第3217話 はるかな過去編 ――城下町――
『方舟の地』での一件を終えてたどり着いたセレスティアの故国レジディア王国が王都レジディア。そこでソラ達はひとまずは客人として過ごす事になっていた。というわけで後にカイトと同じく八英傑の一角として名を残すアイクとの出会いを経て更に数日。
一同は『銀の山』の守護竜と呼ばれる超巨大な白銀の地竜とその背に乗るこちらもまた後の八英傑の一角フラウの姿を目撃。その場ではまだ遠かったため、遠目に見るに留まっていた。そうして更に数日後。一同は日に日に高まるお祭り騒ぎを遠目に見つつ、いつもとは違う格好のカイトの来訪を受けていた。
「お前は暇なのか? 割りと頻繁に来ているみたいだが」
「今回、オレは護衛の総隊長ってだけだからな。まぁ、軍部との打ち合わせが無いわけじゃないけど……もっぱらメインは姫様の横に控えている事が多い。下手したらグレイスとかライムとかより会合に出ていないかもな」
レックスに比べ顔を見せる回数の多いカイトであるが、立場を考えても彼の方が忙しくなくて当然ではあるだろう。特に今回はロレインが名代として来ているため、政治的・軍事的に彼女が主軸として話が出来る。殊更彼が動かねばならない理由は少なかった。
「そのヒメアさんは大丈夫なのか? お前、本来は護衛騎士なんだろう?」
「護衛じゃなくて専属。忠誠を国家や陛下ではなく、姫様に捧げる騎士だな。だから陛下より姫様がすべてにおいて優先される……はずなんだがなぁ。特例的に兼任で騎士団長なんぞやってるわけで」
「そうだったな」
流石に国家存亡の状況で王国最強と名高い騎士を遊ばせておく事は出来ないため<<青の騎士団>>騎士団長となっているが、この騎士団とて戦時で臨時編成された部隊だ。本来の彼の仕事はヒメアの護衛なのであった。というわけでそんな指摘に瞬が笑うが、そこでふと気になった事を問いかける。
「特例的に兼任という事は本来兼任は出来ないのか?」
「そりゃそうだろ。専属、ってのはそのための騎士だぞ? それが別の仕事を兼任してちゃ専属でもなんでもない……まぁ、そんな事を言っちまうと四騎士達だって本来はそれぞれの騎士団の騎士団長。兼任っちゃ兼任になっちまうんだけどさ」
「だろうな」
何を当たり前な。カイトの指摘に瞬は思わず苦笑する。色々と特例だらけと言われるカイトだ。ここでも特例が適用されてしまっていたようだ。
「そう言えば四騎士の騎士団は解体されているわけじゃないのか?」
「してるわけじゃないんだな、これが」
瞬の再度の問いかけに、カイトが楽しげに笑う。ここらはやはり色々とあるらしかった。
「解体しちまうと各騎士団を別個に動かす事が出来なくなるからな……ま、ここらは建前とか色々と、ってわけ」
「そうか……で、そろそろ一つ良いか?」
「ん?」
「その服装は……どうしたんだ?」
いつものカイトであるが、やはり彼は王国の騎士として上物の服を着ていた。が、今日の彼は市井の若者が切る平服に身を包んでおり、いつもとは少しだけ様子が異なっていた。
「ああ、これか。ちょっと所要で城下町に出ようと思っててな。流石にあの服だと動きにくいし、目立っちまう」
「それはそうだろうが……持っていたんだな、そういう安めの服」
「ああ……あると便利だしな。まぁ、王都だともう顔でバレちまってるから今更感が強いんだけど」
「あっちでも着てたのか?」
「時々はな……あんまり目立ちたくない時には着てる。さっき言った通り、もう殆ど意味もないんだけど」
ということは俺達が外で見ていたのは別に見付かっても問題ないと考えられた時ばかりだったというわけか。瞬は半ば苦笑するように笑うカイトに、当たり前といえば当たり前な事を理解する。
「ということは今回も目立ちたくない……というわけか」
「そうだな。まだ王都レジディアだと王都シンフォニアよりは顔バレしない……と、思いたい」
「結局はか」
「そうなのよね。結局十数年年に何十回どころか百回以上来てると結局顔も覚えられちまう」
仕方がないとは思うが、それでもそれはそれでどうなのだろうかと思わないでもない。ため息混じりに呆れるカイトは瞬の言葉にそう口にする。と、そんな彼であったがすぐに気を取り直す。
「っと、そうだ。あぶねあぶね……この服で来たの、別に何も暇だからとかそういうんじゃない。ちょっと話があってな」
「そうだったのか……全員集めた方が良いか? 何人かは出てるんだが」
「いや、瞬だけでも良いし、必要があればソラでもセレスでも良いよ」
「? 私ですか?」
唐突に水を向けられ、セレスティアがこちらを向く。なお、同じく俎上に載せられたソラであるが彼は現在イミナに案内して貰って由利、ナナミと共に王城の図書室へと赴いている。
先に話していた未来で起きる幾つかの事件に対する対策を練るべく、情報を集めに行ったのだ。さりとて全員抜けるわけにもいかないので瞬達は残っていた、というわけであった。イミナが案内役だったのは軍事の側面も強かったからであった。
「ああ……この間おやっさんから連絡があってな。こっちの冒険者ギルドの支部に話を通してやっておいた、って」
「そうだったのか……そう言えばおやっさんとも会えていないな」
これは仕方がない事だったのであるが、瞬達は先の『方舟の地』の一件とレジディア王国側の思惑があってレジディア王城にて宿泊させて貰っている。なので外の宿屋に泊まるおやっさん達とは『方舟の地』に向かう旅路で別れて以来会えていなかった。
「そうか……まぁ、おやっさん達なら元気にやってるよ。支部が違うがこっちの依頼も受けられるからな。派手にやっちまうと縄張り争いになっちまうから、そこはそれだが……レジディア王国に来ている商隊の護衛とか請け負ったりしてるみたいだ」
「なるほどな……」
シンフォニア王国からの商隊でまたシンフォニア王国に戻るのであれば、こちらの冒険者達の縄張りはそこまで影響無いだろう。瞬はそう思うし、実際そうなのだろう。と、そんな彼にカイトが事情を説明する。
「それはそれとして。そういうわけで本来ならおやっさんが間に立てればよかったんだが……ちょっとおやっさんの方が請け負ってる仕事で動けなくなっちまったらしくてな。オレに頼めないか、って話があったんだよ」
「それはこちらとしては有り難いが……良いのか?」
「オレとしてもこっちの支部の連中と話はしておきたかったからな。姫様から許可も貰ってる」
何度も言われているが、カイトもレジディア王国には足繁く通っており、必要に応じてこちらの冒険者達と協力する事も少なくない。なので連携を取るために色々と調整は欠かせず、おやっさんの申し出を渡りに船と請け負う事にしたようだ。
「そうか……なら俺が行こう。セレスティアはどうする?」
「そうですね……」
「私が残りますので、行かれては?」
「……そうさせて頂きます」
どうするべきか。少し悩みを見せたセレスティアであったが、リィルの気遣いを有り難く受け入れる事にさせて貰ったようだ。彼女にとってここは故国。戦時中の王城とあり出入りが制限されているのであまり出ないようにはしていたが、折角なので見てみたいという想いはあった。
「そうか……じゃあ、準備したら声を掛けてくれ。あまり遠くはないが、少し歩くからな」
「わかった」
「わかりました」
カイトの言葉に二人が同意する。というわけで、二人は急いで準備をしてカイトと共に王城を後にする事になるのだった。
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