第3202話 はるかな過去編 ――水の都――
『方舟の地』と呼ばれるセレスティア達の世界に存在する超古代文明の遺跡。そこに起きた異変の解決に協力する事になったソラ達であったが、それも一段落して今度は当初の予定通りレジディア王国の王都レジディアへ赴く事になっていた。
というわけでレックスの案内を受け王都レジディアにたどり着いた一同を待っていたのは、カイトの幼馴染の一人にして海にて大艦隊を率いている――正確には後にであるが――というアイクの乗る超巨大な木造の戦艦であった。そうして木造の戦艦を見ながら王都レジディア入りした一同であるが、その日はひとまず休みとなっていた。
「なんていうか……やっぱり国によって特徴ってのがあるんだな」
「そうですね……肥沃な大地を抱えるシンフォニア王国。豊富な水産資源を抱えるレジディア王国……その土地土地によって特色は異なります」
ソラのつぶやきに、久方ぶりに帰ってきた実家とでも言うべきレジディア王国の王城の外を眺めていたセレスティアが改めてそれぞれの特色を口にする。それにソラもまた同意する。
「そうだよな……ご飯とかもこっち魚メインって感じがするし」
「あはは……そうですね。やはりレジディア王国の街は川沿いに面している事が多い。この王都レジディア然り、ですね」
「街中にも水が走ってるんだもんなぁ……」
川沿いに面した王都レジディアであるが、それ故にか街の至る所に川から引き込んだ水を用いた水路が見受けられていた。中には遊覧船のような小型の船が行き交う様子も見て取れており、至る所で水路が活用されている様子だった。
「ええ。この街は別名水都とも呼ばれており、古くから水とは密接な関わりがあると言われております」
「へー……」
「水を使う四騎士の人とかいそうだな」
「居ますよ、実際に……先の調査では来られていなかった様子ですが」
瞬のつぶやきに、セレスティアが笑ってそう告げる。これに瞬がやはり、という様子だった。
「やはりか……これだけ水の魔力が豊富だと相当凄い事が出来そうだな」
「そうですね……おそらく今回の調査に来られなかったのは、それ故でしょう。『方舟の地』に異変が、となるとどういう事が起きるかわからない。大結界を展開するために残られていたのではと」
「「大結界?」」
何か聞き慣れない単語が唐突に出てきたぞ。セレスティアの言葉にソラと瞬が思わず振り向く。これに、セレスティアはしまったという顔を浮かべた。
「あ……ごめんなさい。そうですよね、ご存知無いですよね。大結界……水の大結界は王都レジディア全域を守る巨大な守りです。あまりに巨大過ぎて常時は展開出来ませんが……」
「そんなのがあるのか……で、それを何時でも展開できるようにするために残っていたと」
「そうではないかと」
意識してではないだろうが、セレスティアの視線が王都レジディアの真横を流れる大河の方を向く。この水の大結界だが、彼女曰くこの大河の水を利用して展開されるものらしかった。
「あの結界は私達の時代でも年に数回、メンテナンスのために展開されていますが……あれは見事なものです。おかしな話かもしれませんが、あれの展開に合わせて屋台などが出たりするほどでした」
「結界の展開なのに?」
「ええ。それは優美で美しいものでしたから」
どうやら件の水の大結界とやらは秘匿されているものではなく、広く周知されているものだったらしい。先のセレスティアのしまったという顔は、単にレジディア王国の民にとって一般常識過ぎて説明を省いてしまっていたというだけの事らしかった。と、そんな所に。耳慣れた声が響いた。
「へー……あれが観光名所化か。確かに良いな……戦い終わったら話してみるか」
「レックス様?」
「あははは。何故ここに、ってのはなし。ここは俺の家だぜ? 後一応ノックはしたぞ。開けてもらったし……ま、それで言えばセレスティアちゃんもここが実家か」
驚いた様子のセレスティアに、レックスが楽しげに笑う。どうやら話している所にノックがあったため、ナナミが開けてくれていたらしい。
「は、はぁ……それでどうされました?」
「用事だよ。父上が君とイミナに是非一度会いたいってな。後はソラか瞬か……誰でも良いけど一人二人連れてこいって」
「レイマール陛下が?」
「そ……ま、俺達にとっちゃ正真正銘直系の子孫だ。気になっても無理はないだろ? 特に『方舟の地』への出入りが出来た以上、レジディア王家の王族ってのは確定だ。それがわかった以上、気になるのさ。後はまぁ、他に関しては単なる確認とかそういう所かな」
確かに懇意にしているとはいえ他国のシンフォニア王国でさえ興味を持つのだ。自国の事であるレジディア王家が興味を持ったとしても不思議はなかっただろう。そして祖先が会いたいと望むのであれば、セレスティアに否やはなかった。というわけでレックスの問いかけに彼女は二つ返事で承諾を示した。
「わかりました。何時ですか?」
「今すぐだ。といっても流石に支度があるだろうから少しは待つよ。あははは……帰って速攻言われてな。遣いを走らせるかと思ったけど、カイトも連れてきてくれって頼まれたんでな」
「カイト様も?」
「ああ……あいつは俺達親子のお気に入り、ってやつさ」
楽しげに笑いながら、レックスはそう嘯く。まぁ、それについては先程の帰還の際にレイマールが楽しげにカイトに声を掛けていた事を見ても明らかだっただろう。
「ま、そういうわけだからそこまで堅苦しく考えなくて良い。特にウチの父上は父上であの通り堅苦しいのは好きじゃない。動いてる方が気が休まる、って輩だ。一応立場は弁えて前線に立つ事は少ないけどな。シンフォニアのアルヴァ陛下と同等には強いぞ……いや、どっちも王様としてはおかしいんだけどさ」
そもそもロレインの時点で相当な強さを持っているのだ。その彼女に最高指揮官を任せず自身が出る事もあるというアルヴァが弱いわけがなかったのであるが、どうやらこのレジディア王国の王様もまた同等には強かったらしい。
まぁ、その二人に加えレックス、先代のマクダウェル卿が揃っていて這々の体で逃げ帰るしかなかったというこの戦乱の発端となった事件がどれほどの物か、というのは察するに余りあっただろう。
「いえ……それで言えば御身はもっとおかしいのでは?」
「あれ? ま、まー、今の俺は王様じゃなくて英雄って事で一つ」
あはははは。セレスティアの指摘にレックスが確かに、と思わず吹き出しつつも照れくさそうに笑う。確かにレイマール達の強さも確かかもしれないが、それでもレックスやカイトには程遠いのだ。しかもレックスの場合は王太子。次期国王である。確かにどの口が言うか、であった。
「ま、良いや。とりあえずそういう事だから、確かに伝えたからな。俺はこれから一度カイトの所に行ってくるから、戻ってくるまでに用意しておいてくれ」
「はい」
そもそも用意と言えるほどの事はないが、セレスティア達以外に誰が行くかなど考えたりする必要はあった。というわけで一同はレックスが部屋を後にするのを見送って、誰が行くかやレイマールの性格などをセレスティアから軽く聞いておく事にして謁見に備える事になるのだった。。
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