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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第3205話 はるかな過去編 ――魔王と魔界――

 『方舟の地』と呼ばれるセレスティア達の世界に存在している超古代文明の遺跡。セレスティアの故国であるレジディア王国に到着すると共にそこに起きた異変の解決に協力する事になっていたソラ達であるが、それもひとまずは解決した事で一同は王都レジディアへと足を踏み入れていた。

 そうして遂にたどり着いた王都レジディアであるが、そこは所謂水の都と呼ばれる水がふんだんに使われた都であった。そんな王都レジディアにてレックスの結婚式まで一休みとなった一同であったが、その前にレックスの父レイマールに呼ばれソラと瞬はセレスティアらこの世界の二人と共に謁見の間に入っていた。というわけで実務的な話として魔界に関する話をセレスティアがする傍ら、ソラはかつて未来のカイトから聞いた話を思い出していた。


『ん? 魔王と魔界?』

『ああ……ほら。こういう異世界だと、よく勇者とか魔王とかぶっちゃけるとよくある話だろ? いや、そりゃまぁお前が勇者でティナちゃんが魔王って時点でよくある話ってなにそれ状態だけどさ』

『ま、そうだな』


 少なくともエネフィアには現在までの所、魔界と呼ばれる世界があるとは言われていない。そして魔王という存在もカイトも単なる役職と断言していた。


(今にして思えば、あいつがこの世界の記憶があるってんなら本当に魔王も勇者も単に人が与えた称号ってだけに過ぎないんだろうな)


 勇者。ソラの友人は二つの世界でそう呼ばれた男だ。そしてその彼には、一部この世界の記憶もあるのだという。ならばこの世界には本当に存在しているという魔界について知らないはずがなかったし、この時敢えて素知らぬ顔をしていたのは単に更に別世界の記憶を保有している事などを明かしたくなかったからだとソラには思えた。というわけで、その時のカイトの話をソラは改めて思い出す。


『前にも言ったが、魔王ってのは単に魔族の王様っていう称号だ。世界が魔王に特別な力を与える事なんてない……そんな事が許されるのならそれと対になる勇者だって特別な力を与えられた者になるだろう。そうなりゃなんでもありだ』

『少なくとも世界はそんな事はしない、って事か』

『盛大なマッチポンプだぞ? しかも周囲を大きく巻き込んでな……ま、もし何かそういう事をするのなら、何かの意図はあるだろう。その意図はその世界の住人達に不利益になるとも思えん』

『そりゃそうか……世界に意思があるなら、普通に考えりゃ自分に不利益になるような事なんてしないはずだもんな』

『そういうこと』


 その世界が考える不利益が決して人類の不利益とイコールかどうかはまた別の話だけどな。カイトがそう思っていた事を、この時のソラが知る由もない。とはいえ、少なくとも世界側は勇者や魔王に力を与えて意図的に生み出す存在ではないとソラは認識する。


『で、その上で言えば魔界という空間は存在しても不思議はないだろうな』

『どういうことだ?』

『この世界……いや、このエネフィアという星かもしれんが。どうにせよこのエネフィアに魔界は存在しない、というだけだ』

『いや、だからどういうことなんだって』


 エネフィアに存在していないだけで魔界が存在していて不思議はない。そう断じられる理由が理解出来ず、ソラが問いかける。これにカイトは今セレスティアが語っている内容と同じ内容を口にする。


『魔界ってのは異空間の一つに過ぎない……それがオレというかティナというかの推論だ。当たり前過ぎるんだが』

『なんで?』

『じゃあ一つ質問だ。エネフィアに魔界があった場合、エネフィアの魔界と地球の魔界は一緒か? 更に言えば更に別の世界にも魔界があった場合、この魔界と先の二つの魔界は同一か?』

『いや、一緒なわけないだろ。もし一緒なら魔界ってのは全部の世界に繋がって……あ、そっか』


 カイトの指摘に対しての考察を口にしたソラであるが、そこで彼もまた異世界ではなく異空間なのだという推論にたどり着いたようだ。というわけで、そこに気付いたソラにカイトが笑いながらソラの気付いた点に言及する。


『全部の世界に繋がる世界なんておおよそ存在すると思えない。となると、魔界という世界はそれぞれの世界、ないし星に付随する空間……俗に言う異空間と考えられるわけだ』

『ってことはエルフ達の空間と一緒、ってわけか』

『そういうことだな。そこにエルフ達がいるからエルフ達の国。魔族達がいれば魔界……そんなだけの話だ。それこそエルフ達の国を滅ぼして魔族達が移住して、ものすごい長い時が経過すればエルフ達の国じゃなくて魔界になっても不思議はないだろうな』

『そりゃ確かに……いっそ魔界ってのも単に人が名付けた異空間の名前って考えても良いのか』

『お……良い所に気付いたな。そう考えて良い。だからエルフ達の国を魔界と呼んでも問題はないし、極論すると高天原を魔界と呼んでも良い。他者にそれが通じるか通じないかはまた別の問題だ』


 単に魔界と呼び表すのが一番妥当だからそう呼ばれているだけ。魔界に対する意味合いに対して、カイトはそう述べる。そうしてそんな彼が話を元に戻す。


『じゃあ、それを治める長としての魔王の名に特別な意味が存在するか? それを打ち倒す勇者の名に特別な意味が存在するか? そう聞かれれば自ずと答えは出るだろう……勿論、その魔界という空間が特殊な空間でとか、勇者の為してもらう行為が必要とか、世界が守護するだけの必要性があるならまた別の話になってくるがな』

『それを考え始めりゃなんでもありになっちまう、って最初の言葉か』

『そういうこと。勇者も魔王も、それこそ神官だろうと盗賊だろうと人の与えた名だ。そこに特別な力なんてないよ……勿論、心持ちが影響する事は否定はせんがな』


 全く力がないかと言われればそれもまた否だが。カイトはソラの言葉にそう口にする。が、これはあくまでもその称号に掛けられた願いや想いに対して思い馳せられる者が得られるものだ。何ら一切斟酌しないのであれば、やはり称号には何ら意味がないと断じて良いだろう。


(結局どれだけヤバいと思えても単なる魔族を統率する王様というだけに過ぎない、ってわけか)


 カイトとレックスさん二人が頑張ってもまだ届かないのか。一体全体強さってのはどこまで先があるんだろうな。ソラは魔界や魔王、勇者の意味を思い出しながら、小さくため息を吐いた。と、そんな様子をどうやらレックスは見ていたらしい。


「どした?」

「え? あ、いや……すみません……ちょっと」

「ふーん……お前がこういう場で別の事を考えるとも思えないな。何か今の話に関係ある事なのか?」

「あー……えっと……」


 どうしたものだろう。ソラは存外というか当たり前かもしれないが目ざとかったレックスの追求に対して、どうするか悩む。とはいえ、ここで逃れるのも少し無理があると彼は判断したようだ。正直に今彼が思い出していた事を説明する。それを聞いて、レックスが嘆息して首を振った。


「なるほど……本当にお前、知性抜群って感じになってるんだな」

「うるせぇよ……失礼致しました」

「はははは。構わん構わん。今更取り繕う必要のある場でもなければ、そういう者たちでもあるまい」


 カイトの謝罪に対してレイマールは笑いながら不問に付す。とはいえ、レックスが得た結論については彼も同意だったようだ。


「とはいえ……なるほど。所詮魔王は単なる称号に過ぎぬか。未来のカイトが言うのならば、それは然りであるのだろうな」


 未来の世界にセレスティア達が存在し、再度魔族の侵略を受けている以上この世界で勝つ事は事実なのだ。それを考えれば、レイマールとしても魔王は単なる称号に過ぎないと言われた方が有り難かった。


「どれだけ強かろうと、どれだけ知略の優れた相手であろうと、結局は魔族の長というだけか。ならば勝ち目はある……くっ。当たり前な話であったか」


 あまりに強大で、あまりに知略に優れている。いっそこれが世界が選んだ世界を滅ぼすための存在である、と言われた方がレイマールには素直に信じられた。

 が、現実としてはそんな倒しようのない相手ではなく、単に魔族の長というだけなのだ。そしてそれは未来の世界にセレスティア、即ちレジディア王家の王女が存在する以上事実に他ならない。そんな当たり前といえば当たり前な事実を改めて理解して、彼は思わず気弱になっていた自身を理解したようだ。


「勝てるのであれば、勝つしかあるまいな。いっそ、勝てぬ相手と諦めさせてくれればよかったのだが」

「そうなのでしょう……が、そうはならなかった。そうはならなかったのです。そして、我らもまたそうは致しません。させはしません」

「「「……」」」


 これはいよいよ情けない姿を晒すわけにはいかなくなったぞ。レイマール然り、二人の英雄然り。セレスティアが語る彼女にとっての過去の事実に、改めて気を引き締める。

 勝てないのではないか。そう思えるほどに強大な相手でも、未来で勝てたというのだ。ならば、どれだけ苦しい戦いになろうと諦めずに勝つしか三人に残された手はなかった。というわけで未来の世界でも負けず戦うと誓う未来の自分の子孫に、レイマールが深く頭を下げた。


「うむ……ありがとう。先程の魔界に関する話より何より、この話が一番我らのためになった。未来にセレスティア。君のような子がいるのであれば、我らがここで諦めるわけにはいかん。負けるわけにもな……二人も良いな? 必ず勝ってみせよ」

「「御意」」


 レイマールの言葉に、カイトとレックスの二人が頭を垂れる。そうして少しだけ話が横道に逸れる事になってしまったものの、レイマールとの謁見は概ね成功という形で終わりを告げる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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