第3226話 はるかな過去編 ――垣間見る――
『方舟の地』の異変を解決したどり着いた王都レジディア。そこで異変解決の功績――という表向き――により、瞬達はレックスの客人として王城で過ごさせて貰う事になっていた。
というわけで瞬も王城にて日々を過ごしていたわけであるが、カイトからの要請を受けて魔物退治に乗り出す事になっていた。
そうして魔物の討伐を終えた後。再びカイトからの提案を受けた瞬は、王都レジディアの王城に隣接する大聖堂を見学させて貰う事になるのであるが、大聖堂の入口前でレックスが率いる<<赤の騎士団>>側四騎士の一人ハヤトと共に呼ばれたというセレスティアを待つ事になっていた。
「そう言えばハヤト。お前また陣羽織替えたのか?」
「ああ、これですか……ええ。この間使っていたのはあの戦いで破けてしまいましたので……」
ひらり。カイトの問いかけに、ハヤトは自らが羽織る陣羽織を少しだけ翻す。それは白色の花が艶やかな陣羽織で、かなり上物の様子があった。
「それでか……東からわざわざ仕入れるのは大変だろうに」
「そうですね……なのでアイク殿に頼んで、定期的に船便を手配して頂いています」
「それは知ってる」
「ですね」
どうやらハヤトという名前と良い、陣羽織を鎧の上から羽織っている姿と良い。ハヤトは東の地方に縁があるらしい。というわけでやはり少し興味があったらしい瞬が問いかける。
「ハヤトさんは東国の出身なんですか?」
「いえ、私は東国ではありませんよ。母が東国の出です……ライゼムは?」
「先日お会いしました」
「彼の母と私の母は姉妹です。なので黄金卿とも親戚関係ですね」
黄金卿というのは考えるまでもなく黄金の騎士ゴルディアスだろう。そうして彼の顔を改めてしっかりと見てみると、確かにライゼムやキンレンカに似た様子があった。
「へー……よくある事なんですか? おそらくハヤトさんの実家も貴族かそれに類すると思うんですが」
「いえ……私の父が武者修行をしていた時に母と叔母上、更に黄金郷の四人で組んで旅をしていた時があったそうです。そこから色々とあり、父は母と。黄金卿は叔母上と結婚。その後黄金卿が武勲を挙げられ騎士に、というわけです」
「武者修行……それは流石に多くはなさそうですね」
「ええ、流石に」
瞬の言葉にハヤトが笑う。そんな彼に、カイトが横から口を挟んだ。
「グリッター家は軍の名家だ。だからハヤトの親父さん……というかグリッター家の次期当主は数年間一人で旅をする事が義務付けられているそうでな。そこで出会ったそうだ」
「一人で、と言っても道中で仲間を見付けて共に旅を、というのは良いのです。裏には家に依存しない独自の人脈を手に入れろ、という事もありますから」
「それがゴルディアスさんであり、お母君だった、と」
「そういうことですね。幸い母も実は良い家の出だったので、話はトントン拍子に進んだそうです」
どこか苦笑するように、ハヤトが自らの母方の血筋を語る。というわけで、彼が羽織る陣羽織もその母方の実家から送ってもらっている物らしかった。どうやら相当な名家らしく、カイト達と共に大陸に武名を轟かせるハヤトへの支援を惜しむ事はなかったそうであった。
「ま、そういうわけでな。一度目の魔族共の侵攻の後武者修行に出たハヤトを二度目の侵攻が開始されると共にレックスが呼び戻して、こうして四騎士をしているというわけだ」
「戦乱が巻き起こったというのに武者修行も何もあったものではありませんからね」
「それはそうですね」
ハヤトの言葉に瞬が同意する。どうやら二度目の侵攻があると理解していたレックスはハヤトへと定期的に連絡を送るように頼んでおり、一度目の侵攻の最後の戦いに同行していたハヤトもそれを承諾。二度目の侵攻が起きる前に力を蓄えるべく武者修行に出つつ、二度目の侵攻が起きると同時に戻ったそうであった。
というわけでどうやら武芸者としての色合いが強く、真面目なハヤトと瞬は話が合ったようだ。色々と話しているとあっという間に時間が経過していた。
「ああ、来たか」
「カイト様? それに皆さんも……」
セレスティアからしてみれば、大聖堂に呼ばれてみれば入口前にカイト達が屯しているのだ。何事かと不思議がるのは無理もないことだろう。
「貴方がセレスティア様ですね」
「はい……あ、ありがとうございます」
「ハヤト・グリッターです」
「! <<閃剣>>のハヤト……お会いできて光栄です」
「あはは……何か少しこそばゆいものがありますね」
これから先に自分達が何を為したのかは分からないが、少なくとも偉業と讃えられるだけの事はしているらしい。ハヤトはそう理解し、そうであればこそ向けられる尊敬の念にどこかむず痒い物を感じている様子だった。と、そんな彼は照れくさそうに笑いながら次いでイミナを見る。
「そして貴方が……未来のマクダウェル卿」
「私はまだマクダウェル卿と呼ばれるに相応しくありません。その名は、兄が持つべきものですので……」
「そうですか……では、いつかのマクダウェル卿となる方へ」
「……精進致します」
流石にそうなるように、と激励を向けられて手を握れぬほどイミナも無粋ではない。というわけでこちらも握手を交わした所で改めてセレスティアが問いかける。
「大神官様がお呼び、との事でしたが」
「ええ。ただ今はまだレックス様とベルナデット様の婚礼の儀の予行演習の最中。もう少しお待ちいただけますか?」
「勿論大丈夫です」
大聖堂では結婚式の予行演習が行われているわけであるが、それの全てを取り仕切るのは『黒き森』の大神官にして神官長であるスイレリアだ。そのスイレリアが予行演習に参加しないわけにはいかないのだから、セレスティアが否やと言った所で意味はない。というわけで更に待つこと暫く。いつものように巨大な結界が展開される。それを見て、カイトが口を開いた。
「そろそろ終わる頃合いか」
「そうですね……ああ、消えましたね」
「今回は早かったな……何かあったか?」
「それはわかりませんが……ああ、少々お待ち下さい」
カイトの問いかけに答えたハヤトであったが、その直後に通信機に連絡が入ってきたらしい。一同に断りを入れて通信に応ずる。そうして何個かやり取りを交わした後、一つ頷いた。
「皆さん、只今中の者から連絡がありました。ベルナデット様がご退去された後、大聖堂にお入りください」
「会えないんですか?」
「ええ……婚礼の儀の前ですので。ただ正面口から御出になられるので、一目見る程度は大丈夫かと」
瞬の問いかけに、ハヤトははっきりと謁見は不可能であると明言する。とはいえ、話す事が出来ない事はカイトからも言われており、単に遠目に見れるかもぐらいであった。というわけでそんなこんなな話をしていると正面の扉が開いて何人もの神官服の女性が現れる。
「……終わったみたいだな」
「みたいだ……ああ、出てきたぞ」
「あれが……」
カイトの言葉とほぼ同時。大聖堂の正面口からウェディングと神官服を合わせたような輝かしい純白のドレスに身を包んだ女性が、まるで神官達に隠されるような形で出てくる。そのドレスは顔以外、それこそ髪も隠すほどに露出の少ないものでウェディングドレスというよりも神官やシスターの着る服のような清浄さがあった。
その唯一露出している顔はまるで作り物のように整っており、周囲の神官達と合わせてまるで天上の美のような美しさがあった。彼女は自身の周囲を追従する神官達に隠されるように歩いていくが、そんな彼女へとカイトが笑いながら無言で手を振る。
「……」
「あ……」
手を振るカイトに気づいて、ドレス姿の女性が微笑む。その笑みは俗世から切り離された者だけが浮かべられる純粋無垢なもので、彼女が高貴な身分なのだと一目でわかるものだった。
とはいえ、先に言われている通り今は婚礼の儀の前。夫となるレックスさえ安易に話す事は出来ないような状況だ。故に嬉しそうに微笑んで小さく一礼しただけで、立ち去った。とはいえ、話せないのは彼女だけ。カイトはため息を吐いた。
「お前も先に着替えろや」
「いや、お前らが来るっていうから」
「うおっ!?」
カイトが話した事で、瞬はレックスが自分達の真横に現れていた事に気が付いた。そんな彼であるが白と赤の衣服に身を包んでいたが、いつもとは違い装飾や刺繍がこれでもかというほど施されていた。
「そ、その服でよくここまで一気に来れましたね……」
「いや、動きにくいよ、これ。王太子の服になるからむっちゃゴテゴテしてるだろ? 俺も結婚式じゃないと着ねー」
「良いんですか、それで……」
「俺だから良いんだよ」
一応言うが、これでもレックスは王太子である。が、王太子というにはあまりに気さく過ぎるのであるし、それを問題視する者がいないわけでもないが彼は一切気にしていないのであった。
まぁ、気にしているヤツが13歳やそこらで隣国の騎士と共にたった二人で魔王とその直属の兵に挑んで勝って帰ってくるなぞやらないだろう。英雄とは得てして常識はずれ――もしくは常識のない――存在なのであった。
「で、何?」
「ああ、オレ達は大聖堂を見せようと思った。で、セレスは大神官様に呼ばれた……んで良いんだったな?」
「はい……大神官様は中に?」
「ああ、そう言えば人を待つのでここで、って言ってたな。セレスティアだったのか」
セレスティアの言葉にレックスはなるほどと納得を露わにする。というわけで、一同は結婚式の予行演習が終わったばかりで作業の後片付けや改善点の見直しが行われている大聖堂へと入っていくのだった。
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