第3225話 はるかな過去編 ――大聖堂――
『方舟の地』と呼ばれる超古代文明の遺跡に起きた異変解決に尽力し、遂にたどり着いたレジディア王国の王都レジディア。そこで瞬達は表向き異変解決の功績を認められ、王城にてレックスの客人として扱われる事になっていた。
そうして王城に滞在する日々を過ごしていた一同はカイトやレックスと同じく後に八英傑となるアイクやフラウらとの会合。王都レジディアの冒険者を統率するゴルディアスらとの顔合わせを経ながら日々を過ごしていた。そんなある日。レジディア王国からの要請を受けたカイトに誘われて魔物の討伐に乗り出す事になったわけであるが、それも終わった後。彼の申し出により大聖堂に向かう事になっていた。
「そうか……そう言えばいつもは逆方面に移動していたから、こっちは初めてだな」
「今は一般人立ち入り禁止だからな」
王城の城門を通り抜けた先。中庭から王城までの間。いつもならここで王城には向かわず客用に用意されている建物に向かうわけであるが、今回は逆側の大聖堂に向かう形になっていた。
そして大聖堂は現在、結婚式に関するあれやこれやと色々な作業が行われるため、たとえどこかの国の使者でも招かれない限りは立入禁止だった。というわけでそちらに向かう通路に入ると、すぐに衛兵が気が付いた。
「お待ち下さ……マクダウェル卿!」
「おう……確かレックスとベルは今予行演習の真っ只中だったな?」
「はっ! どうぞお通りください!」
どこかの国の使者であれ立ち入り禁止であっても、カイトや四騎士達だけは別枠だ。彼らについては通すように命令が飛んでおり、それは瞬達が一緒でも問題なかったようだ。とはいえ、一応の確認は出された。
「ご友人ですか?」
「そんなものだ……というよりもレックスの客人だ。今回はな」
「今回は?」
「向こうだとオレの客になる」
「ああ、なるほど……」
そんな傑物には見えないが、何か名の有る者なのかもしれない。衛兵は瞬とリィルをまじまじと見ながらそう思う。というわけで衛兵がカイトが向かった事を通信機を用いて伝達する一方。三人は大聖堂に向かう通路へと入らせて貰う。
「こっちは……石畳が敷き詰められているんだな。いや、向こうも通路は石畳が敷き詰められていたが」
「ああ、大聖堂だからな。あっちのお客さん用の中庭と違って、こっちは客を迎える事より静謐さ? そんなのをイメージさせるようにしてるんだろう」
「知らないのか?」
「他国だぞ、ここ。オレがそこらの意味まで知ってるわけないだろ」
大聖堂に向かうまでの道すがら。瞬の問いかけにカイトが笑う。まぁ、彼の言う理由も一部あるのだが、主な理由は防犯上の理由というのが後のレックスの言葉である。
中庭はその性質上客人達が休めるような木陰などが用意されていたわけであるが、その結果どうしても一部には死角が生じてしまう。無論それは衛兵達が巡回する事で消しているわけであるが、ある事は事実。厄介に違いはなかった。とまぁ、それはさておき。三人はそんな見通しの良い中庭を通り抜けていくわけであるが、数分も歩けば大聖堂とやらが見えてきた。
「あれが大聖堂か……」
「神殿都市を思い出しますね」
「ああ、なるほど……あそこの特に大きい神殿はあれぐらい大きかったか」
「神殿都市?」
「ああ。未来のお前が治めている都市の一つで、大精霊達やら各地の神々を祀った神殿がたくさんある都市だ」
「それで神殿都市か……面白いな」
何がどうあって神殿が集まった都市が出来たのかは今のカイトにはわからなかったが、多くの神殿が集まって街が出来ているというのは彼にとって面白かったらしい。少しだけ興味が唆られている様子だった。というわけで、そんな彼が問いかける。
「というか、この規模の神殿がいくつもあるのか?」
「ああ……大精霊達の物でこれが8個ぐらいあったか。この大聖堂みたいなステンドグラスもあったな」
「そうですね……他にも色々と大きな神殿は街全体にありますね」
「そうだな……今更だが、あそこは凄かったな」
「いや……凄いとかそういうの超えてね……?」
何をどう考えてそんな街を一つ作ったのだろうか。カイトは王都レジディアの大聖堂の大きさを知ればこそ、これが片手の指では足りないほどにあるという未来の自分が治める都市の一つに唖然となる。
一応彼もこの戦国乱世が起きる前には統一王朝の中心があった地にある更に大きな聖堂も知っているわけであるが、それとてこの大聖堂より少し大きい程度が一つだ。規模で同等と言われるものが10個単位である都市なぞ見た事も聞いた事もなかった。
「いや、凄いのはどちらかというとあれが全部寄付で作られた、って所か」
「ですね……皆さんビックリされたという事でしたが」
「何があったの!?」
そんな凄まじい都市が全て寄付で作られた。カイトは未来の自分に起きたさらなるびっくり事態に思わず声を大にする。わかろうものではあったが、未来の彼だ。為政者であろうと、そういうとんでもない事態なぞ枚挙に暇がなかった。
というわけでそんな雑談を交えながら更に進むわけであるが、流石に大聖堂の近辺の警戒はレックスの率いる<<赤の騎士団>>が直々に敬語していた。が、そうなるとカイトからは顔見知りしかいなかった。
そうして大聖堂に向けて歩いていく彼らに、騎士ではあるのだろうが陣羽織に似た羽織を西洋物の鎧の上から羽織った騎士がやって来る。
「マクダウェル卿」
「ハヤトか。なんか久しぶりだな」
「ですね……レックス様に御用ですか?」
「いや、あいつの客人を大聖堂に案内してるだけだ。まぁ、ベルにも会わせないといけないんだが……」
「では、彼らが」
カイトの言葉に、ハヤトなる騎士は得心がいったような様子でそちらを見る。彼は一見すると長く艷やかな黒髪をポニーテールに束ね女性と見紛うばかりの美貌を有していた。身に纏う風格もそれに見合った洗練された静謐さを有しており、この大聖堂にはピッタリと言えた。そんな彼を見てカイトがそう言えば、とハヤトを紹介しておく事にする。
「ああ、そうだ。二人にも紹介しておこう。こいつはハヤト。オレと共に二つの騎士団で刀を使うのはこいつぐらいか」
「一応、他にも使う方はいますよ。メインとしては私か卿ぐらいですが」
「あ、ありがとうございます。瞬・一条です」
「ハヤト・グリッターです。お願いします」
どうやら真面目そうな風貌に対して、気さくさのようなものは持っているらしい。カイトの紹介と共に差し出された手へ、瞬が握手を返す。そうして続いてリィルと挨拶を交わした後。ハヤトが口を開いた。
「皆さんのお話は伺っています……マクダウェル卿の……未来のマクダウェル卿のお仲間だとか」
「笑うな」
「あははは……未来の貴方の旅路も楽しそうですね」
「ったく……まぁ、良い。レックスは中か?」
「はい。大神官様と共に、儀式の予行演習をされています。御身であれば通して良いでしょうが……」
「ああ、良いよ良いよ。こっちで待たせてもらう」
流石に結婚式の予行演習を行っている幼馴染達の邪魔をするほど、カイトも野暮ではない。というわけで彼も瞬達も外で見させて貰うだけに留める事にしたようだ。これに、ハヤトが頭を下げた。
「ありがとうございます。そうして頂ければ……ああ、そうだ。そう言えば。殿下の子孫という方がいると伺っていたのですが」
「ああ、セレスか。今回はいないが……それがどうした?」
「いえ……呼びに行かれていたので、一緒かと思っただけです」
「呼ばれた?」
ハヤトの言葉にカイトが小首を傾げる。どうやら聞いてはいなかったらしい。が、これにハヤトは隠す必要もないと教えてくれた。
「はい……大神官様が呼ぶように、と」
「そうか……ああ、もしかしてすぐにこっちに来たのはそれでか?」
「ええ」
「そうか……それならやはりこっちで待っておくか。何か手伝える事があるかもしれんしな」
先にも言われているが、カイトとてレックス達の結婚式を祝福したい気持ちはある。というわけで彼らの役に立つのなら、骨を折る事は厭わなかった。そうして、一同は大聖堂に入れない事もありそのままそこでハヤトと共にセレスティアを待つ事にするのだった。
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