける話じゃないから、聞いた所でではあるが……」


 そもそも瞬達に今この場で依頼が出された所で、一同にはどうする事も出来ない。なにせここはレジディア王国。地理に明るくないのだ。それに結婚式も近付いてきている今、参列者でもある以上は離れるわけにもいかないだろう。となると依頼はこの王都レジディアに属する冒険者に出されるのが筋であった。これにカイトもまた一つ頷いた。


「まぁ、確かにな。すでに早馬ことオレがアルヴァ陛下には伝令に走ったし」

「王都シンフォニアまで戻ったのか?」

「フットワークの軽さこそがウチの強みだからな」

「そこは未来のお前も今のお前も変わらんな」


 未来のカイトであれば飛空艇。今のカイトであればエドナ。この二つを用いる事で、カイトは常人には不可能な速度での移動を成し遂げていた。


「あはは……ま、それで流石に大神官様が警戒するべし、と言っているんだ。すぐに動く方が良いだろう、というのがロレイン様のお言葉だ」

「それで戻った、と」

「そういうこった……ま、こんなことよくある事だ。通信機がもうちょっと使いやすいものだったらなぁ、と思うんだが」


 これは意外かもしれないが、実は大陸を跨ぐほどの通信機はこの世界にはないらしい。確かにアイクの有する<<海の女王クイーン・オブ・オーシャン>>の通信機が距離制限の無い通信機に近いが、あれとて受け取る側がカイト――もしくはレックス――という制限がある。無制限ではなかった。


「そう言えば長距離通信が可能な通信機って無いな……何か理由があるのか?」

「オレも詳しくは知らないが……どうにも信号が散る? とかなんとかで遠くになればなるほど信号が弱まるらしい。その指向性を持たせる? とかなんとかが難しいとか。もしくは魔導炉の出力を高くする事が出来れば、そっち方面でもなんとか出来るかもだそうだが」

「どちらも難しいのか」

「らしい、としか。オレもよくわかってない。ああ、ただ後は戦争の影響でジャミングに似た力場が大陸全土に展開されてしまっていて、ってのもあるらしいが……あ、でもこれは結局出力を上げられればなんとかなるんだったか」


 今更言うまでもないが、カイトはあくまでも戦士だ。ノワールやロレインのような技術者ではない。なので完全にうろ覚えで、そうだったなとしか覚えていなかったようだ。と、そんな事を話していると薄暗かった外が遂に雨が降り出してきていた。


「雨か……やっぱ昨日ちょっと無理してでも帰って正解だったな」

「昨日帰ってたのか」

「そう」

「疲れてるんじゃないのか?」

「だから休みなんだろ」

「あ、そういうことか」


 自身の問いかけに笑うカイトに、瞬がなるほどと納得を示す。別にカイトとて騎士としての仕事だけでここに来るわけではないらしかった。と、そんな彼であったがやはり軍の要職だ。休みなぞあってないようなものであった。部屋の扉がノックされる。


「マクダウェル卿」

「ハヤトか」

「はい……皆さんもお揃いでしたか」


 ちょうどよい。そんな様子で入ってきたハヤトが一同の顔を見る。というわけで、そんな彼の顔にカイトが深くため息を吐いた。


「厄介な話か?」

「ええ……陛下がお呼びです。会議室へお越しいただけますか?」

「否やは無いだろうさ……どうせその状況だ。ロレイン様かウチの姫様も一緒なんだろう」

「ご明察です」


 他国の騎士である自身を呼び寄せるということは即ち、最低主人であるヒメアの承諾は受けているという事だ。そして現状からロレインに話が通っていないという事は有り得ず、カイトは休みだろうがなんだろうが関係なかった。というわけで立ち上がった彼であるが、その視線をソラ達に向ける。


「彼らは?」

「セレスティア姫、未来のマクダウェル卿は同席して頂きたく。それ以外の方も必要でしたら構わない、と」

「勿論私は構いません……みなさんの方は?」

「……やっぱ俺と先輩に……なるっすよねぇ」

「あはは……そうだな。行くか」


 現状、対外的なやり取りの内、政治に関わる内容があればソラ。軍や騎士団に関わる内容であるならば瞬という振り分けを行っている。

 これはそもそも冒険部時代からそうであったが、それを変える必要もないとそのままにしたのだ。そして今回の場合はどちらの応対も可能性があり得るため、二人で行くのが良いと判断した様子であった。というわけで二人の様子を見て、カイトが問いかける。


「ということらしい」

「かしこまりました……では会議室へお願いします」

「お前は一緒に来ないのか?」

「私は大神官様を呼びに」

「そうか」


 どうやらこれはこの間の一件と考えて間違いなさそうだ。カイトは先の一件が厄介な状況へと派生した事に内心でため息を吐く。ちなみに、案内もなく会議室とやらに行けるのかと言うと勿論行ける。七竜の同盟軍の会議で何度も行っているからだ。


「やはりあの件か?」

「だろうな……はてさて、どうなったもんだか」


 先の通り、瞬やソラ達に依頼が出る事はまずないと考えられる。が、そうなると今度は何が理由で呼ばれたかというのはやはり想像は出来なかった。というわけで会議室に向かう一同であるが、その道中。四人の中で唯一大聖堂での一件に居なかったソラが問いかける。


「そうだ。俺は何も見てなかったんだけど……結局その空白? ってのはどういう状況なんだ?」

「詳しくはわからん。が、大神官様曰く情報の空白地……ありとあらゆる力が観測されない場という事だそうだ」

「ありとあらゆる力が観測されない? それってつまり無って事だろ? そういう事って出来るのか?」

「自然的には無理だろうなぁ」


 自然的に無理なればこそ、後は魔族達が暗躍しているかそう思わせてカイトやらを呼び寄せようとしているのかもしれない。カイトもレックスらもそれを警戒しているのだろう。一見すると呑気に語っている様子のカイトであるが、その目は笑っていなかった。


「何か打つ手が見付かった……とかか?」

「そうなら良いんだが……いや、いっそ自然現象が起きてる方が有り難いんだが」


 少なくともスイレリアさえ警戒している状況だ。何が原因かもわかっていないのだ。迂闊な事は出来なかったが、同時に進まねばどうにもならない事もまた事実であった。というわけで流石に一同真剣な様子で歩いていくのであるが、そうして移動すること十数分。警戒が厳重な一角にたどり着いた。


「マクダウェル卿。お待ちしておりました」

「陛下らは中か?」

「はっ。皆様お待ちです」

「わかった」


 どうやら警戒が厳重なのは、レイマールらが中で会議を行っているからという事なのだろう。というわけでカイト達は開かれた扉の中へ入り、会議に参加する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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