表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3241/3940

第3223話 はるかな過去編 ――成長――

 『方舟の地』と呼ばれる超古代文明の遺跡で起きた異変を解決し、遂にたどり着いたセレスティアの故国レジディア王国の王都レジディア。そこではレックスの結婚式に向け、王都全域がお祭り騒ぎの状況だった。

 様々な国や地域からの使者達が押し寄せる中、瞬達はレックスの客人として王城にて結婚式までの日々を過ごす事になっていた。そんな中で後に八英傑となる人魚族の青年アイクや王都レジディアの冒険者を統括するゴルディアスという冒険者にして騎士という稀有な経歴を持つ戦士らとの会合を重ねていた。

 そんな瞬がゴルディアスの要請を受ける形で訪れた王城の一角にある倉庫で出会ったのは、『銀の山』を治めるドワーフ達の長の娘にして、カイトやレックスと同じく後に八英傑と呼ばれる八人の英雄の一人となるフラウというドワーフの少女であった。

 そんな彼女から自身の相棒たる<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>の発展性を聞かされた彼はフラウがソラ達の武器のチェックを行ってくれている傍ら倉庫の一角を間借りして、<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を手にしていた。


「……」


 <<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>はまだまだ成長する。フラウの言葉を思い出し、瞬は<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>へと魔力を通わせる。そうして数度深呼吸をした後、彼は<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を振るう。


「ふっ! はっ!」


 魔力を通わせるだけで迸る濃密な殺意。それは持ち主さえ喰い殺さんとする禍々しい力だ。が、この魔槍を手に瞬の師匠クー・フーリンは、そのまた師匠のスカサハは飼い慣らして何百もの猛者を、何万もの魔物を屠ってきたのだ。三代目たる自身が負けるわけにはいかない、という気合が漲っていた。

 そしてそれは彼の師たるクー・フーリンも似たような気概を持っており、そうであるが故に<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>も服従していたのである。そうして<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を振るう瞬の脳裏に浮かぶのは、クー・フーリンとスカサハの師弟との会話だった。


『そうか。そいつを飼いならそうとするか』


 こいつは面白い男を弟子にしたな。スカサハは稽古を終えて紹介された孫弟子に対して機嫌よく笑う。今まで自身の鍛錬にしか興味のなかった自分の弟子(クー・フーリン)が自身に紹介した孫弟子だ。どういう人物だろうかと思ってみれば真面目な人物で少し拍子抜けしていたのだが、<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を手にした経緯を聞いて一転上機嫌になったのだ。


『瞬よ。其奴は間違いなく魔槍……今もお主を喰い殺さんとする力を放っておろう。師の師として、一応は言っておいてやろう。それはバカ弟子一号の言うように、本来はお主が手にするべきものではない。いや、本来は如何な戦士であれ手にするべきものではない』


 <<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>の大本となる<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>は勿論魔槍だ。スカサハの名も相まってそれを手にしようとして、逆にその魔に飲み込まれ命を落とした者なぞ枚挙に暇がない。スカサハが思い起こすのは、そんな無数の愚か者達だ。そしてだからこそ、スカサハは自らの孫弟子に問いかける。


『それでも、それを手にするか?』

『はい』

『良し! よう言うた!』


 それでも、この孫弟子はそれに臆せず<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を手にするという。愚者か、勇者か。それは後の歴史が証明する事だが、それでも勇者たらんとするその姿勢は評価に値した。というわけで無駄な言葉もなくただはっきりと魔槍を飼い慣らす気概を見せる瞬に、スカサハは上機嫌だった。


(こいつはまだまだ成長する……成長したこいつがどういう果てを見せるか。それはわからんが……)


 少なくとも<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>同様に解き放つだけで人を殺せる魔槍にはなるのだろう。瞬は自身の返答に気を良くしたスカサハが<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>の真価の一端を見せてくれた時の事を思い出す。


(魔槍……持ち主さえ喰らう武器、か)


 ふっ、ふっと振るいながら、瞬は<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>に思い馳せる。そうして彼は自らを喰い殺そうとする殺意に対して、敢えて身を委ねてみる事にする。


「ぐっ!」


 こんなものを常人が受ければ間違いなく悶死するだろう。そんな濃密な殺意を一身に受け、瞬の顔が苦痛に歪む。が、それに瞬は気合を入れて押し戻す。


「はぁ! ふぅ……」


 脂汗と共に浮かぶのは、獰猛な戦士の笑み。強敵に打ち勝った時に浮かぶ猛者の笑みだ。


(お前に負けるつもりはない)


 自身を飲み込もうとして飲み込めなかった<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>に対して、瞬はまるで言い聞かせるように内心でそう告げる。

 それに応ずるように<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>が僅かに赤く輝いたように見えるのは、気の所為ではなかっただろう。そうして改めて服従させた<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を、瞬は振る。


「……ふっ!」

「ほぉ……前々からそうではないかと思っていたが、真面目一辺倒な男ではなかったか」

「グレイスさん? それにライムさんも……」


 いつの間に倉庫に来ていたのだろうか。瞬は自身に対して楽しげな笑みを見せるグレイスと、一見興味なさそうにしながらもどこか探るような視線を向けるライムに僅かに驚いた様子を見せる。どうやら瞬は<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>に意識を取られ、倉庫の扉が開いた事に気付かなかったらしい。


「魔槍か。面白い物を持つな」

「わかりますか?」

「ああ……グレイス。魔剣使いのお前としては、どう思う?」


 どうやらライムの使う短剣は魔剣の類だったらしい。ライムと戦った事もその戦闘を近くで見た事もなかった瞬が驚きを露わにする。これにライムはため息を吐いた。


「そうペラペラと人の武器を明かさないでよ……まだまだひよこね。方向性が定まっていない。ただ人を殺そうとする意思だけがあるだけよ」

「方向性ですか?」

「そう……貴方も知っているでしょうけど、長く使われた武器には意思が宿る。まぁ、これは正確にはある程度の強さを有した武器には、という事なのだけど。それは良い?」

「それは勿論知っています」


 ライムの語った話は武器に関する基礎的な知識だ。なので瞬も改めて説明されるまでもなく知っていた。というわけでどこかきちんとわかっているか言ってみろ、という様子のライムに瞬が何故そう言われるかを説明する。


「長く使われた武器にはその分、膨大な魔力が長い時間に渡って流される事になる。そして魔力とは意思の力。膨大な魔力が長い時間宿る事で武器自体に残留し、それが武器の意思になる……ですね」

「そういうことね。最初から強大な力を持つ武器はこの過程をすっ飛ばして十分な力を宿している。それで意思の片鱗のような物を宿すというわけね」


 生まれながらに魔槍と呼ばれる<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>はこのライムが語る最初から強大な力を持つ武器に該当するだろう。


「でもそれはまだひよこの状態。貴方もわかるでしょうけど、単なる力というのは存外弱いものよ。ただ殺そうとするのか、特定の形を以って殺そうとするのか。持ち主さえ喰い殺さんとする意思はあれ、どう殺すかが定まっていない」


 シャッ。ライムは自身の腰に帯びる短剣を抜き放つ。それは青白い刀身を持つ短剣で、まるで氷そのものが刃となったかのようであった。それに彼女が魔力を通すと、ただそれだけで周囲には極寒地獄を思わせる力が漂い出す。


「こういうように、殺す形が定まればもう一段上というわけよ。貴方のそれにはまだこういう形が無い」

「どうすれば、そうなりますかね」

「こればかりは私にはなんとも言えないわ。貴方が導くか、自然に任せるか……貴方が選びなさいな」

「導く……そういうことも出来るんですか?」

「従うかどうかは、その槍次第よ。私にはなんとも言えない」


 瞬の問いかけに対して、ライムは再度同じ言葉を繰り返す。そんな彼女は一応、魔剣使いとして瞬に助言を与えてくれた。


「ま、私が言える事は魔剣や魔槍とはいえ私達使い手にとっては単なる武器。他の武器と同じく心を通わせなさい、という事ぐらいね。魔剣や魔槍を使うにしても、よ。いえ、そうなればこそね」

「……はい」


 どうあれ<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を使うと決めたのは瞬自身だ。ならば臆せず普通の武器のように『対話』し、飼い慣らすしかなかった。というわけで助言をくれたライムであったが、当然助言をくれるためにこちらに来たのではない。


「二人共、待たせた」

「いや、面白い物を見れたので問題ない」

「別に面白くもなかったけど」

「そう言うな。暇は潰れただろう」

「それはそうね」


 グレイスの言葉にライムも同意する。なにはどうあれ、暇つぶしにはなったようだ。そんな彼女に、カイトが笑う。


「そうか……っと、瞬。悪いがオレは一度出る」

「わかった……何かあったのか?」

「レジディア王国軍のおえらいさんが挨拶したいんだとよ。すぐに戻るよ。ノワもフラウも居るし、まだ報告受けてる途中だったしな」


 瞬の問いかけに、カイトは少しだけ辟易したような様子で肩を竦める。やはりシンフォニア王国でも有数の騎士団の騎士団長だ。レックスより忙しくないというだけで、忙しい事に違いはなかった。

 というわけでカイト達は一旦外に出て、残る瞬は改めて<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>を飼い慣らすべく修練に励む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ